すぎさわあみ

1994 山羊座のAB型 単純でミーハーな薄情者 記している物は実話と記憶 写真は撮っ…

すぎさわあみ

1994 山羊座のAB型 単純でミーハーな薄情者 記している物は実話と記憶 写真は撮ってる

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、エトセトラ

わたしは、あなたを覚えている。

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11、世界から音が消えた日

 この世界で一番信じてはいけない言葉は、 医者の言う「ちょっとチクッとするからねぇ」だ。 それにくわえ「痛くなったら手を挙げてね」と優しさを魅せるのに、実際には…

すぎさわあみ
5か月前

10、まつげ

 弱った彼女に、触れる。  いつも我が道を強く歩く彼女は、意外と弱い。  こういう時かける言葉は、きっと、みんな知らない。  そんな便利な言葉は、おそらく、存在…

すぎさわあみ
5か月前
1

9、先輩の場合

「遅れてごめんね~。ほんと久しぶりやね。元気してた?顔色は良くはなさそうやねぇ…。仕事辞めたんやんね?うちも仕事ほんまにやばくてさぁ。え、?何がやばいって……環…

すぎさわあみ
5か月前

8、屋上ミサイル

「世界征服を成し遂げるためには何が必要かなぁ」   力、と彼女の風変りな質問にも咄嗟に返事ができるほど、私は彼女と時間を共にしてきたようだ。部活動も引退して塾に…

すぎさわあみ
5か月前
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7、終電ランデブー

 いざという時は、こんなときに限ってという時である。つまり、いざという時に備えられることって意外とないということだ。  現に私は、ド平日の終電に乗り最寄り駅を出…

すぎさわあみ
5か月前

6、夕焼けジュース

 昔からお迎えの必要のない子だったと思う。 幼稚園のお迎えラッシュに、母の姿はいつもなかった。決して悲観しているわけではなく、そのおかげでとても自由に生きさせて…

すぎさわあみ
5か月前
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5、センスオブワンダー

「バッキンガム宮殿のような床にしなさい。」  厚化粧の担任が、掃除の度に口にしていた。  小学生がそんな宮殿知っているわけがないが、その恐ろしく赤く染まった頬と…

すぎさわあみ
5か月前
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4、海賊の棲家

 テレビの向こうでアイドル上がりのお天気キャスターが大寒波をお知らせする一月。 一度は入ってみたかった憧れの味園ビルで、 一時間かけても一杯のハイボールも飲みき…

すぎさわあみ
6か月前
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3、シーラカンス

「生きた化石って知ってる?」  部活終わりの最上の時間、オレンジジュースで和菓子を食するなんとも不作法で強気な女は、美しい夕焼けを背負いながら言い放った。  何…

すぎさわあみ
6か月前
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わたしの幼少期の写真を見て、
母が「お姉さんになっちゃってねぇ」と言った。
そんなことないよ、って言いたかったけどやめた。
本当にそんなことなかったから。

すぎさわあみ
9か月前

2、すずらん

はじめて自分だけのものを持ったのは幼稚園の頃だった。  それらは個人マークとして、違った種類が園児ひとりひとりに与えられた。歓喜の表情に溢れた園内で、四歳だった…

すぎさわあみ
10か月前
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映画『aftersun』を観て

“エモい”という言葉が苦手だ。 エモい、というほど わたしの人生に重みを成していないと感じ取ってしまうからだ。 わたしは、 だいたい窓の向こうを見る時にそのような…

有限であるもの(夢メモ)

女性からめもを渡される 開くと小さい数字がいくつも並んでいる 電話が鳴る 咄嗟にもらったメモに内容を書いてしまう 電話を終えても、女性は立ち去らずにそばで立ってい…

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フェアでいたいという思いが、言葉にするのを躊躇わせる。

君がよく眠れるその日まで、

わたしにとっては特別になることを知っているから、 「後悔はしていない」と言っていた。 それすらも口にしてしまう無神経なわたしにも、 「世の中の酷いことから守りたい…

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11、世界から音が消えた日

11、世界から音が消えた日

 この世界で一番信じてはいけない言葉は、
医者の言う「ちょっとチクッとするからねぇ」だ。

それにくわえ「痛くなったら手を挙げてね」と優しさを魅せるのに、実際には優しくするつもりなんてないのだ。

「わたし、嘘つきってわかるんだから」

「あなた、全てを嘘と判断するにはあまりにも未熟すぎるわよ。」

――――ッッ、ブチッ

聞いたこともないような大きな破裂音が耳元で聞こえたと思うと、何もなくなった

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10、まつげ

10、まつげ

 弱った彼女に、触れる。

 いつも我が道を強く歩く彼女は、意外と弱い。

 こういう時かける言葉は、きっと、みんな知らない。

 そんな便利な言葉は、おそらく、存在しない。

 あなたも、たぶん、知らない。

 ときどき不安に揺れる手をにぎりしめながら、頷く。

 背をさする小さな手が、
ゆったりとしたリズムをつくって、動く。

 それはまっすぐ、彼女のためだけに。

 あなたは彼女を思っ

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9、先輩の場合

9、先輩の場合

「遅れてごめんね~。ほんと久しぶりやね。元気してた?顔色は良くはなさそうやねぇ…。仕事辞めたんやんね?うちも仕事ほんまにやばくてさぁ。え、?何がやばいって……環境、かな?そう、環境がすごく悪いっていうか、合わへんねん。上司もめちゃくちゃで……あ、うち今時計屋で働いてるんやけど、電池交換っていう業務の責任が重大でうちらがやる業務じゃないねん。この前もお客さんに電池交換頼まれて、交換した後に傷があるこ

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8、屋上ミサイル

8、屋上ミサイル

「世界征服を成し遂げるためには何が必要かなぁ」

  力、と彼女の風変りな質問にも咄嗟に返事ができるほど、私は彼女と時間を共にしてきたようだ。部活動も引退して塾に通い始めた私と、独学を貫く彼女と過ごす時間も減ってくるものだと思っていた。
私の回答に不服なのか、受験勉強のしすぎ病と診断した彼女にも答えを求めてみる。夢のようなことを真面目に考えているうちに、階段下から「晩御飯何がいいー?」と言う声が響

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7、終電ランデブー

7、終電ランデブー

 いざという時は、こんなときに限ってという時である。つまり、いざという時に備えられることって意外とないということだ。

 現に私は、ド平日の終電に乗り最寄り駅を出ようにもチャージ金額が足らず、駅のホームでターミナルをしている真っ最中だ。チャージしようとするもイマドキには不釣り合いな千円札のみ受付可のチャージ機に対して、財布の中にいらっしゃるのは今日に限って福沢諭吉のみである。残念なことに、私の最寄

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6、夕焼けジュース

6、夕焼けジュース

 昔からお迎えの必要のない子だったと思う。
幼稚園のお迎えラッシュに、母の姿はいつもなかった。決して悲観しているわけではなく、そのおかげでとても自由に生きさせていただいた、と言いたい。
幼稚園が終わったあとも一向に帰らずに園内でだらだらしていたこともあるし、町内パトロールのおじさんに密着して町内の治安を護ったこともある。

 小学校になった頃には、終業式の帰り道にフルーツ缶の空き缶に蝉を入れて持ち

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5、センスオブワンダー

5、センスオブワンダー

「バッキンガム宮殿のような床にしなさい。」

 厚化粧の担任が、掃除の度に口にしていた。

 小学生がそんな宮殿知っているわけがないが、その恐ろしく赤く染まった頬と仰々しく刺さる瞳を前にしては何も言えまい。

 小学校四年生になると知らんぷりが流行った。
昨日まで話していたであろう人間に対して何を話しても反応しない、という遊びのようだった。その新しい遊びはとてもシンプルであったが、なかなか複雑であ

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4、海賊の棲家

4、海賊の棲家

 テレビの向こうでアイドル上がりのお天気キャスターが大寒波をお知らせする一月。

一度は入ってみたかった憧れの味園ビルで、
一時間かけても一杯のハイボールも飲みきれないほど
一番の場違いを感じているのは、間違いなく私である。

「デートどうだったの?」
「デートじゃない!」

 バーの店主とのやり取りを楽しむのは、“いつもの”と称すカンパリソーダとジントニックを混ぜた洒落た飲み物を頂く友人である。

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3、シーラカンス

3、シーラカンス

「生きた化石って知ってる?」

 部活終わりの最上の時間、オレンジジュースで和菓子を食するなんとも不作法で強気な女は、美しい夕焼けを背負いながら言い放った。
 何を言っているのだ、この阿呆が。化石はとっくに死んでいるから化石であるし、地球は青かったらしいことも幼稚園児でも知っている。昭和という時代も終えてからもう二十年が経とうとしているのだぞ。と、考えは巡り巡るも好奇心という細胞が私自身より本能に

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わたしの幼少期の写真を見て、
母が「お姉さんになっちゃってねぇ」と言った。
そんなことないよ、って言いたかったけどやめた。
本当にそんなことなかったから。

2、すずらん

2、すずらん

はじめて自分だけのものを持ったのは幼稚園の頃だった。

 それらは個人マークとして、違った種類が園児ひとりひとりに与えられた。歓喜の表情に溢れた園内で、四歳だった私も例外ではなく、ソレが自分の特別だということはすぐに理解できた。

 私だけのコップ、鉛筆、歯ブラシ全てにソレのシールを貼ってみると彼らは私にだけ懐いているようにみえた。
 つまらない集会の時間も、上履きの先にいるソレは私を満たした。

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映画『aftersun』を観て

映画『aftersun』を観て

“エモい”という言葉が苦手だ。

エモい、というほど
わたしの人生に重みを成していないと感じ取ってしまうからだ。

わたしは、
だいたい窓の向こうを見る時にそのような感情が発せされる。

通勤時、家で過ごす時、散歩中

窓の向こう側で起きている“あったはずの何か”に対して
何故かもわからず胸が痛くなる。

何も関係のないはずなのに。

何も関係がないわけなんて誰にもわからないから、
ずっと近しくあ

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有限であるもの(夢メモ)

女性からめもを渡される
開くと小さい数字がいくつも並んでいる

電話が鳴る
咄嗟にもらったメモに内容を書いてしまう
電話を終えても、女性は立ち去らずにそばで立っている
「わぁすごい。“きっと渡してもすぐにメモにしてしまうだろうから”って仰っていました」
と微笑む
これは誰から?と問うてみるも、
「あれ?渡せばわかる、とだけ」
何事もなかったのように席につく

メモを見る

玄関前の時計台の下のベン

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フェアでいたいという思いが、言葉にするのを躊躇わせる。

君がよく眠れるその日まで、

わたしにとっては特別になることを知っているから、
「後悔はしていない」と言っていた。

それすらも口にしてしまう無神経なわたしにも、
「世の中の酷いことから守りたいんだ」と言っていた。

君は案外、大丈夫じゃないんだよ?と
いつかの言葉が聞こえた気がした。

「世界がまるで自分みたいにかなしむ君を、見たくないんだ」と言って、肩を落とす。

変な人だなぁ、と笑うわたしに安堵して。