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【声劇台本】番犬のケルベス




「さて、剣と魔法に乾杯だァ!」

魔法や術が管理された近代世界
その中の一つの街「ピュラムシティ」で
ケルベスは馬鹿馬鹿しい悪さをする野良スキルプレイヤー、いわゆるチンピラを退治しつつ、生活していた
そんな中、スキルプレイヤー団体「ウェアズハード」の人間であるフェルナが、彼のもとを訪れる

近代サイバーバトルファンタジーです
60分
男2:女2:不問1
展開を大きく崩さない程度のアドリブ、言い換え、語尾変更可
ケルベス、ハーディス役は演じる側の性別不問

読み方
スキルナンバー1(ワン)、2(ツー)……術を使う時の数字は英語読みでお願いします


・ケルベス 男

ピュラムシティに住む野良スキルプレイヤー
街のチンピラ達からは「番犬のケルベス」と恐れられている
女好きで不真面目な性格だが、
大事な局面で真面目だったり、仲間思いな部分があったりと一概に言えない
使用スキルウエポンは機刑剣棒「ケルベロス」
兼ね役で「ソウイチ」役

・フェルナ 女

スキルプレイヤー団体「ウェアズハード」を抜けたスキルプレイヤー
自分達のリーダーである「ハーディス」とシヴァンとの取引を止めるため、ケルベスを雇う
勝気で横暴。物の言い方もストレートだが、疑り深い一面もある
輝かしい理想を大事にしている
機炎闘格「インフェルノ」を使う

・シヴァン 不問(参考立ち絵は男性)

ピュラムシティでスキルチップの取引をしている業者
自分にとって利益のある相手としか取引をしない
腕を改造しており、スキルウエポンと連動した装置を目につけている
他の闇社会団体とも繋がっていて、その人脈の詳細は誰にもわからない
紳士的な態度をとるビジネスマンだが、何を考えているかわからない怪しい雰囲気がある
機弾銃砲「ヴィシュラード」を使用する
兼ね役で「研究員」役

・ユノア 女

「ウェアズハード」のスキルプレイヤー
ハーディスを慕っており、ケルベスを嫌っている
引っ込み思案で大人しいが、幼馴染のフェルナを溺愛しており、嫉妬深い側面も見られる
フェルナとは孤児院時代からの縁で、一緒にウェアズハードに入った
使用スキルウエポンは機閃雷刀「サヘラ」

・ハーディス 男

「ウェアズハード」のリーダー
最強のスキルプレイヤーと名高い実力を持っている
誠実な優男で、周りからの人望が厚いが、
「自分こそが最強の存在」という強い思念を持っている
自分を阻害するものを消したい欲求が根底にある
ケルベスとはウェアズハードを設立した仲であるが、彼を良く思っていない
使用スキルウエポンは機葬冥剣「デスタリア」
兼ね役で「タクト」役

ヒデじい様の声劇台本置き場にも置いてあります


0:ネオンの明かりと、高いビルが連なる街「ピュラムシティ」
 
0:鉄パイプのような剣を持っている「番犬」はゆっくりと現れる
 
ケルベス:お? なんだなんだぁ、スキルウエポン片手によぉ?
 
ケルベス:ひーふーみぃ、ざっと10人か? 最近はどこで盗んできた? んん?
 
ケルベス:おーおーおー。皆揃って構えちまってよぉ……
 
ケルベス:へへ、はらわたがワクワクするぜ
 
0:ケルベスは自分のスキルウエポンを取り出す
 
ケルベス:機刑剣棒(きけいけんぼう)「ケルベロス」、神経同調!
 
ケルベス:さて、「剣と魔法」に乾杯だァ!
 
0:
 
ケルベス:荒れに荒れた世の中、イカれたファンタジーは変わらねぇな。……ま、慣れたっちゃぁ慣れたが
 
フェルナ:野良犬生活になれたなら、ワンワン吠えてればいいのにね……!
 
ケルベス:っ?
 
フェルナ:機炎(きえん)スキル ナンバー2
 
フェルナ:「ファイアースピン」!
 
0:フェルナは、炎の足でケルベスに回し蹴りを放つ
 
ケルベス:おおっとぉ。誰かと思ったら、フェルナじゃねえか
 
フェルナ:減らず口なんか叩く暇があったら、受けてみなさいよ!
 
ケルベス:機刑(きけい)スキル ナンバー3
 
ケルベス:「ステイルガード」
 
フェルナ:ぐっ……
 
ケルベス:残念無念。もういっちょ、かますか?
 
フェルナ:……いっちょ前に止めるじゃない。腕は全然鈍ってないようね、番犬のケルベス!
 
ケルベス:……おっ
 
フェルナ:なによ?
 
ケルベス:白パンかぁ
 
フェルナ:っ! な!!
 
0:フェルナはすぐに後ずさる
 
ケルベス:スタイルの良い女になったと思ったらぁ……パンツはおこちゃまかぁ
 
フェルナ:死ね、変態、キモイ! 一周回って死ね!
 
ケルベス:落ち着けって
 
フェルナ:……あたしの炎拳(えんけん)が、その生意気な変態顔をぶち破る前に、ちゃーんと話を聞いてくれると嬉しいんだけど?
 
ケルベス:分ぁってるよ。用件は?
 
フェルナ:……明日、ハーディスが業者と会う
 
フェルナ:名前は「シヴァン」
 
フェルナ:色々な組織とコネクションがある奴で……そいつの扱っているチップは、良くない噂が流れてる
 
ケルベス:それで?
 
フェルナ:取引を止めるのに、協力してほしいの
 
ケルベス:身内で片付けな。ウェアズハードには……ハーディスを慕う愉快なスキルプレイヤー達がいるだろ?
 
フェルナ:慕っているから、巻き込みたくないのよ。大勢で行動したら、オズに目をつけられる可能性が高くなる

ケルベス:…なるほど。それで、単独行動ガールってわけか

フェルナ:あなたの実力は分かってる

ケルベス:もう昔のことだよ、そんなもん

フェルナ:ハーディスと肩を並べられるのは、ケルベス、あなた以外に思いつかない

ケルベス:タダではできねえな
 
フェルナ:報酬は払う
 
ケルベス:断ったら?
 
0:フェルナはにやりと口角を上げる
 
フェルナ:それなら、意地でも連れていく
 
ケルベス:ぶっははは…! 変わんねぇな
 
フェルナ:人のこと言えないから
 
0:
 
0:ウェアズハード拠点 大広間にて
 
ユノア:機閃(きせん)スキル ナンバー1
 
ユノア:「エレクトロ」…!
 
0:ユノアが刀を光らせ、ハーディスに斬りかかる
 
ハーディス:機葬(きそう)スキル ナンバー1
 
ハーディス:「スレイヤ」
 
0:ハーディスはそれを軽くいなし、反撃を加える。ユノアが体制を崩した
 
ユノア:っ……!
 
ハーディス:やるじゃないか。攻撃速度があがってる
 
ユノア:ありがとうございます
 
ハーディス:……ただ、斬る寸前。遅かったようにも見えた
 
ユノア:えっ?
 
ハーディス:いくら訓練でも、実践を想定しないと
 
ユノア:……思い浮かべてしまうんです
 
ハーディス:何を?
 
ユノア:手です。あなたの
 
ハーディス:どんな手だい?
 
ユノア:助けてくれた時の、です
 
ハーディス:それが理由?
 
ユノア:その……ハーディスの優しさに斬りかかっているようで……ごめんなさい。いいわけですよね
 
ハーディス:ケルベスと思ったらどうだ?
 
ユノア:辞めてください
 
ハーディス:その勢いがあれば、十分だと思うけどな
 
ユノア:ご冗談を
 
ハーディス:そういえば、フェルナは?
 
ユノア:いいえ。何度か連絡しているのですが……
 
ハーディス:シヴァンとの話が出てからだったね、消えたのは
 
ユノア:……まさか、裏切ったと?
 
ハーディス:既に感づかれたかもしれないな
 
0:ハーディスとユノアの耳元、通話音声が聞こえた。
 
シヴァン:可能性としては、十分にありうる
 
ユノア:っ、通話回線?
 
シヴァン:突然のご訪問、失礼する
 
ハーディス:シヴァンか
 
ユノア:今日じゃなかったはずでは
 
シヴァン:分かってるさ。少し、情報提供をしたくてね
 
ユノア:どういうことですか?
 
シヴァン:最近、私の周りをうろついているネズミさんの気配がしてな
 
ユノア:人気ですね
 
シヴァン:ああ。有名人さ。君たちのような人種に、知らないやつはいないだろう
 
ユノア:貴方の話は聞いてません。それで、ネズミとはなんです?
 
シヴァン:強気なお嬢さんだ。そうだな……あれは確か……ハーディス。君と取引の話をした翌日の、夜だったかな。アジトを襲撃されてね。調べたところ、眼鏡をかけた赤髪のお姉さんが、監視カメラに映っていた。まるでヒーローのごとく、炎のパンチをかましていたのさ
 
ユノア:っ!
 
シヴァン:そのような人間は、君たちの中にいなかったかね?
 
ハーディス:フェルナくらいしか、心当たりがないな
 
ユノア:そんな……
 
シヴァン:心配せずとも、アジトはフェイクだ。肝心な情報は、闇の中
 
ユノア:あなたの心配ではありません。フェルナです
 
シヴァン:おやおや……
 
ユノア:……取引の邪魔をするつもりでしょうか
 
ハーディス:その時は、しかるべき対処をとる
 
シヴァン:お気遣い助かる
 
ハーディス:約束は守るさ
 
シヴァン:明日の正午。場所は第4地区のビル街、その近くに大きな倉庫がある。分かっているな?
 
ハーディス:ああ
 
シヴァン:いいビジネスを期待している。ピュラムシティ最強のスキルプレイヤー殿。……では、また明日
 
0:シヴァンはそう言って通話を切った
 
ユノア:……フェルナ、嘘だよね?
 
ハーディス:不安かい?
 
0:ユノアは悲しそうに自分の服の裾をにぎる
 
ユノア:「平等な平和社会」という理想の元に、ずっと私たちは一緒でした
 
ユノア:そのフェルナが裏切るなんて、考えられません。……何かの間違いです
 
ハーディス:フェルナは、おそらく明日の取引現場に現れる。オズや、他の組織から目を引かれたくはない。予定通り、俺とユノアだけで行動するが、大丈夫か?
 
ユノア:はい。フェルナは、私が
 
 
 
0:
 
0:翌日
 
シヴァン:やはり、やはり
 
0:シヴァンは、ハーディスと約束した取引場所まで来ていたが、誰もいない
 
シヴァン:私のビジネスは、すんなり進んだことはない
 
シヴァン:取引は必ず、血を争う
 
シヴァン:だが、その血を流した先には……退屈な日常を覆す利益がまっている
 
シヴァン:そう思わないか? 番犬のケルベス
 
0:シヴァンは倉庫の入り口にいる人物に声をかけた
 
ケルベス:おお。分かってたのかよ、来るの
 
シヴァン:勘は優れていてね。太古の魔法や術が機械化された世界でも、人間に備わっている本能は失われないものさ
 
ケルベス:その割には色々武装してるじゃないかぁ? 目につけている機械は、オシャレのつもりか?
 
シヴァン:私のスキルウエポンと連動している。血のビジネスに必要さ
 
ケルベス:業者が自ら、スキルプレイヤーやってるたぁ……物騒な世の中だぜ
 
シヴァン:代り映えのない「当たり前」からは、三流のビジネスしか生まれない
 
シヴァン:自分から飛び込んでいくことで、大きなチャンスを得られる
 
0:シヴァンはそう言って、目元に手をあてると、起動音がなった
 
シヴァン:「ヴィシュラード」、神経連結
 
シヴァン:「サーチアイザー」、発動
 
ケルベス:機刑剣棒(きけいけんぼう)「ケルベロス」。神経同調ぉ!
 
0:シヴァンは両腕が、銃口に変形する
 
シヴァン:機弾砲銃(きだんほうじゅう)「ヴィシュラード」。神経同調
 
ケルベス:へぇ! 機械義手か! マジのSFだなぁ、そのウエポン
 
シヴァン:スキルプレイヤーの強さは、「習熟度」で決まる。
 
シヴァン:ウエポンを使わず、チップ重視の戦い方も悪くはないが、対策を練られてしまえば打つ手が無くなる……。最後に残るのは、己の技術だ
 
ケルベス:業者がいう台詞かぁ?
 
シヴァン:私の人間観察によれば、三流は武器を使わず、チップばかり頼る
 
0:シヴァンは両腕をケルベスに向けた
 
ケルベス:っ! 
 
シヴァン:機弾(きだん)スキル ナンバー4
 
シヴァン:「ブラッディホーミング」
 
ケルベス:いきなりミサイルたぁ、気合十分じゃねえか
 
シヴァン:避ければいいというスキルじゃないさ、これは
 
0:ミサイルがケルベスを追いかける。ケルベスが避けて、ミサイルは爆発を起こす
 
ケルベス:っ、なんだこれっ……爆風の中に、針が!?
 
シヴァン:まともに受けたら、ひとたまりもない痛みがお前を襲うだろう。ただ、何度も使えるスキルではないがね
 
ケルベス:痛みに鳴いちまう死に方はごめんだなぁ!
 
シヴァン:無様に鳴きわめく死に方も、悪くないと思うがね
 
ケルベス:こっちは2度目の人生なんだ。さっぱり生きるって決めてんだなぁ、これが!
 
シヴァン:……正面に立った? 避(よ)ける気がないのか?
 
ケルベス:機刑(きけい)スキル ナンバー4
 
ケルベス:「ビーストカウンター」
 
シヴァン:何……?
 
ケルベス:破るように、はじいておさらばァ!
 
0:ケルベスはミサイルと勢いよくはじき、シヴァンへ撃ち返す
 
シヴァン:こちらに返すか……まるで獣のような弾道だ。なれば撃ち落とすのみ
 
0:シヴァンはもう一度「ブラッディ・ホーミング」を放ち、相殺して爆発させる
 
シヴァン:煙がわんさか……さて、奴はどこに
 
ケルベス:見つけたいなら、こっちから牙を向いてやらぁ
 
シヴァン:何?
 
0:煙の隙間からケルベスは顔を出す
 
ケルベス:機刑(きけい)スキル ナンバー1
 
ケルベス:「ファングスティンガー」……!
 
シヴァン:接近が、想定以上に早い……!
 
ケルベス:おおおうらっしゃあああァァ!!
 
シヴァン:っ……! 機弾(きだん)スキル ナンバー2
 
シヴァン:「レーザーキル」!
 
ケルベス:どおっ!? あっぶねぇ……。今度はレーザーかい……多彩だなぁ!
 
シヴァン:(サーチアイザーの索敵より早いか……。あの攻撃、ウエポン搭載の基本スキルだと思ったが……少し違うようだ)
 
ケルベス:ちったぁ焦り顔になってきたじゃないの、業者さんよぉ
 
シヴァン:いいや。ゾクゾクしているの間違いだ
 
0:
 
0:一方、ケルベス達とは離れて、別の所で待機しているフェルナ
 
フェルナ:予想通り。シヴァンは先に来ていたものの……あいつ1人?
 
フェルナ:とりあえず、あの変態馬鹿がチップを奪ったらいいけど……
 
ユノア:誰かと待ち合わせしてるの?
 
フェルナ:っ……! ユノア……!
 
ユノア:ずっと帰ってこないから、心配したんだよ?
 
フェルナ:……あなた1人?
 
ユノア:ハーディスが、あとから
 
フェルナ:そう。妨害しに来たってことね?
 
ユノア:……私は、フェルナとは、戦いたくない
 
フェルナ:取引を辞めるなら、戻ってもいいわ
 
ユノア:シヴァンの事は聞いてるよ。でも、それで全部決めつけるのは……
 
フェルナ:決めつけじゃないわ。フェイクのアジトなんか構えている奴が、怪しくないと思う?
 
ユノア:だからってハーディスまで疑うの!?
 
フェルナ:私だって、こんなことしたくないわよ! ……でも、シヴァンの話が出てきた事をきっかけに、目につくようになったのよ……ハーディスの、顔が
 
ユノア:どんな顔?
 
フェルナ:何か、私達とは違うものを見ているような……得体のしれない顔
 
ユノア:それは、フェルナの勘違いで……!
 
フェルナ:ごめん、ユノア
 
ユノア:……そう
 
0:ユノアはスキルウエポンを構えた
 
ユノア:機閃雷刀(きせんらいとう)「サヘラ」、神経同調……
 
フェルナ:機炎闘格(きえんとうかく)「インフェルノ」、神経同調……!
 
ユノア:お願い……抵抗しないで
 
フェルナ:あんたは見えていないのよッ! ユノア!
 
0:フェルナは拳を燃やす
 
フェルナ:機炎(きえん)スキル ナンバー1
 
フェルナ:「エクスプロナックル」!
 
ユノア:突いた瞬間に、爆風が……やっぱりフェルナはすごいね。でも
 
フェルナ:っ、来る!
 
ユノア:機閃(きせん)スキル ナンバー2
 
ユノア:「スピルドサンダー」
 
フェルナ:っ! がっ……! 
 
ユノア:スピードではこっちが上だよ、フェルナ
 
フェルナ:全く、とんでもない速さね
 
ユノア:嫌なら、武器をおさめて…!
 
フェルナ:おことわりよッ!
 
0:フェルナはそのまま攻撃を続ける
 
ユノア:っ。……機閃(きせん)スキル ナンバー3
 
ユノア:「サイドエレクスラー」
 
フェルナ:右から……違う、左!?
 
ユノア:はぁぁっ!
 
0:ユノアがフェルナに斬りかかる瞬間、フェルナは飛び上がる
 
ユノア:っ、飛ばれたっ…!
 
フェルナ:機炎(きえん)スキル ナンバー3
 
フェルナ:「メテオバニンガー」
 
フェルナ:地面ごと、焼き爆(ば)ぜろッ!!
 
ユノア:っ……! 
 
0:フェルナが地面に炎の拳をめり込ませたが、ユノアに避けられる
 
フェルナ:避けられる……か!
 
0:
 
ハーディス:ユノアはフェルナと。シヴァンも交戦状態。ここまでは想定内だな
 
シヴァン:聴こえるか、ハーディス
 
ハーディス:どうした? フェルナの雇ったスキルプレイヤーにでも、苦戦しているのかい?
 
シヴァン:そこまで読めているなら好都合だ。……今、番犬のケルベスと交戦している
 
ハーディス:……何?
 
シヴァン:どうにも思った以上に、お強いみたいでな。合流を提案する
 
ハーディス:……分かった。第3地区まで来てくれ。廃墟ビルの多い路地の中にひと際大きいタワーがある。それが目印だ
 
シヴァン:なら、番犬とはしばらく鬼ごっこか。噛まれないように気を付けないとな
 
0:シヴァンは通話をきる
 
ハーディス:よりによって、ケルベスと
 
ハーディス:……やっぱり君は、俺の前に出てくるのか
 
0:そこに、後ろから野良スキルプレイヤーたちが現れる
 
ハーディス:ああ、なんだ。モブキャラ君たちか
 
ハーディス:騒ぎを聞きつけた野次馬? それとも俺を狙いに来た?
 
ハーディス:悪いけどさ……雑魚は引っ込んでろよ
 
0:ハーディスはスキルウエポンを握りしめる
 
ハーディス:機葬冥剣(きそうめいけん)「デスタリア」、神経同調
 
ハーディス:機葬(きそう)スキル ナンバー2
 
ハーディス:「ダストデリート」
 
0:ハーディスは横に剣を振ると、一瞬で、目然の野良スキルプレイヤーを薙ぎ払った
 
ハーディス:モブキャラらしく、空気読んで死んどけよ
 
0:ハーディスは我に返ったと思えば、口角を上げて笑う
 
ハーディス:……おっと、俺としたことが。ついくだらないことに時間を使ってしまった
 
ハーディス:じゃあ、合流しようか
 
0:
 
フェルナ:はぁ……はぁ
 
ユノア:……息が荒くなってきたね
 
フェルナ:誰が…! …っ?
 
ハーディス:ご苦労だったね、ユノア
 
ユノア:ハーディス!
 
フェルナ:……来たわね
 
ハーディス:あいにく、俺だけじゃない
 
フェルナ:っ?
 
0:そこに、シヴァンがやってきて、後ろからケルベスも追ってくる
 
ケルベス:おい! 待ちやがれ! ……野郎、後ろに目でもついてんのか……? 逃げながらも、正確に撃ってきやがるぜ
 
シヴァン:ただ、鬼ごっこはここまでさ
 
ケルベス:って、あいつら……!
 
シヴァン:提案の受け入れ、助かった。ハーディス
 
フェルナ:ケルベス…!
 
ケルベス:成程……変な通話してんなぁと思ったら。みんなでお見合いパーティーか?
 
ユノア:なぜ、番犬が……?
 
ケルベス:おお~! 知らない間に、クールな顔つきになったなぁ、ユノア。ただ……おっぱいは、変わらずだが……それがいい
 
ユノア:ッ……!
 
ケルベス:ハーディスは……変わらねえな、なんにも
 
ハーディス:久しぶりだな
 
ユノア:……ちょっと待って……? フェルナ……どういうこと? なんでケルベスと組んでるの? ……もしかして、こいつに、何かたぶらかされたの?
 
フェルナ:…えっ?
 
ケルベス:いやいや、雇われの身だ、俺は
 
ユノア:違う……違う違う違う! フェルナが、フェルナがそんな事するはずがない……!こんな、ゴミ野郎の、気持ち悪いクソ犬なんかの……!!
 
フェルナ:ちょっと、ユノア!?
 
シヴァン:はは。なんだ、言われ放題だな、番犬。そういう立ち位置か?
 
ケルベス:余裕かましてんじゃねえよ、業者
 
ユノア:ああ……分かった。やっぱり……そうなのね……はは
 
ユノア:ハーディス
 
ハーディス:ん?
 
ユノア:こいつ、私が殺していい?
 
ケルベス:おいおい……
 
ハーディス:まぁ、ユノアに任せ……
 
ユノア:(かぶせる)あは……あはははははは! いいよ、ケルベス! ぶっ殺してあげる!
 
ユノア:その身体を割いて、ぐちゃぐちゃにして、生ごみにぶちこんでやるわ!
 
0:ユノアは笑いながらスキルウエポンを、ケルベスに向ける
 
ユノア:こんな淫(みだ)らなクソ番犬は、徹底的にしつけしなくちゃ! そして、フェルナを、フェルナをウェアズハードに戻すのよ……! あは、あはは……!
 
ケルベス:どういう解釈だ、バァカ! めちゃくちゃ過ぎるんだよ! 
 
シヴァン:今度はお前が逃げる番のようだな。せいぜい生き抜けよ、番犬
 
ケルベス:くそったれが……! お胸とそのこわーい所は変わってねぇなぁ、ユノア!
 
ユノア:ほら! 黙ってお座りしなよ、ケルベス……!
 
ユノア:フェルナをたぶらかしたこと、たくさん後悔させてあげるから……!
 
0:ユノアとケルベスは交戦をはじめた
 
シヴァン:面白い女だな、あれは。エンタメ性がある
 
ハーディス:昔から変わらないさ、ケルベスに対しては
 
フェルナ:仲良く話しているけど……まだ何にも終わってないわよ?
 
ハーディス:戻る気はないのかい?
 
フェルナ:シヴァンと一緒にいる時点でありえない
 
シヴァン:これはこれは、嫌われたものだ
 
フェルナ:まともな業者じゃないのよ、そいつは!
 
ハーディス:いつもの業者ばかり選んでいても、仕方がない。そう思っただけだよ
 
フェルナ:それでも……やっぱり変よ
 
ハーディス:何が?
 
フェルナ:貴方の目よ
 
ハーディス:病気にかかったことはないな
 
フェルナ:違う。貴方は、何か違うものを……もっと恐ろしいものを見ているような気がして……
 
ハーディス:恐ろしいとは、君にとってかい?
 
フェルナ:お願い……シヴァンから手を引いて
 
ハーディス:……ユノアとまではいかないが、君の思い込みもたいがいだな、フェルナ
 
シヴァン:せっかくの可愛い部下だが……どうする? 始末するか?
 
フェルナ:やれるものなら、やってみなさいよ……!
 
0:フェルナは拳から炎を放出し、シヴァンに向ける
 
フェルナ:機炎(きえん)スキル ナンバー4
 
フェルナ:「フレイムストレート」!
 
シヴァン:炎の弾……か。撃ち合い合戦なら、立ち合おう
 
シヴァン:機弾(きだん)スキル ナンバー5
 
シヴァン:「ガトリングヘイト」
 
フェルナ:くっ……ガンガン弾を撃ってくるじゃないの……!
 
シヴァン:遠距離を舐めないほうがいい
 
フェルナ:なら……距離なんてどうでもよくなるくらい、でかい一発ブチこんでやるわよ
 
0:フェルナは右こぶしを強く握り、シヴァンに対して、ストレートをぶちかますような構えを取る
 
フェルナ:機炎闘格(きえんとうかく)インフェルノ……神経拡張
 
シヴァン:これは……?
 
フェルナ:フレイムストレート レベルアップ!
 
フェルナ:……はぁぁぁっ!!
 
0:
 
シヴァン:神経拡張……スキルの底上げで、この大きさとは……
 
フェルナ:ありったけのブチ切れ炎……その身にしかと、受けやがれ……!
 
フェルナ:「フレイムストレーザー」!
 
フェルナ:うっらああああああああああああああああああ!
 
0:フェルナの炎が、巨大なレーザーのようにシヴァン達へと襲い掛かる
 
ハーディス:機葬(きそう)スキル ナンバー4
 
ハーディス:「ホロウ・デスサイカ」
 
フェルナ:まさか、吸われてる?!
 
ハーディス:では、こちらも
 
ハーディス:機葬(きそう)スキル ナンバー5
 
ハーディス:「ナイト・ヴォルケイノ」
 
フェルナ:ぐっ! ふざけた攻撃ね、全く……
 
ハーディス:ただ、君の炎は、少し熱かったよ
 
0:ハーディスはいつの間にか、フェルナの喉元に剣を突立てていた
 
フェルナ:っ……くそ
 
ハーディス:抵抗するかい?
 
フェルナ:動けば……喉元をかっきるって?
 
ハーディス:実力差が分からないほど、馬鹿じゃないだろう
 
フェルナ:分かってるわよ……。でも、理想の前なら馬鹿にもなるわ
 
フェルナ:「平等な平和社会」を築くのが、ウェアズハードの理想……あんたはそれを捻じ曲げようとしている
 
シヴァン:ご立派な理想だな
 
フェルナ:こいつの持っているチップは信用できない!
 
0:フェルナはハーディスをまっすぐ見据える
 
フェルナ:あなたは、境界線を超えようとしてるのよ、ハーディス! もう、戻れなくなってもいいの!?
 
ハーディス:とっくに超えているさ
 
フェルナ:……えっ?
 
ハーディス:機葬(きそう)の名において発動す
 
ハーディス:「キネシストッパー」
 
フェルナ:っ、……ハーディスのウエポン技じゃない……これは、チップ技……! 体が、動かない……!
 
ハーディス:一定時間、体を縛る拘束魔法がモデルになってる。しばらくそのままで居てくれ
 
シヴァン:取引を再開してもいいか?
 
ハーディス:ああ
 
シヴァン:邪魔者は抑えられている
 
シヴァン:あとはこの手で……チップを、ゆっくりと渡すだけだ
 
0:シヴァンはチップを取り出し、ハーディスへ差し出す
 
シヴァン:お代はもらっているから、気になさらず
 
フェルナ:……ぐっ…
 
シヴァン:無理に動くなよ、お嬢さん
 
ハーディス:これか……。……クク
 
0:
 
ユノア:機閃(きせん)スキル ナンバー5
 
ユノア:「ライトブリンガー」……!
 
ケルベス:なんだなんだぁ。殺意満々じゃねえかい
 
ユノア:うるさい、うるさい!
 
ケルベス:久しぶりに会ったってのによぉ、今はどうだ? どんなパンツはいてんだ? んん?
 
ユノア:その汚い吠え面、黙らせてやるよ! ほら! 死ね、死ね、死ね!
 
ケルベス:ぐっ……えっぐい攻撃だなぁ
 
ユノア:またお前は……フェルナのことをいじめたんだ!!
 
ケルベス:……ったくよぉ
 
ユノア:私とフェルナの間に、いつも割り込んできて、「スキルの腕前はまだまだだな」って生意気そうに言ってくる。そのたびに、フェルナが嫌がっている顔を見たのよ……!
 
ケルベス:勝手な思い込みだろぉ! お前がフェルナをどう思ってるかくらい、わかってる! だから、聞く耳ってのをだなぁ……
 
ユノア:(さえぎる)お前みたいなクソ犬が……ウェアズハードに……私とフェルナの間にっ……勝手に入ってくるなぁぁぁぁぁぁぁぁ!
 
ケルベス:いっちょ前に吠えてんじゃねえぞォ!
 
ユノア:っ! 
 
ケルベス:フェルナが居なくなっちまうのが、そんな怖いかぁ!?
 
ユノア:お前になにがわかる!! 
 
ケルベス:あれからちったぁ成長したんならよぉ……パンツの1つや2つ、堂々と見せてみろやァ!
 
ユノア:うるさいっ!
 
0:ユノアは、サヘラを力強く握って構える
 
ユノア:機閃雷刀(きせんらいとう)サヘラ、神経拡張ッ……!
 
ユノア:サイドエレクスラー レベルアップ!
 
ケルベス:こいつは……?
 
ユノア:狂影(きょうえい)の電気。その身に刺されて、逝(ゆ)き詫びろ
 
ユノア:「シャドウ エレクスライザー」
 
ユノア:はぁぁぁぁぁっ!!!
 
ケルベス:電気の分身を絡めて、連続移動攻撃……っ!確かに、成長してやがる……!
 
ユノア:大人しく、きざまれろぉぉぉッッ!
 
ケルベス:だが! そんな嫉妬だらけの戦い方じゃ、番犬は黙らせられねえ……!
 
ケルベス:獣機変形(じゅうきへんけい)。ケルベロス、ロッドスタイル!
 
ユノア:……形をっ……変えた……っ!
 
0:ケルベスは、武器を剣からロッドへと変形させる
 
ケルベス:機刑(きけい)スキル ナンバー6
 
ケルベス:「クロウ・ロッディング」……!
 
ユノア:ッ……! 乱暴な振り方なのに……この正確さは何……ッ!?
 
ケルベス:おおおうらっしゃあああァァ!!
 
ユノア:ぐっ…ぁぁぁぁああっ!
 
0:ケルベスの攻撃で、ユノアは吹き飛ばされ、壁に激突する
 
ケルベス:ちったぁ体に応えたぜ、お前のビリビリ
 
ユノア:……
 
ケルベス:はぁ……。自分でも、分かってんだろ?
 
ユノア:……信じたくなかった……フェルナがハーディスを疑ってるのを……そのハーディスが、何か、悪いことをしようとしているかも、しれないのも……それを信じたくなくて……っ
 
ケルベス:フェルナやハーディスがいなくなれば、今まで大好きだったウェアズハードが崩れちまう。それを認めたくねぇ。ならいっそのこと、自分が嫌いな番犬のせいにしちまいたかった。その気持ちはよーく、お前の攻撃から伝わってきたぜ
 
ケルベス:でも、悪いが現実だ
 
0:その時、轟音が響いた
 
ユノア:ッ!………この音は?
 
ケルベス:ほれ……あいつ、やっぱりな
 
0:
 
ハーディス:……スキルチップ。認識完了
 
ハーディス:ウエポン、連動開始。
 
フェルナ:……やらせる、わけにはっ!
 
シヴァン:魔法がきれたかな? でも、動かない方がいい。自慢の胸に穴が開いてしまう
 
0:ハーディスの剣からおびただしい黒色のオーラが溢れ始める
 
ユノア:あれは…?
 
シヴァン:ほう……恐ろしいな……! ここまでの出力を叩きだすか…。やはり、最強のスキルプレイヤー。……楽しませてくれる!
 
ユノア:ハー、ディス?
 
ハーディス:この俺こそが……最強であり……全て
 
ハーディス:俺を妨げるものは、邪魔するものは、誰も居なくなる
 
ハーディス:はは、せっかくだ……この辺り一帯を飲みこむ力、見せてやろう
 
フェルナ:なっ…!?
 
0:
 
ハーディス:機葬(きそう)の名において発動す
 
ハーディス:「既製の死。闇の夜明け、光の滅び。その名は万物(ばんぶつ)の理(ことわり)に返されんことを」
 
ハーディス:「終焉の闇景色(やみげしき)」
 
ハーディス:『死転世界(してんせかい)オールデスコンフェクション』
 
0:
 
フェルナ:っ、なに、この音!? ハーディスの剣が、どんどん光って……??
 
ハーディス:不必要はものは、虚無ヘ去るのみ……
 
ケルベス:物騒極まりねぇなぁ、ハーディス
 
0:ハーディスの剣を、ケルベスが止めた
 
ハーディス:……ケルベス……ッ!
 
シヴァン:ほう、発動を止めたか
 
ケルベス:ユノアも、周りの見えないキュートガールだがよぉ。お前はもっと見えてねぇよ
 
ケルベス:……「タクト」
 
ハーディス:…っ!!
 
0:ハーディスは目を見開き、ケルベスに喰ってかかるように、剣を振った
 
0:互いの武器が競り合う
 
ハーディス:その名で俺を呼ぶな……!
 
ケルベス:なにやってんだ、お前はよぉ……
 
ハーディス:ピュラムシティは、俺にとっての世界だ
 
ハーディス:この体と、「与えられた設定」が、何よりの証拠なんだよ
 
ハーディス:それは君もわかるだろう……ケルベス!
 
ケルベス:……フェルナのバイトで来たつもりだったが、気が変わった
 
ケルベス:やっぱり放っておけねえよ
 
0:
 
0:
 
0:
 
0:別の世界
 
0:とある日本の高校。教室内にて
 
ソウイチ:また書いてんのか? それ
 
タクト:領域に入ってくるな
 
ソウイチ:いやいや、領域って
 
タクト:何の用だよ
 
ソウイチ:暇なんだよ
 
タクト:どうせ馬鹿にするんだろ?
 
ソウイチ:いやぁ? 意外と興味あってよ。これでもゲームするほうだぜ?
 
タクト:ゲームと一緒にするな。それに……あの不良連中と一緒にいるじゃないか、君は
 
ソウイチ:あいつらとは、もう絡んでねぇ
 
タクト:……何?
 
ソウイチ:やりすぎてる輩とは、ダチになれねえんだよ
 
ソウイチ:……でも、途端に虚しくなるもんだなぁ。ダチがいねえと
 
タクト:なら……せっかくだ
 
ソウイチ:ん?
 
タクト:俺の配下にしてあげよう
 
ソウイチ:おいおい……ダチじゃなくて配下かよ、すげぇな
 
タクト:友達なんか、いらないよ
 
0:タクトの悲しそうな表情が、ソウイチの目にうつる
 
ソウイチ:……
 
タクト:それで。なるのか? ならないのか?
 
ソウイチ:ほ、ほんとにガチなんだな……
 
タクト:ならないなら、領域から去れ
 
ソウイチ:はいはい、去らねぇよ。で……配下ってのは……誰の?
 
タクト:「ハーディス」だ
 
ソウイチ:いや誰だよ!?
 
タクト:俺だよ。俺の名前
 
ソウイチ:……お、おおう
 
タクト:お前はウェアズハードの一員だ
 
ソウイチ:う、うぇあ?
 
タクト:俺が作ったギルドだ
 
ソウイチ:は、はぁ……。やっべ、ついていけるか……これ?
 
タクト:お前の名前、自分でつけてみろよ
 
ソウイチ:え? …そうだな……。じゃ、ケルベスで
 
タクト:……へ、へぇ
 
ソウイチ:あ、ちょっと良いって思ったろ?
 
タクト:違う
 
ソウイチ:怒るなって、ハーディス様
 
タクト:んん……配下と言えど、様呼びは、あんまり好きじゃないな
 
ソウイチ:じゃあ、ハーディス……ぐ……うう、きっついぜこれよぉ!! 無理だ、無理
 
タクト:何が?
 
ソウイチ:いやいや、何歳だって話よ。もう高校生だぜ俺ら……? 顔から火が出て、焼け死ぬぜ、こんなの
 
タクト:……そうだよ
 
ソウイチ:あ……すまん。そうすねるなって
 
タクト:別にいいよ。慣れてるし
 
0:タクトはため息をつく
 
タクト:いくらこうやって、架空の設定で呼びあっても、超能力は無いし、魔法もない。ファンタジーの世界は存在しない。そんなこと分かってる
 
タクト:でも、それじゃあまりにもさ……嫌じゃないか
 
0:タクトは、学校の教室から、窓の外を眺める
 
タクト:もし行けるなら、自分の事を知らない世界がいい。そうしたら、そこでヒーローになって、仲間を作って……そうしたら、俺は……どうするんだろうな
 
ソウイチ:いや、どうするって……そりゃ、生きるんだろ、そこでも
 
0:
 
0:2週間後、放課後、学校の屋上
 
ソウイチ:タクト!!
 
0:ソウイチが屋上に来ると、不良たちがタクトに暴行を加えていた
 
ソウイチ:お前ら、ふざけやがって……! タクトは関係ねえだろうが!!
 
タクト:…っ、くそ……くそ……! こんな……こんな奴らに……
 
ソウイチ:この野郎おおお…っ!! 
 
0:
 
0:夕方。帰り道
 
タクト:……っ
 
ソウイチ:大丈夫か…? あいつら、ボコスカやりやがって……
 
タクト:ほら……結局これだよ
 
ソウイチ:っ?
 
タクト:どんなに架空の設定であろうとしても、それに見合うように努力をしても……こんな虚弱体質だ。生まれ持った宿命には抗えない。だから、勝ち目なんてない。暴力で馬鹿にされるだけ
 
ソウイチ:……すまねえ。まさかあいつらが、腹いせに目ぇつけてると思ってなくてよ
 
ソウイチ:明日から、お前と話さない。じゃないと、またやられちまう
 
ソウイチ:……せっかく、ダチになれそうだったけど
 
タクト:こうやって邪魔されるんだよ、何かに、いつも……
 
ソウイチ:……ごめん
 
タクト:……あぁ、くそ
 
タクト:俺の邪魔をする全てを、全部、全部壊すことが……出来たらな……
 
0:しばらく、二人の間で沈黙が続く
 
ソウイチ:…っ、なんだ? 光?
 
タクト:…あれは、トラック?
 
ソウイチ:…おい待て、なんだあのスピード……! 駄目だ! 間にあわ……
 
0:
 
0:
 
研究員:試作型のスキルウエポンでこの性能とは、今までにないデータだ…
 
研究員:ケルベスも確かに優秀だが、ハーディスは凄まじい…
 
研究員:古代にあったゲートの跡地。その近くに居たという青年二人。スキルプレイヤーを気取ったガキが、立ち入り禁止区域に入っただけかと思っていたが……とんだ収穫だな
 
研究員:よし、テストはここまでだ。二人を開放してやれ
 
0:
 
ケルベス:終わったか? 
 
ハーディス:ああ
 
ケルベス:……いいか、タクト。もっかい整理すっぞ?
 
ケルベス:俺達は、トラックに引かれたと思ったら、いつの間にか、この世界に来ていた。……ここまでは?
 
ハーディス:……ああ
 
ケルベス:で、次が……オズの警備部隊?ってやつらに見つかったあと、ここに連れていかれた。んで、武器を持たされて、なんか、よくわかんねぇ実験ばっかり……スキルがどうたらこうたらってさぁ……もう、頭割れそうだぜ
 
ハーディス:体の構造自体は、大きく変わってはいないな
 
ケルベス:なんて冷静な奴……
 
ハーディス:この世界に適応したのかもしれない。虚弱体質だったのに……まるで、別人のような体だ
 
ケルベス:これさぁ、いわゆる異世界転生ってやつだよな? ひぇー、ガチかよ。……でも、ファンタジー世界ってわけじゃねえよな? なんか、未来っていうか
 
ハーディス:ファンタジーの世界が土台にあるものの……それが衰退して、魔法や術が「スキル」として管理される世界……あの研究員の発言から察するに、そういう世界かな、と
 
ケルベス:お前、飲みこみ早いな……流石だぜ
 
ハーディス:ここでは、魔法や術を使う人間を、「スキルプレイヤー」と呼ぶらしい
 
ケルベス:プレイヤー、ねぇ……ゲームみてぇな話だ。……そういえば、あいつら俺達の事を「特殊適合体」とか言ってたな
 
ハーディス:それを管理しているのは、オズという団体……研究員の話を聞く限り、ここを管理している組織だろう
 
ケルベス:あー、わけわかんね……。でも、そう……名前だ、名前
 
ハーディス:被検体No1「ハーディス」、被検体No2「ケルベス」
 
ケルベス:こりゃ偶然か? それとも女神様が、第二の人生を与えてくれたか!?
 
ハーディス:あぁ……そうだな。第二の人生だ
 
ハーディス:……はは
 
ケルベス:……タクト?
 
ハーディス:じゃあ、本当に。俺である必要がない……タクトが居ない世界へ来たんだな
 
ケルベス:っ……?
 
ハーディス:……決めた。研究所から脱走する。みすみすこんな力を手に入れたんだ。奴らの実験に付き合っても、ロクなことはない。……そして、脱走した後は、俺達と同じ、スキルプレイヤーを集めた団体を作る……!
 
ハーディス:始めるんだ……第二の人生を……!
 
0:
 
0:数ヶ月後。ある孤児院にて
 
フェルナ:っ……
 
ハーディス:怪我はないかい?
 
ユノア:怖いよ、フェルナ
 
フェルナ:あんた、誰?
 
ハーディス:ハーディスだ。君たちを怖がらせていた悪者は、全員追い払ったよ
 
ケルベス:おーい!ハーディス! そっちはどうだ!? こっちは全員、無事だぜ~!
 
フェルナ:……
 
ハーディス:大丈夫だ。さぁ、手をとって、君も
 
ユノア:…ぁ
 
0:
 
フェルナ:はぁっ!
 
ハーディス:良い動きだ。二人とも
 
ユノア:っ……てやぁ!
 
ハーディス:成長が早いな。この調子なら、ウェアズハードを任せられるくらいには、大きくなりそうだ
 
ユノア:ハーディス、いなくなるの?
 
ハーディス:そういう意味じゃないさ。……期待してるってことだよ
 
ユノア:……良かった
 
ケルベス:おお~。早速やってるな、ハーディス
 
フェルナ:あ
 
ケルベス:ん?
 
フェルナ:近づくな変態
 
ケルベス:お……おいおい。ちょっとパンツの色をさぁ、知ったくらいじゃねえかよぉ
 
ハーディス:それは犯罪だな
 
ケルベス:いやいや! 俺はな? フェルナの落としたメガネをこっそり持っていこうとだな……
 
ユノア:フェルナ? ……ケルベスにひどいことをされたの?
 
フェルナ:風呂入ってる時、更衣室を覗きに来た
 
ケルベス:覗きに来たってなんだよ! ……まぁ確かに、気にはなったけどぉ……
 
フェルナ:ここで成敗!!
 
ユノア:許せない
 
ケルベス:おい、落ち着け!
 
ハーディス:はは
 
ケルベス:はぁ……。第二の人生っつっても、ハーレム補正くらい欲しかったなぁ……
 
ハーディス:残念だったな
 
ユノア:第二の、人生?
 
ケルベス:俺とこいつにしか分からない、ただのジョークだ。気にすんな
 
ハーディス:よし。もう少し続けよう。ケルベスは?
 
ケルベス:俺はいいよ。このまま観戦する
 
ユノア:変なところ見たら許さないから
 
ケルベス:しねぇよバァカ!
 
0:
 
0:それから1年後。
 
ハーディス:……アジトにいる雑魚共は……これで全員か……
 
ケルベス:……なぁ、ハーディス。やりすぎじゃねえか?
 
ハーディス:どこが?
 
ハーディス:こいつらはつい先週まで、ウェアズハードの前に押し入ってきた野良共だよ。害のある組織と、繋がっている可能性もある
 
ケルベス:でもここまでやるか…!? 最初の攻撃で十分だったろ!
 
ハーディス:せっかくの異世界ライフなんだからさ、楽しまないと
 
ケルベス:そういう問題じゃねえ! ……これじゃ、駄目だ
 
ケルベス:このやり方じゃ、きっと、人望をなくしちまう……
 
ハーディス:……なんだと?
 
ケルベス:今はまだ、フェルナ達も分かんねえだろうけどよ……あいつらも成長すりゃ……まぁユノアはちったぁ心配だが、フェルナは疑り深い
 
ハーディス:彼女たちには優しくするよ。ウェアズハードの皆も
 
ハーディス:でもウジ虫は、どこまでいってもウジ虫だ
 
ハーディス:邪魔な奴を消して、英雄になれる力があるのに……使わない神話があるか?
 
ケルベス:お前……
 
ハーディス:もういい。君は出ていってくれ
 
ケルベス:……っ。あぁ、分かったよ
 
ケルベス:……変わっちまったな、タクト
 
ハーディス:俺は「ハーディス」だ。その名前で呼ぶのは、辞めてくれないか?
 
ケルベス:……そうかよ
 
0:
 
0:現在
 
ケルベス:丸ごと壊しちまおうとするなんざ、やりすぎだぜ
 
ハーディス:大丈夫さ。ウェアズハードの皆は巻き込まないよ
 
ケルベス:だからな……違うぜ。あの頃から変わってねぇ。全部はき違えてる
 
ハーディス:何を間違えたっていうんだ? 君にわかるのか?
 
ケルベス:……まず、フェルナが離れようとした。ウェアズハードから
 
ケルベス:それとユノアだ。あいつは、フェルナが逃げたことで揺らいでいた。それはフェルナに対しての信頼だけじゃない。……お前にもだ。
 
ハーディス:それで?
 
ケルベス:ここから言えるのは、お前にはもういるんだよ。ダチ以上の……「平等な平和社会」を信じている仲間が
 
ハーディス:掲げた理想は本物だよ。だから消すんじゃないか
 
ケルベス:……お前な
 
ハーディス:虚弱体質の俺は死んだ。これからは、意のままに現実を変えられる
 
ケルベス:境界線を超えるな、ハーディス!
 
ハーディス:だから、とっくに超えてるんだよ!
 
0:ハーディスが叫び、一瞬しずまる
 
ハーディス:この世界に来た時から……俺の設定が現実になった時から、決まっていたんだ
 
ケルベス:いいか? お前が見ている世界はほんの一部だけだ。ピュラムシティはこの現実にある。フェルナやユノアは、お前の中に出てくる登場人物じゃねえ。生きている人間で、仲間だ
 
ケルベス:こんなに仲間がいるのによぉ、お前は破壊ばっかり望んでいやがる。もっと違うものに、目を向けていいんじゃないか?
 
ハーディス:邪魔なんだよ。どいつもこいつも
 
ハーディス:モブキャラ共は、いつも俺の世界で吠えて、噛みつこうとしてくる……
 
0:ハーディスはゆっくり、機葬冥剣「デスタリア」を構えた
 
ハーディス:ケルベス。君も、噛みついてくるのか?
 
ケルベス:……ハーディス
 
ハーディス:牙を向くつもりなら、ここで消えてくれよ。モブキャラ
 
0:ケルベスは機刑剣棒を構える
 
ケルベス:機刑剣棒(きけいけんぼう)「ケルベロス」、神経同調ぉ……!
 
ハーディス:機葬冥剣(きそうめいけん)「デスタリア」、神経同調
 
0:
 
ユノア:ハーディスは……やっぱり、裏切ってたんだ
 
フェルナ:ユノア、しっかりしなさい!
 
ユノア:……ごめん。私、フェルナの事、信じてなかった
 
フェルナ:ううん。無理もないわ、気にしてないから大丈夫
 
ユノア:……今までハーディスが見せた笑顔は、全部嘘だったの……?
 
フェルナ:……分からないわ
 
フェルナ:でも、皆は本気で信じていた……その日々は本物よ
 
フェルナ:真意を確かめたかったら……あのイケすかないシヴァンを倒した後に、あいつの……ハーディスの顔をぶん殴って、直接問いただせばいいのよ。ふざけんな!ってさ
 
フェルナ:だから、そんなに泣きそう顔しないで、ユノア
 
ユノア:……ごめん、ごめんなさい
 
0:そこに、パチパチと拍手が聴こえた
 
シヴァン:お涙をありがとう。このお話はいくらかな?
 
フェルナ:っ、シヴァン……
 
シヴァン:でもあいにく、理解が出来なくてね。品物は願い下げだ
 
フェルナ:あんたに買わせるものなんてないわよ。犬の糞でも喰ってなさいな
 
シヴァン:使いようによれば、糞は肥料になる。君たちの感動シーンよりは、微々たるものだが、利益はでるだろう
 
ユノア:……ハーディスは、止める
 
シヴァン:おやおや。勇気を振り絞って、寝返ると
 
ユノア:元より、誰の味方でもないでしょ?
 
シヴァン:ああ、味方は要らない。利益が生じるか、それが全てだ
 
0:シヴァンは怪しくも楽しげに笑う
 
シヴァン:ビジネスの種になれば、仲良くなるだろうし、途中で意味がないと判断すれば、縁を切り、邪魔なら殺す
 
シヴァン:信用と信頼、信じるか裏切るか、その表面的な駆け引きが発生するのは、ビジネスならの醍醐味だ
 
フェルナ:あっそ。哀れな考え方ね
 
シヴァン:至極、楽しくて仕方がないよ
 
0:シヴァンは腕の銃口をフェルナたちに向ける
 
シヴァン:機弾銃砲(きだんじゅうほう)、「ヴィシュラード」神経同調
 
フェルナ:機炎闘格(きえんとうかく)、「インフェルノ」神経同調ッ!
 
ユノア:機閃雷刀(きせんらいとう)、「サヘラ」神経同調……!
 
シヴァン:彼はいい客だ。妨害はさせない……
 
シヴァン:機弾の名において発動す
 
シヴァン:「白き壁。浄化の気。その名は万物の理に返されんことを」
 
シヴァン:「ホワイトスクエア」
 
ユノア:っ、……これは? 白い壁?
 
フェルナ:閉じ込めるなんて、嫌でも行かせない気ね……!
 
シヴァン:いいや。プレゼントをしたいと思ってね
 
0:シヴァンは両腕を構えると、様々な銃口や砲口が連なった形に変形する
 
シヴァン:機弾(きだん)スキル ナンバー6
 
シヴァン:「ランページ・シューティング」
 
シヴァン:さぁ、ありったけの銃弾だ。死の口座へ振り込んでやろう
 
フェルナ:なんてっ、弾の数……!
 
シヴァン:そう。細工もされていない普通の弾やミサイルだ……跳ね返る事をのぞいてな……!
 
ユノア:……これは……弾が、壁に反射して!?
 
シヴァン:はははは……乱れたダンスの始まりだ
 
ユノア:フェルナ! 大丈夫!?
 
フェルナ:ええ! こんなもの、全部燃やし切ってやるわ!
 
シヴァン:ビジネスは尽きない
 
シヴァン:人は利用できる。どんな過去をおくろうが、どんな感情を持とうが。取引相手として成立すれば問題ない
 
フェルナ:都合が良すぎて反吐がでるね! それは!
 
フェルナ:機炎(きえん)スキル ナンバー7
 
フェルナ:「空炎 旋回蹴(くうえん せんかいしゅう)」!
 
フェルナ:たぁぁぁ!
 
シヴァン:っ……空中からの回し蹴り……乱暴なアクションだ
 
0:シヴァンは咄嗟に、フェルナの方向に手を向ける
 
シヴァン:機弾の名において発動す
 
シヴァン:「ホワイトフィールド」
 
フェルナ:防がれた……けど! っ今よ! ユノア!
 
ユノア:機閃(きせん)スキル ナンバー8
 
ユノア:「雷花一閃(らいかいっせん)」!
 
シヴァン:っ……邪魔くさい……!
 
ユノア:閃光の中へ、突き穿(うが)つ!
 
シヴァン:お熱い展開など、金にもならんよ……!
 
0:シヴァンはホワイトフィールドで無理やり弾き飛ばし、二人に両腕を向ける
 
ユノア:っ、あいつの銃口に光が溜まっていく……?
 
シヴァン:機弾(きだん)スキル ナンバー7
 
シヴァン:「リアマジック・キャノン」
 
シヴァン:お前達の赤字ライフは、ここで幕締めだ……!
 
フェルナ:ユノア! やるわよ!
 
ユノア:ええ!
 
フェルナ:機炎(きえん)スキル コネクト!
 
ユノア:機閃(きせん)スキル コネクト…!
 
シヴァン:っ…? スキル連携だと?
 
フェルナ:炎(えん)の拳(こぶし)と、雷(らい)の刀(かたな)
 
ユノア:斬(ざん)を刻んで、撃(げき)を打つ!
 
フェルナ:「バニシング…
 
ユノア:サンダスター」!
 
シヴァン:くそ…がッ…!
 
0:
 
ハーディス:機葬(きそう)スキル ナンバー 2
 
ハーディス:「ダストデリート」!
 
ケルベス:ちっ……でっけぇ薙ぎ払い攻撃……やっぱり強いな…
 
ハーディス:あの時。オズの研究員は、君より俺のほうが上だと言っていた
 
ハーディス:つまり、この世界ではまごうことなく、俺が主人公なのさ……!
 
ケルベス:あぁ、そうだな……! 最強になれて、周りに女の子がたくさん居てチヤホヤされてんだ……。夢が叶ってんのによぉ……!
 
ハーディス:耳障りなウジ虫が、ずっと湧いてくるんだよ……だからやるのさ
 
ハーディス:機葬(きそう)スキル ナンバー8
 
ハーディス:「惨死滅殺(ざんしめっさつ)」
 
ハーディス:惨めな死を、体に殺し受けろ
 
ケルベス:くそ……っ。一つ一つが正確なうえに、武器で受けりゃとんでもねぇ圧力ときた……! 一発ミスったらあの世行きだぜ……!
 
ハーディス:頼むから、脇役は黙ってくれよ……!
 
ケルベス:いいや、まだ吠え足りねぇもんでなぁ……! 
 
0:ケルベスが距離を取る
 
ケルベス:機刑(きけい)の名において発動す
 
ハーディス:…スキルチップ?
 
ケルベス:「遠吠えの殺(さつ)。噛み砕く愉悦(ゆえつ)。その名は、万物の理に返されんことを」
 
ケルベス:「バーサーク・ドッグス」……!
 
0:ケルベスの周りの空気がゆがんだと思えば、彼の周りに灰色のオーラが生まれる。やがて形を成し、牙の鋭い獣のような外観になり、彼を包む
 
ケルベス:……噛み合い上等……狂犬の牙と張り合ってみろやぁ……。タクトぉぉ!
 
ハーディス:……っ!
 
ケルベス:機刑(きけい)スキル ナンバー1
 
ケルベス:「ファングスティンガー」!
 
ハーディス:まともに撃ち合えない……なんだこの、激しい攻撃は……! 変形させながら、これが維持できるのか……!
 
ケルベス:機刑(きけい)スキル ナンバー7
 
ケルベス:「クロウ・ロッディング」!
 
ハーディス:……機葬(きそう)スキル ナンバー7
 
ハーディス:「ダーキングショック」!
 
ケルベス:く…っ……なんつー衝撃波だっ……! 近づけねぇ
 
ハーディス:そこで、大人しく見ていろ……
 
ハーディス:……機葬(きそう)の名において発動す
 
ケルベス:っ!
 
ハーディス:既製の死。闇の夜明け。光の滅び。その名は万物の理に返されんことを。
 
ハーディス:終焉の闇景色(やみげしき)。
 
ハーディス:死転世界(してんせかい)「オールデスコンフェクション」
 
0:ハーディスの剣からどんどんと闇があふれる
 
ハーディス:邪(よこしま)なる魔共を、全て喰らい、覆してやる……!
 
ケルベス:やっぱそう来るかい……だったら、最後まで吠えきってやらぁ
 
ハーディス:本気で噛みついてくるか? ケルベス!
 
ケルベス:機刑(きけい)スキル ナンバー8
 
ケルベス:「鋼破 爪鳴牙(こうは そうめいが)」
 
ケルベス:鋼(はがね)を裂いて、噛み吠える……!
 
ハーディス:舐めるなよ、番犬ごときがあああああああああああああああ!!
 
ケルベス:おおおうらっシャあああアアアアアアアアアアアア!!!
 
0:
 
シヴァン:……っ。流石、ハーディスの部下だ……一筋縄ではいかない
 
フェルナ:ここまでよ
 
シヴァン:退職する予定は無くてね……これでもまだ、若い方でな
 
フェルナ:っ!? 何をする気!?
 
シヴァン:また再会をしたときは、是非ともチップのご検討。宜しく
 
0:シヴァンが消えたと同時に、白い壁が崩れ去った
 
0:
 
ケルベス:っ、はぁ…はぁ
 
ハーディス:……そんなチップがあるとは
 
ケルベス:とっておきはぁ、最後に残しておくもんだぜ?
 
シヴァン:面白いチップを持っているな、番犬
 
0:突然、シヴァンはハーディスの後ろに現れる
 
ケルベス:シヴァン!?  いつの間に!?
 
シヴァン:スキルチップの力さ。驚く事ではない
 
ハーディス:っ、なんのつもりだ?
 
シヴァン:別のプランだ
 
0:シヴァンは手をかざして、スキルを発動する
 
シヴァン:機弾(きだん)の名において発動す
 
シヴァン:「ディサーピア」
 
0:
 
ケルベス:消えた…か。瞬間移動系のスキルチップまで詰んでやがったとは、ここまで想定してたか?
 
フェルナ:逃がした、わね
 
ケルベス:よう
 
フェルナ:突然消えたと思ったら、いつの間にかハーディスの傍にいて……結局チップは奪えないままね
 
ケルベス:いや……おそらくチップは使い物にならなくなってる
 
フェルナ:えっ?
 
ケルベス:あいつと最後にぶつかった時……チップが割れるような音が聞こえた、その後、急に発動が収まってたから……おそらく壊れたんじゃねえかと思う。まぁ、それもシヴァンが分かっていたのかどうかまでは、憶測だけどな……
 
ユノア:……終わったのね
 
ケルベス:おぉ? 今度はさっぱりしてんな
 
ユノア:うるさい。黙らなかったら、その舌ちぎる
 
ユノア:……なんで、ケルベスと協力を? フェルナはこの変態に、不真面目なクソ番犬に、破廉恥なこと、されてるよね?
 
ケルベス:いやめちゃくちゃ言うな
 
フェルナ:別に、本気でヤバいことをしたわけじゃないわ
 
フェルナ:ただ変態なのは合ってるけど
 
ケルベス:そりゃ良かった
 
ユノア:だから黙って
 
フェルナ:ユノア。ケルベスの実力を、知らないわけじゃないでしょ
 
ユノア:……
 
フェルナ:もしもハーディスが一線を超えるような事態が起こった時、ケルベスの顔が浮かんだ、それだけのことよ。……本当は、ハーディスを説得したかったんだけどね
 
ユノア:……許せない。ハーディスは本当に裏切った
 
0:ユノアから嗚咽が漏れる
 
フェルナ:ユノア……
 
ユノア:……じゃあ……あの時の、助けてくれた笑顔は、なんだったの……
 
ケルベス:本物だと思うぜ
 
ユノア:っ?
 
ケルベス:孤児院でお前ら助けた時。ハーディスはマジだった
 
ケルベス:……ダチだから、分かる
 
ユノア:あなたなんかに…何が
 
ケルベス:はいはい残念、俺のほうが物理的に、付き合いが長いんだわ
 
ユノア:……む
 
ケルベス:……あいつもきっと欲しがってんだよ。自分の周りに、仲間を。ようは寂しがり屋だ
 
ケルベス:それに、もしあいつが「ただの道具」って思ってんなら、今頃みんな、ばっさり斬られてるぜ
 
ユノア:……そうなの、かな
 
ケルベス:俺はそう思うけどな。だから、ワンワン鳴いちまうのは早い
 
ユノア:……むかつく
 
ケルベス:ははっ、それでいいんだよ、お前は
 
フェルナ:ありがとう、ケルベス
 
ケルベス:なんだよ、急に
 
フェルナ:いえ、今はちゃんと、本音で
 
ケルベス:なら、報酬をもらおうか
 
フェルナ:いくら?
 
ケルベス:お前のパンツ一丁
 
フェルナ:殺す
 
ケルベス:だぁーっはっはっはっは! 
 
ユノア:フェルナ。やっぱりこいつ、殺していい? 居てもたってもいられなくなってきた……ねぇ、どうせなら一緒にケルベス殺そ? ぐちゃぐちゃにしよ?
 
ケルベス:お、おい! ウエポン出すな! 馬鹿! 馬鹿チン! 改心したんじゃねえのかお前はぁ! 
 
フェルナ:だ、大丈夫よ! ユノア!、あとであんたの分までぶっ飛ばしとくから!
 
ユノア:……フェルナがそういうなら
 
ケルベス:はぁ……。まいいや
 
ケルベス:報酬は、なしでいい
 
フェルナ:えっ?
 
ケルベス:そんかわり、フェルナ、ウェアズハードに残ってくれ
 
ケルベス:あとユノアも、今まで通り活動を続けてほしいんだ
 
ユノア:……どういうこと?
 
ケルベス:「平等な平和社会」って理想がある団体なんざ、ピュラムシティじゃ珍しい。だからその活動は、日の目を見るまで、続けてくれ
 
ケルベス:あと……ハーディスが帰ってこれる場所が、あったほうがいい
 
フェルナ:あんたはこれからどうするの?
 
ケルベス:俺? 俺はまぁ、あいつを説得するかなぁ。やることがねぇし
 
フェルナ:別に、協力してやってもいいわよ? その吠え面にめんじて
 
ケルベス:おー、いうねぇ、じゃあお胸とパンツを見してくれたら……
 
ユノア:あはははは……! やっぱり今ここで殺してあげる! ケルベス~!
 
ケルベス:嘘だって! 辞めろーー!!!
 
0:
 
0:
 
ハーディス:……助けてどうするつもりだよ?
 
シヴァン:言ったじゃないか、いいビジネス相手だって
 
ハーディス:……でも、取引は失敗。チップも粉々だ
 
シヴァン:自暴自棄になるなよ、最強のスキルプレイヤー
 
0:シヴァンはポンと、ハーディスの肩をたたいた
 
シヴァン:お前は才能がある。私の見立てでは、ケルベスよりも、ずっと遥かに
 
ハーディス:都合がいいだけだろ
 
シヴァン:はははは、まぁそれもある。ただ、お前が見せてくれたチップの高出力……模倣品だというのに、あのような結果が出るとは思わなくてな
 
ハーディス:……何?
 
シヴァン:「死転世界(してんせかい)オールデスコンフェクション」……オリジナル品は易々と手に入らないものだ。お前が使っていたのは、それを再現したチップだ。本物の威力は……比べ物にならないと聞く
 
ハーディス:俺で試していたのか。……なぜそんなことを?
 
シヴァン:分かっていると思うが、私が売っているスキルチップは、正規のものじゃない。今回のもそうだ。一般のスキルプレイヤーだとあまりに扱えず、スキルが発動しないか、発動をするがウエポンが壊れてしまうか……その人「自身」が壊れるか
 
シヴァン:しかし、お前にはそんなことが無かった
 
ハーディス:だから、何がいいたい?
 
シヴァン:もしお前が、正規じゃないスキルチップを極めた……最強のスキルプレイヤーになったとしたら……。そう考えると好奇心が湧いてしまってな
 
ハーディス:……
 
シヴァン:これは投資だ。……悪い話か?
 
ハーディス:……いいだろう。俺も諦めたわけじゃない
 
シヴァン:なら、交渉成立だ
 
ハーディス:……目的は?
 
シヴァン:街を牛耳ったオズが転覆するような事態を想像してみろ? ……行く末は、もうチップの売買じゃ収まらない快感になる……ククク
 
ハーディス:そんなことか……
 
シヴァン:でもそうだな……邪魔者がいる。それこそ、ケルベスが
 
ハーディス:……番犬のケルベス。必ず、ケリをつける
 
 

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