アカリ

わたしもいつかしぬ

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    過去のことを思い出して転げ回りながら書いています、読んでもらえたら嬉しいです。

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【はつこいふしまつ】 前編

 私はついに冷静になった。精神をひんやりとした風が吹き渡り、湿度の低いその風は、身体までをも軽くしていった。ここ最近の混沌が嘘のように胸の中が透き通っている。自分の胸がゆっくり上下するのを意識して、これまで息をちゃんとしていたことなんてなかったのではとあやしんだ。ものがまともに見えるのは実に二週間ぶりのことだし、もしかしたらもっとずっと前からなかったことかもしれない。米良とはじめて出会った十歳の初夏から、十一年間、私はまともな呼吸なんかしてこなかったのかもしれない。 **

    • 肋骨しめつけバンド

      分厚いサラシのようなものを胴にきつく巻いて暮らすようになって1週間。いまわたしの肋骨にはひびが入っていて、痛みの軽減のためと治癒を助けるためにその肋骨しめつけバンドを巻くことになったのだが、シンプルに苦しいし、暑くて煩わしい。せめて冬場なら腹巻きを兼ねられて良かったのだろうが。気を抜くと奇声を上げながら胴体からバンドをもぎ取り投げ捨てそうになるくらいには鬱陶しい代物だ。それでも毎日巻いてせっせと肋骨をしめつけているのは、やはり、巻くと痛みがかなり抑えられるのだ。 子どもが「

      • 旬ブーム/梅酒売り

        梅しごとをしたくて梅酒用の瓶を買いに開店したてのスーパーに入った。近ごろのわたしは良い。地元の海であさりが育てば潮干狩りに出かけていき、里山でハーブが育ったと聞けば袋いっぱいに摘んできては保存食に加工し、青梅が売り出されれば梅しごとをする。さふいふ人にわたしはなりたい、というわけではなかったんだけど旬を楽しめてる気がしてなんかいいよねー。 行きつけのスーパーは2階に100円ショップが入っているから、梅を漬ける瓶はそっちで買うつもりでいた。ところが、はりきりすぎていたんでしょ

        • ●下書き日記放出 2021年〜2023年

          ここ数年の、下書きのままになっていた日記をまとめました。 ●2021年5月2日(日) 友だちのおごりで水上バスに乗せてもらった。水上バスってなんじゃいとおもったら、普通のバスみたいに街を走ったあと海に続く急坂をザブーンと下って船になるバスなのだそうだ。 なんというか、世の中にはいろんなことを考えて実行する人がいるなあ。人間って、面白!状態になった。(デスノートなつかしい) 海に入るときの水しぶきで前方の窓が真っ白になった。それが止むと普通にもうバスが船になって海に浮か

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        【はつこいふしまつ】 前編

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          海と砂粒

           海の見える町で過ごしたのは幼年期からはたちくらいの間までです。海は本当に見えるだけで、実際の海岸に行くのには自転車で40分ほどの距離がありました。それに小高い丘に囲まれた私と両親の家からは海など端っこも見えず、だからそれほど身近な存在ではなかったのです。ただ、通っていた小学校は丘の上にあって教室からは青い水平線がたしかに見えたので、海と、それからときどき見える遥かな富士山もちゃっかり一緒に、校歌に織り込まれていました。歌いながらまあ確かにね、見えるよねと思っていました。町は

          海と砂粒

          浅野屋のパンは高くておいしいね 信頼させてくれてありがと

          図書館に行ったら胸骨圧迫(心臓マッサージ)の講習がひらかれていて、わたしも飛び入りで圧迫した。圧迫用の人形の胸がべこべこへこんでは跳ね返ってくる感触が久しぶりすぎて懐かしかった。 昔ガードマンだった頃も(そんな頃があった)人形相手にかなり練習したものだが、10年以上もブランクがあるから身体が流れを忘れかけていたここ最近「そろそろ圧迫してえ〜」と思っていたのだ。丁度。イメトレだけじゃなく。 本当にいざというときって多分パニックになるから、多少頭がバグっても身体が勝手に動くくらい

          浅野屋のパンは高くておいしいね 信頼させてくれてありがと

          はちみつ/ごめんね

          はちみつを買おうね あの手この手で子どもを幼稚園に誘導しひと仕事終えた気分で青森から来たちょっといいニンニクを買った。はちみつを買い忘れた。毎日はちみつを買い忘れてもう1週間になる。 今朝は寒かった。布団のようなコートを恥ずかしげもなく着ていた。わたしは暦に振り回されない。3月だろうが寒ければただちにモコモコになれる。スギの花粉が飛び、河津桜が咲き、散歩をする人が増えている。春は進行している。ダウンの中でわたしの身体だけが冬をあたためつづけている。 ごめんね バラとユ

          はちみつ/ごめんね

          就寝前、古(いにしへ)の寝覚め爽快サプリを飲んだはずだ。おかしい。目が開かない。布団から出られないどころか、もはや起きるってどんなことだったかイメージすらつかめない。古はやはり駄目か。具体的には2016年のサプリ。そもそも寝覚め爽快ってどんな感覚だ。有り得るのか。そんなものはじめから無いんじゃあないのか。わたしたちは存在しないものを追い求めているのでは。 やっとのことで横に寝ている子どもに声をかける。子どもを起こすことで起きた子どもに起こしてもらうという作戦である。子どもは鮮

          2022年よんだ本を思いだせるだけ 後半13冊

          作品の重要な展開には触れていないつもりです。 ●レインボー・ローウェル『エレナーとパーク』 スクールバスもの! 乗ったことないくせにスクールバスに弱い。そういえば今年大好きになった小説、チョン・セラン『アンダー、サンダー、テンダー』もちょっとスクールバスものっぽかった(あっちは実際は路線バスだけど)。ティーンズが詰め込まれる乗り物って青春装置っぽくていい。 ボーイミーツガールものでもある。 生育環境が違いすぎるふたりのボーイミーツガール(ガールミーツボーイ)である、とい

          2022年よんだ本を思いだせるだけ 後半13冊

          5年前日記⑥

          子どもが5歳になった。 それで5年前の記憶がわたしのまわりをうろうろしている。 せっかくなので書きとめておこうと思う。 2018年2月6日(火) 4日前にわたしの切開されたお腹から取り出された赤ちゃんはよく寝る赤ちゃんのようだ。乳を飲み、助産師が心配するほどよく眠り、そして目覚めるたびにちょっと大きくなるみたいだった。頼もしい赤ちゃん。 ところで、わたしの乳首は蛇口と化した。 授乳がはじまってからというもの、助産師がかわるがわるやってきてはわたしの乳を揉んだりひねったり

          5年前日記⑥

          5年前日記⑤

          子どもが5歳になった。 それで5年前の記憶がわたしのまわりをうろうろしている。 せっかくなので書きとめておこうと思う。 2018年2月2日(金) なんやかんやあって今日、帝王切開で子どもを産むことに決まった。 破水というのをして産院に入院してもう4日目だ。そろそろ外に出してやらないと赤ちゃんがいよいよ危ないということになったのだ。 昨日の時点で陣痛促進剤で引き起こされるズケズケ踏み込んでくるような陣痛にからだも心も負けきっていたわたしには、帝王切開でいこうという医師の提

          5年前日記⑤

          5年前日記④

          もうすぐ子どもが5歳になる。 それで5年前の記憶がわたしのまわりをうろうろしている。 せっかくなので書きとめておこうと思う。 2018年2月1日(木) あれ?なんでわたしこれ乗り越えられると思ったんだっけ? 陣痛の合間に浮かんだ率直な感想である。というか、率直な絶望。 わたしの気力は痛みによって完全に折られた。 2日前に破水というのをして産院に入院したわたしは母子の安全のためにそろそろ出産してしまう必要があるのだが、そのためにさまざまな処置を受け続けて3日目の今日にな

          5年前日記④

          5年前日記③

          もうすぐ子どもが5歳になる。 それで5年前の記憶がわたしのまわりをうろうろしている。 せっかくなので書きとめておこうと思う。 2018年1月31日(水) 朝、入院先で目覚めるのははじめてのことだ。出張先のビジホで目覚めるのと似ていると思った。産院の個室というものはほとんどビジホと同じ設備なのだ。ベッドがパラマウントであること以外、ほぼビジホ。わたしは早くもパラマウントベッドのとりこで、パーラーマーウーンン〜ト〜♪パラマウント〜♪と元気に歌いながら配膳された朝食めがけてパラ

          5年前日記③

          5年前日記②

          もうすぐ子どもが5歳になる。 それで5年前の記憶がわたしのまわりをうろうろしている。 せっかくなので書きとめておこうと思う。 2018年1月30日(火) 午前9時、タクシーに乗って、いつもは歩いて向かう産院への道の景色があっという間に流れていくのを見つめていた。「へえ、クルマって速いんだなあ」とばかみたいなことを思った。今朝はずっとふわふわしている。 今朝は破水して起きた。 午前6時だった。 破水。羊水が出てくること。 とはいえ破水するのってはじめてだから、破水なのか

          5年前日記②

          5年前日記①

          もうすぐ子どもが5歳になる。 それで5年前の記憶がわたしのまわりをうろうろしている。 せっかくなので書きとめておこうと思う。 2018年1月29日(月) 外には水気たっぷりの重たい雪が何日も溶けずに残っている。昼に野菜を買いに出たとき道でいくつかの雪だるまを見た。もともとの造形なのか、溶けかけてそうなっているのか、やたらとみんな困り顔だ。 わたしも夕方に思い立ち、玄関前で小さな雪玉を作って転がしてみた。犬を模しただるまを小さく作って積んだ。 もっとたくさんの作品を並べた

          5年前日記①

          2022年よんだ本を思いだせるだけ 前半18冊

          作品の重要な展開については触れていないつもりです。 ●波木 銅『万事快調〈オール・グリーンズ〉』 景気のいい小説。面白すぎるう マチェーテ、大麻などの道具立てが"快"を引きおこしてきて読んでいる間ずっと駆りたてられている状態だった。読む快楽。 ●猪熊弘子、ほか『保育園を呼ぶ声がする』 ジャーナリスト猪熊弘子氏と有識者との、保育にまつわる対談がおさめてある本。対談(鼎談)相手は英国での保育士実務経験があるブレイディみかこ氏、哲学者の國分功一郎氏。 わたしは保育士試験を春

          2022年よんだ本を思いだせるだけ 前半18冊