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最近、個人的に好きな作家さんの新作を読む!

砂村かいりさんの『苺飴には毒がある』を読了しました!前作『黒蝶貝のピアス』を読んで、めちゃくちゃ作風が好きになった作家さんの新作とのことで、発売前から楽しみに待っていました。

私は砂村さんの登場人物の言葉をを通して、世の中への疑問・怒りを訴えるような作風が好きです。今作は高校時代の友達付き合いを軸に、今の世の中に潜む弱みと希望も描かれていました。これまで読んだ既刊とは違う青春ものというのもあり、今作は砂村さんの読者層がより広まりそうな作品になる予感がします!

『苺飴には毒がある』感想

今作の主人公・寿美子の幼なじみのれいちゃんは、他人の悪口やゴシップに頼って誰かとつながろうとする人物でした。はじめはれいちゃんが吐く毒を受け入れていた寿美子ですが、次第に幼なじみの普段の言動に疑問を感じ出します。

学生時代って特に誰かとつながっていないと恥ずかしいと感じる時期だと思います。その中で他者の心を刺激するネガティブな話題もコミュニケーションにおいて時には必要なのかもしれません。もしかすると「他人事ではない」と感じる人もいるかと思います。今作における寿美子とれいちゃんの関係性は、底なし沼にズブズブと沈んでいくような感覚でした。

そんな中で身近な存在とはいえ、れいちゃんの言動に対する違和感に気付き、更には今までの怒りを本人に直接吐き出した寿美子の選択は英断だったと思いました。

れいちゃんとはあまり関わらなくなった一方、寿美子には栞という新たな友達ができ、栞とのつながりの方が寿美子にとって本当に居心地の良い相手のように私は感じられました。

作中にて寿美子の周りの人間関係や、厳しい校則の話題から「同調圧力」という風潮について触れていた箇所があり、今作を象徴するテーマとしてとても印象深かったです。

寿美子の回想という形で物語が描かれるので20年ほど前の話にはなるものの、同調圧力が根強く残る社会の風潮は今も昔も変わらないと実感しました。効果があるのか不明なルール、友達作りに対する価値観は時代と共にこれから変わっていくのかもしれないなと予感しました。私も寿美子と栞が築いたようなじわじわと心地の良い友情を大切にしたいです。

また、寿美子の視点では悪者のように描かれているれいちゃんですが、彼女が日常的にネガティブな話題を振りまいていたのには、小学生の時に父親を亡くした悲しみと、寿美子をはじめとする身近な同級生への羨望が関わっていたことが次第に判明します。れいちゃんの視点からすれば、(実際に問題はいろいろあるけれど)両親と姉に恵まれている寿美子の家族構成は特に羨ましく見えたように感じます。

寿美子の怒りが効いたのかどうかはわからないけど、れいちゃんがこれまでの寿美子への罪を告白するシーンは、今まで2人を縛り付けていたものがすっきりと解けたかのような瞬間でした。

また、栞の兄・累さんは寿美子かられいちゃんの性格を聞いて、「自分の人生を生きてないよ。亡霊と一緒だよ」と意見を述べていました。果たして寿美子への罪を告白したことでれいちゃんは、「亡霊」だった自分とお別れすることができたのでしょうか?

今作のラストにて、寿美子がちらっと現在のれいちゃんと再会する様子が描かれていましたが、寿美子にとってれいちゃんは過去の存在だからあれから彼女がどうなったのかは知らなくていいことなのかもね…と察しました。でも、読者としてはれいちゃんなりの幸せは掴んでいてほしいと願います。

れいちゃんが持ち歩く苺飴のように甘い毒々しさが描き出すこの物語は、居心地の悪い友情に悩む人、あるいは現代社会へ向けた「薬」なのかもしれません。まだまだ周りのルールに縛られがちな今の世の中に強く刺さる、砂村さんらしいアプローチの青春物語でした。

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