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フリースクール活動日記 2024/05/17-奥多摩

 このごろのまるで夏のような気温に喘ぐ皆を先導して奥多摩まで誘導したのは年少メンバーに多かった。来週の予定も鑑みて中学生以上のメンバーの大半は奥多摩へ行くことに懸念を抱いていたようだが、彼らはそんな僕たち中学生を説得し、ついにはこの日の行き先を奥多摩と決定させることに成功した。そんな功労者たちはこの日、意外なほどにも軽装でやってくる。彼らは奥多摩へとくるのが初めてであるのでわからなかったのだろう。それに僕たちも失念していたため何も言えないが、一応今後奥多摩の川に来るときはライフジャケットを持ってくることが必須だということは覚えておいてほしい。また、300円ほど持ってくれば現地のものも借りることができるのだし、今後もχαοσたちに師事するのであればこれは必須であろう。
 そんな年少グループのメンバーたちは水着を持ってやってきた。未だ5月ではあるが、先年には4月下旬に川へと飛び込んだ愛すべき阿呆たち龍角散らの例もあるため一概に否定することはできない。もっとも僕は過去2回奥多摩の川に嫌な思い出を持っていたため、水温も低いと考えられるこの日は川には入らないつもりであった。

最寄り駅に集合した、いかにも川慣れしているメンバーたち
何故か全員ワルそうな顔

 そんなわけでこの日は川に入る人が多く予想された。基本的に来るスタッフは3名。対して川に入ると思われる年少メンバー(とりあえずどんなに大人びていても小学生は年少とする)は6人ほど。対して年長メンバーはというと今回参加する中学生以上が4名のみ。そしてそれらのメンツも一人を除いて全員が泳ぐことができない。あの急流では流されるだけで身動きとることができないのだ。唯一泳ぐことのできるχαοσも、この日はリキューと共に上流で釣り糸を垂れる予定だという連絡が入っているため、いつものように中高生を借りだすわけにはいかない。よって今回新たにスタッフとしてイェンディさんが同行することになった。それならば川に入るメンバーに対してスタッフの数もそろい、対処も可能になる(もちろん、この前小指を骨折したイマンモなどは川に入ることができないため実際に動くことのできるスタッフはもっと少ない)。
 この少し前の日に誰かがポツリと、桑の実が食べたいといった。幸い教室から少し歩いたところに桑の木があることを知っていたため皆でそこへ繰り出したのだが、残念なことに一本しかなかった。おまけに近所の人々が幾度か来ているようで黒く熟れた実はほとんどなく、それだけでは足りなかった。そう皆がぼやいているのを聞いたレイセンが、古民家の近くには桑の木がある、と言ったため皆その言葉で活気づき、よってこの日桑の実桑の実とつぶやきながら青梅行きの電車に乗り道路を歩く不審者が現れた。
 それを不気味そうに眺めながらも電車内で他のメンバーと合流し、いざ川井駅で勢いよく改札をくぐろうとしたとき、定期を近づけるとそこには残額不足の文字が。困った。川井駅は無人駅だから、チャージすることができない。しかたなしに前回この轍を踏んだというメンバーに教わり乗車駅証明券なるものを取って駅を出る。
 そこから珊瑚荘までの道すがら、桑の実を探すメンバー、一刻も早く川へと入りたいと呟くメンバー、そしてどこからか小鳥の巣と思われるものをみつけてくるメンバーなどがいるなか、僕は道路の観察に従事していた。そこまでの交通量はなく、ときたまロードバイクであったり普通の車であったりバイクであったり、せいぜい20台ほどだっただろう(なお、このロードバイクはそこそこスピードがあったのと文字が多すぎたためメーカー名はわからずじまい…なお、キャノンデールではなかった)。いつもよりも交通量が少ないと感じたが、それは木曜日のこと。木曜日よりも金曜日の方が交通量が少ないのだろうか。
 珊瑚荘に到着し、ライフジャケットなどを各々身に着けて着替えを終える。何やら物珍し気に辺りを歩き回り、飾られている過去の写真を見ている者も。そのなかでも2段ベッドの写真に気を引かれていたが、残念あれは2階であり、現在girlsが着替えに使っているエリア。絶対に、見に行ってはいけない場所だ(なお、風呂場を着替えに使っているときもあったりするのでそれについても注意しなければならない)。
 そんなこんなで準備を終え、最小限の荷物を持って河原へと移動する。幸いそこまでで事件は起きず、無事河原で荷物を置き泳げる年長メンバーχαοσの監視のもと川へと入っていく。5月で夏のような気温とはいえやはり水温は低い。プールなどの水に慣れてしまっている現代人が油断してはいればたちまち凍えて出てくること疑いなし。1月などに入れば心臓マヒを起こしてしまうだろう。
 そんなわけで水に入るなり凍えだした年長メンバーとは違い、まっすぐに川へと彼らは入っていく。そして、寒い寒いと口にはするものの言葉とは裏腹に慌てて陸に逃げようとはしない。そんな新メンバー「白兎」だったが、その指導に当たるはずだったχαοσがいない。探すとどうやら上流にて川釣りの講釈を垂れているよう。毎度お決まりの定位置にて釣り糸を垂れる方法について教えているところであった。

 そんな彼をemmanmoが引っ張って下流へ向かい、それを見た僕もしばらく経ってイマンモとともに後を追う。この日、先日よりの豪雨のためか水深が急上昇、これまでは通れていた場所が通れなくなっており、加えて水中の地形にも大幅に変化が起きていた。そのため彼らが果たしてちゃんと泳いで対岸までたどり着けるのか不安に思い、行ってみようと思い立った。 増水の影響で普段歩いていた浅瀬が一気に深く歩くことができなくなり(このあたりは流れが急であるため少し水量が増えただけでも押される力が強くなり下手をすると動けなくなってしまう。過去に坊ちゃんがそういう目に合って以来僕は激流の真っただ中に入ろうとは思わない。なので、カッパくんとヨッシーが自らその中に身を置き、体勢を崩してみせたり僕を呼んだりしても絶対にそこへ合流することはなかった。

 そこはさておいて別の方向を見れば、はじめから水に入る気でいたgirlsたちがかなり深いところで遊んでいる姿が目に入った。全員ライフジャケットを付けているし、傍にボートさんが控えているから大丈夫だろう。そう判断して泳いでいるχαοσらに野次を飛ばしていると、いつもよりも準備に時間がかかったためかだんだんと空腹を覚えてくるメンバーが現れた。それとは別に体を温めようと僕は焚き火を作っているレイセンの周りに腰を下ろしたものの一向に火は熾らない。それもそのはず、この日皆ライターを忘れてきてしまったため、いつもよりも起こすのに時間がかかるのだ。なんとか着火したのを確認するなり、周りにいたメンバーの置いていった食物に目が行った。あらかじめ火が熾る前からアルミホイルに包んだサツマイモ、トウモロコシなどが置かれていたが、その中で群を抜いて目立っていたものがあった。

 それは、焚き火の隅の木にトウモロコシと並んでおかれたカツオ。ボートさんの持って来たそれはトウモロコシよりも大きく立派なもの。なんでも予めたたきにされているものを再度焼いて中まで火を通すのが目的だという。
 そのうちにいい頃合いかと思われ、カツオの持ち主たる「磯野ボート」さんの了解を得て皆で分けることとなった。なお、釣組の方は自分たちの漁獲に期待してもらおうと皆で内定、何も知らせずにこっそりと食べた。とても旨かったため、おそらく次からは生魚などを持ってくるメンバーも増えるだろう。一方、そのころの釣りグループ。海釣りとは勝手が違うことに戸惑っていたのか、糸が絡まるなどアクシデントが頻発し漁獲は今のところゼロ。

 そんな彼らのことはさておいて、カツオを喰らい弁当も食べ終わり、しばしのんべんだらりと過ごす時間。そうしてしばらくすると皆川へと潜ってゆく。1時間ほど焚き火周りに居て、その後河原へ出てみるとχαοσが白兎に指導しているのが望見された。

飛び込みの指導中

 指導といっても、口頭説明のみではなく実地指導まで付いている。この飛び込み岩は増水していることもあってかなり安全な場所と化してはいるが、水面下の岩などにぶつかってしまったりライフジャケットを緩めてしまっていたりすると負傷しかねない。そんなわけでもはやこの道3年を越えるであろうχαοσがつきっきりで監視をしているのである。
 そしていざ飛び込む段になっても先にχαοσが先導し、安全なところを示す。そして下流に磯野ボートさんが待機し、万が一流されてしまったときにも大丈夫なよう川の中腹まで身を乗り出している。これで準備は万全、無事事故なども起こすことなくこの日の川遊びは終わった。さて、彼ら以外のメンバーはどう過ごしていたのだろうか。川で泳ぎたくない幾人かは石を積み上げて対岸までの石橋を作ろうとしている。もちろんこれは何年も何年も試されてきたことであるから、成功しないことは織り込み済み。それでもせめて次回までは残るように補強を繰り返していく。このグループが、だいたい3,4人。そして残るは釣りグループのみであるのだが……未だ、漁獲は一尾も無し。

彼らのいるあたりの水深は急激に深くなっていたという
釣れないねぇ

 そうして時間がたち、とうとう古民家へと戻る時間になった。着替えを持ってきていなかったカッパくんはすでに全身濡れねずみとなって帰宅、あとのこるメンバーは全員着替えを持ってきていた。こうなればもう心配はない。玄関口で足を洗い泥を落としてから土間へと上がり、荷物の近くで着替える。そうして全員の帰宅準備が整ったことを確認し、解散となった。

 なお、これを書いている最中に思い出したことがある。レイセン達は確かに「ここに桑の実がある」と言い、実際にその場所を皆は確認していた。川に向かう途中でそれを見つけた皆が騒ぎ出したとき、レイセン達は「帰りにとって食べる時間を作るよ」と言ったのだ。けれども僕たちは、それを食べていない。
 ただ、僕たちよりもはるかに早く駅に向かって帰ろうとしたgirlsメンバーたちが未だ幾ばくも進んでいなかったことを考えるに、彼ら彼女らは食べることができていたのかもしれない。何ともうらやましい限りだ。

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