もし、私が死刑囚「山地悠紀夫」だったら、みなさんの疑問にこう答えます。

拝啓、大阪姉妹殺人事件に関心を持たれる皆様へ、
 死刑に処せられた山地悠紀夫について書かれた『死刑でいいです』(文庫版)を読みました。山地は何も語ることなく死刑に処せられました。もし、皆様が今日現在、「なぜ山地があんなことをしたのか、あのとき、何を考えていたのか」と疑問に思う点、腑に落ちない点があるのなら、山地と似た性格・生い立ちを持つ私の発想が参考になるのではないかと思い、こうして手紙を書いている次第です。

 ご存じの通り、アスペルガー症候群は百人百様ですが、私は山地とアスペルガーの出方だけでなく、生い立ちまでもが極めて相似形で、山地の考えていたことを代弁できるのではないか、と思っています。彼と似ている代表的な点を以下に挙げます。

【遺伝の面で】
学があることをひけらかす、それとなく見せる。
一度決めたら予定を絶対に変更しない。
ルールがあるならそれに従うが、無いならたとえ非常識であろうが自分の好きなようにやらせてもらう。
いざとなった時の目に宿る殺意が尋常ではない。

【環境の面で】
父に暴力を振るわれて育った。しかし、父はよく遊んでくれた。
父は職を転々としていた。最後は、無職で家にいるようになった。
母は無口でもくもくと働いてばかりだった。家は貧乏だった。
父と母は離婚し、私は母に引き取られた。
学校でよくいじめられた。孤立していた。
母は私の初めてできた彼女に私の知らないところで別れてくれといった。
会社勤めしたものの、向いていなく辞めた。
警察に逮捕され、留置場に入っていたことがあった。
違法な活動をする仲間に誘われて入っていたことがあった。

類似点は他にもありますが、大まかに言って以上の点がよく似ています。
 幸い、私の場合は、今のところ、事をおこさずに暮らせています。

――――――――――――――――――――――――――――――

 本題の「山地が考えていたこと」に入ります。
山地になったつもりで書きます。

1、 姉妹刺殺後、なぜ、黙るようになってしまったのか?
答え:「孤立からの永遠の解放」のためです。
みんな(社会といってもいいです)に「私たちが彼をああしてしまったんじゃないか?」と考えさせるためです。みんなに悔悟の念を生じさせたかった。自分のことをいろいろ考えてもらって、頭の中を自分のことでいっぱいにしたかった。そうすれば、自分はもう孤立していない。このまま死んで真相を永遠の謎にすれば、永遠に孤立から解放される。
 つまり、姉妹刺殺が考えたことの終着点なのではなく、孤立から永遠に解放されることが終着点なのです。死刑を利用し、みんなの心に自分の存在を刻んで死にたかったのです。これを達成するには、自殺ではだめで、みんなに悔悟の念、と「私達、何がいけなかったのかしら?」と思わせることが必須なのです。自殺だとみんなが勝手に「ああ、山地は悔悟の念で自殺したのね」と解してしまい、腑に落ち、忘れさられてしまう、という欠点があったのです。

2、 刺殺された姉妹ははじめから狙われていたのか、たまたまなのか?
答え:狙っていました。明日香さん(当時、名前は知りませんでした)の方に好意を寄せていました。建物内で何回か見かけ、「素敵な人だな、いい人だな」と思っていました。明日香さんの雰囲気から母性を感じていました。
 エレベーターの止まる階を見て、住んでいる階までは知っていました。配電盤を壊した理由は、ドアに耳を当て、彼女が住んでいることを確認しましたが、男と住んでいるかどうか確認したかったためです。普通、電気の事なら男が動き回りますから、配電盤を見に外に明日香さんが出た時、「あ、女性だけでくらしているんだ」って確信しました。

3、 姉妹を殺した理由はなにか?
答え:「同居の女神」に対する私なりの「甘え方の表現」です。
本書P264の終わりから3行目に十一さんの仮説がありますが、それで大体あっています。(私はこのくだりを読む前に、姉妹を殺した理由をアスペルガーなりに考えていましたが、同じ内容を「普通の人」である十一さんが想像できたことに驚きました。)
 みなさんは、母親殺しと姉妹殺しが、家庭内殺人と家庭外殺人と分けて考えられているようですが、私にとっては両方とも「家庭内」です。正確に言うと、「同じ建物内」です。両事件とも、「同居の女性に対する殺人」なのです。
 母親殺しのときは、母性を感じない(P26参照)女性が私にとって選択の余地のない母であり「しょうもない女神」でした。その母が私の初めての恋人、つまり、やっと自分の力で探し当てた「理想の女神」を追い払おうとした時、自分の人生の障害物だと認識し、排除に動いたのです。その怒りは「殺しを許可する」という程でした。
 姉妹殺しの方について説明しましょう。大阪の暮らしで、私の頭の中では無意識的に疑似的家族が形成されていました。父親はボス、母親は上原明日香さんです。ボスから怒られ、飛び出したことが私にとって「父の死」の再現でした。ここで母性に甘えたくなります。そこで思い浮かんだのが、同じ建物に住んでいる「新たな理想の女神」、明日香さんを殺すことでした。私にとって、明日香さんは母親以来の「同居の女神」なのです。コミュニケーションをとっていない事など心理的距離感も同じでした。そして、甘え方は殺しと言う、「やつあたりの極致」で表現しました(P231過剰殺傷参照)。その時、いろいろ考えました。「これで死刑になれば、あの世で明日香さんと一緒に暮らせる。永遠に理想の女神と一緒にいられる。みんなには、『彼をあんな風にさせてしまったのは私たちが悪かったのかもしれない』と思わせることができて、悔悟の念から永遠に自分を思ってくれて、これで私をいじめた社会に対して一矢報いることができる。それに『なぜ殺したんだ』という謎解きを永遠に考えてくれるので、私は永遠に孤立しないですむ。いろんなことが『同時に達成できる』名案だと思いました」

殺した後に、乱暴したのは、「抱き着きたかった」からです。
女性に、母性に、抵抗されずに抱き着きたかったのです。だから、先に殺したのです。私がこれから抱き着いて甘えたいときに、「いやだ」と抵抗されるのは私が悲しいです。だから、先に殺したのです。

4、 明日香さんの小銭入れを持っていた理由
好きだった明日香さんの物、何か持っておきたかったのです。形見としてとっておきたかったのです。二人があの世で一緒になれるための証として、神様に「ほら、地上で明日香さんと一緒だったんですよ」と証拠として出せるようにしておきたかったんです。好きだった明日香さんのこと、忘れないようにしておきたかったんです。いつも、一緒だよ、って思いたかったんです。

以上で、山地と同じ(態様の現れ方が同じという意味)アスペルガー症候群の者からの洞察を終わります。

お断り1:アスペルガー症候群、ADHD、人格障害はそれだけでは犯罪を犯しにくいものであることを、「普通の人」に対して厳に念を押しておきます。

お断り2:本文を作話ととるか、事実に基づく話ととるかは読者の判断に任せますが、筆者はこの事件の理解の一助になれば、という気持ちで書きました。アスペルガー目線の意見が世に無かったので。

                         敬具