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11、世界から音が消えた日



 この世界で一番信じてはいけない言葉は、
医者の言う「ちょっとチクッとするからねぇ」だ。


それにくわえ「痛くなったら手を挙げてね」と優しさを魅せるのに、実際には優しくするつもりなんてないのだ。


「わたし、嘘つきってわかるんだから」

「あなた、全てを嘘と判断するにはあまりにも未熟すぎるわよ。」



――――ッッ、ブチッ


聞いたこともないような大きな破裂音が耳元で聞こえたと思うと、何もなくなった。





 その日、世界から音が消えた。

 その日、わたしは生意気を少し控えるようになった。




 今は、焼きそばを食べているはずだ。

だって、目の前に見えるのは大きなホットプレート。
広がるソースの匂い。
おじいちゃんのお箸がいつもよりはやい。
間違いなく口に含んだのはソース味の焼きそばだったはずだ。いつもなら口にいっぱいに広がるソースの旨味に思わず頬を緩め、「美味しいものを食べている時に笑うと、それはもうほっぺが落ちるくらいに美味しくなるんだ!」と力説したことだ。
しかし、何故だ。
わたしは食べたものがソース味であるどうかも判断できなくなっている。




――――ガッシャーン!!

 大きな音が鳴り響いた気がした。

 あたりを見回すよりも先に、耳を塞ぐ。

 聞こえてなんかないはずだ、と誰かの口が動いたように見えた。

 振り返ることはしない。

 ひんやりした手が、わたしの腕を引くのが見えた。

 わたしの耳元に響くのは、わたしが焼きそばを食べているであろう咀嚼音だけ。

 わたしの頬を包んだしわしわの手のひらの先を辿る。

 「かわいそうに」って言っているように、聴こえた。

 どうして、と言う前に
 しわしわの顔の潤んだ瞳に映るかわいそうな少女がじっとこちらをみていた。


 「焼きそば、美味しかったね」と言った。


 その日、世界から音が消えた。


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