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新入社員の笑顔

新入社員の教習をすることになった。
40歳を越えたおっさん社員のぼくと、学校を出たばかりの(多分)社会の汚れを知らない若者がペアで約2ヶ月間、OJTで家族より長い時間を過ごすことになる。

単独行動が好きなぼくにとって苦行だ。

新入社員にとっても、辛い時間になると思う。
お互い性格や価値観が合わないと、かなりのストレスになる。
実際に、この時期に辞めてしまう新人は多いらしい。

無責任な意見だが、ぼくとしても新人教育は進んでやりたいと思わない。
無駄だと思っている規律や社内ルールはとことん手を抜くし、上司の意見に楯突くこともある。

決して手本となる社員ではない。

以前、中途入社の社員2人を教習をした経験があるが、
当時、彼女達(どちらも女性だった)の仕事への適応指導の他に、職場の人間関係やモチベーション維持といった精神面でのフォローで手一杯になった。
おそらく上司としてのスキルが自分には足りないのだろう。

そんな中、また女性の新入社員と一緒に仕事をすることになる。
上司から、その話を提案されたとき「なんで自分なのですか?」って思わず聞いてしまった。
会社としてジェンダーフリーを推奨していく考えはあるが異性となると、どうしても気づかってしまう部分が多い。
きっと、男にはわかりづらい“女性だからこそ”の苦労もあると思う。

彼女を職場に迎え入れる際、上司との簡単な打ち合わせがあった。
どうやら新入社員の間だけでなく、他の部署でも話題になっている程の美人らしい。
「男性社員からアプローチさせないように守ってほしい」と頼まれた。
「恋愛に関しては自由でいいじゃないんですか」と返すと
「そうじゃないんだよ。せめてOJT期間だけでも変な虫がつかないようにしてほしい」
なんて業務とはかけ離れたところにまで責任を求められる。
父親じゃないんだから……

今の職場では過去に男女のもつれで相当痛い目を経験したらしい。
どこも一つや二つ、そんな話があるが……

「いろいろ大変だと思うけど、頑張って」
渡されたプロフィールを見ると地方の女子校出身だった。
自己PRの欄には「人見知りが激しいけど、慣れればたくさん話します」
と自己PRになっていないことが記載されていた。

OJT初日、お互いかなりギクシャクしていた。
僕もコミュニケーションが得意ではない。

誰に話しかけられても、彼女は一言二言返して会話が止まってしまう。
スポーツ観戦が趣味らしく質問をすると饒舌になるが、自分のことを一通り喋って終わってしまう。
「わたしは野球観戦が好きですが、〇〇さんはどうですか? 応援しているチームはありますか?」
のような“質問返し”という、基本的な会話のキャッチボールができていない。
初めての職場で緊張しているのだろうか。
社内の人間に話しかけられると、顔をこわばらせて、必要最低限の返事をしている。

冗談を言ったときに見せてくれる、緊張感が抜けた笑顔は可愛いんだけどな……
と同僚と話している。
具体的な解決策はなくても、とりあえず笑顔を周囲に見せていれば、乗り切ることもできるトラブルもある。だからOJTが終わる2ヶ月後には、彼女の笑顔が少しでも増えればいいのだけれど。

そんなことを思いながら、新人と微妙な距離感で仕事を進めている。


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はじめての仕事

リアルだけど、どこか物語のような文章。一方で経営者を中心としたインタビュー•店舗や商品紹介の記事も生業として書いています。ライター・脚本家としての経験あります。少しでも「いいな」と思ってくださったは、お声がけいただければ幸いです。