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短編小説集

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笑いとは別に短編小説を書いていきます。
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記事一覧

「体内の火で燃やす食べ物」

体の中に火が生まれてから、どれほど年月が経っただろう。二日だ。二日しか経ってない。だからみんな、てんやわんやしている。 熱い!その声が、あちこちで聞こえ、それは全人類が言った言葉かもしれない。 最初に体内に熱さが来て、次に体内は温まりだし、次第に安心感のようなものが体内を包み込み出した。 そして、何を食べても、美味しく感じるようになった。 どんな冷たい食べ物も、生物も、体内で一番良い火加減で燃やしてくれて、旨みが大量に溢れた状態で味が喉まで逆流して口の中に広がる。 火加減

【短編小説】入眠セントウメンタル

以前のアカウントで書いた小説の再投稿です。 来なかった夢にただいまって言う。 よせばいいのに足つぼを刺激する踏み台をDAISOで買う。 外は寒いって思う、この感じ、夏なのかな。 私が丁度おかしくなったのは昨日の夜で、透明なLINEに、げんなりした後、不透明な嘘に、新しい自分で生きようとしょうがなく決意しただけだ。 秀君のメッセージはいつだって空っぽで、好きって文字には何も帯びてないように見える。何の色も付いてない。そこにあるのは指先だけ。私の指先には愛情の温かみがある。筈。

【短編小説】焚き火で煮込まれた空気

ゴトゴトグツグツと、焚き火が生命を煮込んでいる この空気という生命を煮込み、僕達は安らかに団欒出来る 君はここに来たことはある? ううん、ないよ。君は? 僕もない。気付いたら来ていたんだ 僕もだ 僕達は、なぜか今日、この焚き火に辿り着いて、こうして温まりながら喋っている 君は、おでこにボールペンで横線を引いている それについて、触れていいかわからない でも、この焚き火で煮込まれた空気では、話しかけても良いような、気がする おでこ、何か書いてるの? ああ、息子の落書き、会

【短編小説】しまうまの恋人

(前のアカウントで書いた短編小説の、再投稿となります) しまうまの恋人は私。そう子供の頃は信じて疑わなかった。 しまうまは動物園で一度しか見た事ないけれど、一目惚れをした。付けた名前はゼブラ。そのまんま。その名前も、カッコいいなって思ったんだ。 大人になった今も、しまうまの事は好き。昔は恋人だと思っていたな、なんて懐かしさに浸りながら。 「ちょっと、しーちゃんさっきからボーッとしてない?(笑)なに考えてるのー、仕事しなきゃダメでしょ。入力どこまで行ったの?」 「やっぱ私

【短編小説】運命で出逢ってしまった二人

小汚い格好をした中年らしき男が、フラフープを回していた。素敵な腰使いで。 一方その頃、小汚い格好をした中年らしき女は、一人でバトミントンをしていた。シャトルを落とさないように、ポンポンと叩き続けていた。素敵な腕使いで。 二人が出逢うまで、あと10時間。 男は、外に出て、セブンイレブンに向かった。酒が欲しくなったのだ。しかし途中で、本当に自分はお酒を欲しているのかわからなくなり、引き返して家に帰った。 女は、外に出て、サイゼリヤに向かった。お腹が空いたのだ。しかし途中で、家に

【短編小説】同棲相手はスーパーマン

(こちら、過去に別のアカウントでnoteに載せた短編小説の、再投稿となります) まじでヒく。 今日も何もせずYouTubeばかり観ている。 本人からすると「娯楽の勉強だから」とか、うっとうしい馬鹿みたいな事ばかり言ってくる。 はやく出てけよ。そうじゃなきゃ私にも責任あるみたいじゃんか。 スーパーマンの癖に、敵が現れてもなんもしない。 だから街は滅んでいく一方。 私との愛なんかたいしてなくて、ただYouTubeにはまって、ネトフリでアニメばっか観て、敵と戦って怪我したり死ぬの

【短編小説】意味のない命を下さい私にも!

全部抱きしめて症候群の中原は今日も授業中にBluetoothで音楽を聴いていて嫌いだが、嫌いな事に理由は無い。というか理由を付けたくない。なぜ付けたくないのか?それすらも理由を付けたくない。そういう気持ち、君にもわかるかな? のどかな景色に人参の爆弾を落として、世界にドッジボールを開始させる。全部の国が一つのボールを手にして、他国に突撃して投げ合うのだ。そんな妄想をしていたら先生に当てられたから辛い。無駄だ。私を当てても無駄だ。何故なら、わからないしか絶対に言わないからだ。何

【短編小説】腕の切り傷を定規で測る

「はい、あなたの左腕の切り傷は3cmね。次」 健康診断で、リスカとアムカの長さを測られるようになって、何年が経っただろうか。 今では、虫歯を持っている人と同じくらいの人数が、手首か腕を切っている。 健康診断で、何故かわからないが、長さを測られる。何故なのだろう。 最初は「意味がわからない」という反発がSNSを中心に盛んに起こったが、「なんとなく自分の精神状態のおさらいが出来て安心する」という理由で、人々はなんとか納得した。 今でも潜在的には納得いってないのだが、人々はもうしょ

【短編小説】失われた妖精

凶暴な恐竜が暴れる時代は終わり、世界は楽しくルンルンと素晴らしい世界になった。 しかしその世界は、跡形も無く、何も残さずに全て透明に消えていったので、人々は全く知らない。だが、確かに存在していた。 ピンクと黄色のボーダー柄の羽根を持った妖精。頭からは黄色の触角を生やしている。その妖精が、世界に50億は居た。 それは恐竜絶滅からかなりの時間を経た後、突然一匹現れ、そしてポンッ!ポンッ!という音と共に何匹も現れ、2時間くらいで50億にまで増えた。 そして、三年したら、バシュッ!

【短編小説】修理しても開かない扉と、汚い折り鶴

その扉は、板チョコのような見た目をしていて、ドアノブは銀色で板チョコの包み紙のような色をしている。 板チョコのような扉。しかし、その扉を開いた先は、お菓子とはかけ離れた、汚部屋でありゴミが散乱している。 しかしそのゴミも逸脱していて、全てが折り鶴。千羽鶴のサイズの記憶を頼りにすると、2万羽程の鶴がいるのではないか。胸まで積もっているのだ。 折り鶴なのに、なぜゴミ扱いされているのか。 それは、邪魔でしかなく、簡単に踏まれていて、そして、臭い。謎の臭い匂いがする。 そんな部屋の

【短編小説】人人人人人人人人人人

人人人人人人人人人人人人人 命命命命命命命命命命命命命 愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛 音音音音音音音音音音音音音 丼丼丼丼丼丼丼丼丼丼丼丼丼 うわ!この世の大切な物を押していく音ゲーに、丼がバグで入ってきた!!! なんだ丼って、何丼だよ、丼単体なんてそんな物はないんだよ 音ゲーも狂い出したな 世の中全てが狂い出して、この音ゲーが最後の拠り所だったのによ もういいや、この街も燃やして去ろう そう言って、滝仁志は、たいまつを投げて街を燃やし、別の島に羽ばたいて飛んでい

【短編小説】卑屈なピクニック

そのピクニックに参加している人は、みんな卑屈であった。 自分なんてダメだ。 そう思いながら、自分で作ったお弁当を食べていく。 卵焼き、ウインナー、カマボコ、白飯。 美味しくないな、そう思って、お弁当を食べる。 そんな時、空から一人の天使が羽ばたきながら降りてきた。 天使はそいつらに向かってこう言った。 「お前達は立派だよ。問答無用でな」 なんでこいつはこんな事を言うんだ。 卑屈なみんなは石を見つけては投げた。 天使はヒョイヒョイと避けながら、「立派だよ」「たいしたもんだ」「

【短編小説】尊い痛みを笑われる

体がねじれていく。 絞られていくと言ってもいい。 二体の鬼が、俺の体をねじり、緑色の体液が滲み出てくる。 鬼はワハハハハと笑いながら、俺の叫び声を聞いている。 俺は、タコ焼きを食べたい。 フリスビーを投げたい。 間違い探しをしたい。 雪かきをしたい。 凧揚げをしたい。 天気予報をしたい。 なんでもいいから、何かしたい。 ねじられる以外の、何かをしたい。 ねじられている時、俺は、この世のかけがえのない物を知っている。 ただし、ねじられが終わって、しばらくしたら、また元の、当たり

【短編小説】どーでもいい世界におもえなかったのだもん

消化器で頭を殴った。 親が飼っている犬を殴った。 血まみれなのを見て笑う。 笑って声が出そうになるが、耐える。耐える。 目から血が垂れてNIKEのマークみたいになっているから、俺は踏んだ。靴にしてやった。 おまえはもう犬じゃなくて靴で、そして何度も踏む事で、生ゴミになる。 生ゴミになったお前を、俺は、食べる。 全てをすくって食べて、吐きそうになっても食べて、1時間かけてなんとか完食し、おれは、首を吊った。 犬と一緒にこの世を去りたかったんだ。 文字通り、一緒に。 あの世に