トヨタは似合わないんだ


先日久々に家族揃って出かけた。

伏見の大手筋商店街をぶらつくことにしたのだが、人で賑わうアットホームな場所に、グラサン姿の夫だけ妙に浮いている。普通の家族連れが多い場所は、夫はことごとく浮くのである。

グラサンの奥の目が、すでに「早くここから出よう」と言っている。商店街から程近くに寺田屋があるが、まさかそこへ行こうなんていう雰囲気にもならない。
突然息子が、「モスバーガーに行きたい!」と、モスを指差した。

モスのおもちゃをもらって喜ぶ息子と、モスバーガーをかじる、夫。
グラサンの奥の目は、「これ食ったら早く帰りたい」と言っている。

奇妙すぎる光景に、わたしは無言でハンバーガーを頬張った。

そのあと車屋へ向かった。
我が家の愛車、キズヘコミ多数、走行距離10万を超えたウイングロードを買い換えるため、市場調査に行ったのである。同じステーションワゴンタイプのカローラフィルダーを発見した。

しかし、夫がカローラの前に立つと、また奇妙な空気になった。なんでこんな違和感を感じるのだろう?と考えると、夫はトヨタの車が、まるで似合わないことに気づいた。

こんなにトヨタが似合わない人がいるのかと、初めて知った。きっと、ホンダはもっと似合わなそうだと思った。

夫が似合うのは、日産か、ちょっといかつめの外車といった具合だ。お店の人と少し話して、後にした。

車屋近くに遊具がある広い公園があり、息子がそこへ行きたいと言った。大きな滑り台があり、近所の子供もたくさんおり、息子も大変はしゃいで喜んでいる。

ラクダの遊具に腰掛け、わたしはぼんやり子供を見守った。

車を止めてくると立ち去った夫は、一向に来る気配がない。

20分ほどして、後ろを振り返ると、横のグラウンドの少年野球の試合を、腕組をして真剣に見ている夫がいた。しばらくして息子がいる滑り台へ向かった。
楽しそうな子供たちと、険し過ぎる表情をして滑り台を滑る夫。

グラサンの奥の目は、やはり「早く帰りたい」と言っている。わたしも一刻も早く帰って家でごろごろしたいと痛切に思った。


この日わかったことは、夫はトヨタの車が似合わない、ということだけだったのである。



秋晴れの公園
誰よりも浮いてる
ぼくのおとうさん

(自由律俳句)

2018.10.29『もそっと笑う女』より


追記:トヨタが似合わないと思っていた夫だったが、2020年、「ときめく車見つけた!」と40過ぎたおっさんが心ときめかしたのは、トヨタのハイエースだった。youtubeでハイエースカスタムの動画を真剣に観ているのは言うまでもない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?