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裁判員裁判で確定した死刑囚の執行予想

はじめまして。
私はアルトKと申しまして、主に刑事事件・裁判等に興味を持ち調べているものです。

さて、初回は「裁判員裁判で死刑が確定した各死刑囚の今後5年以内での執行の可能性」について書いていこうと思います。
死刑の執行は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあってか2019年12月に魏巍元死刑囚(福岡)が執行されて以来行われておりませんが、今後流行の終息傾向が見られるようになれば早ければ今年末にも行われると言われております。
そうなると、「誰が執行されるのか」というのは死刑囚の本人やご家族、被害者のご遺族や周辺支援者の方だけでなく、ニュースで事件のことを知った皆様も気になってくるのではないでしょうか。ということで、表題のものについて書いてみました。

なお、裁判員裁判下での死刑囚に限定した理由は
・リアルタイムで知っている事件が多い
・報道等でも比較的取り上げられたことが多く検討する資料が多い
・単純に旧制度下の死刑囚の数が相当多くそれらについて個別に検討するのが難しい
の3点からです。

※この記事はあくまで私の主観に基づいて作成されたものであり、公的機関や専門家による検証を経たものでないことにご留意ください。また、この記事を参考に知人と賭けをして金銭を失った、この記事を鵜呑みにして再審請求しなかったら死刑が執行されてしまったなどの事態に陥ったとしても、当方は一切責任を負いませんので悪しからずご了承ください。


1,前提条件

早速、現時点での死刑執行の優先順位を比較するための条件を探してみました。①~③は基本的な法則。④、⑤は早くなる要因、⑥~⑨は遅くなる、もしくは執行ができなくなる要因、⑩と⑪は補足事項です。こうした要因を組み合わせた結果が確定から平均7年4か月(朝日新聞記事より)で執行という数字につながっています。
(ここからは元死刑囚等の敬称は一部を除いて略します)

①再審請求をしていない場合は原則順番通りに執行しようとしている。

漂泊旦那様の死刑囚リストより推測。極端に確定後の期間が短かったり長かったりというのは、後述するような事情が理由と思われます。ただし後述のような要因があって個別に見ていくと相当確定からの期間が前後している場合が多いです。

②共犯者同士は原則として同時執行
法律上の規定はないものの、片方だけ先に執行をすれば残ったほうの動揺が考えられる、死亡した共犯に罪を押し付ける等が想定されるためか同時執行が原則となっています。平成以降の事例で例外は井田正道と長谷川敏彦、オウムの13人が例外。
2人以上一日に執行しないといけないことから順番の調整が難しくなって執行が後回しになるのではと個人的には思っていたのですが、同時執行の必要性だけが足かせとなって執行が遅くなったという事例は無さそうに見えました。あくまでも⑥~⑨の遅くなる要因と組み合わさると執行が伸びる理由の一つになるけど単体では影響はないといった感じでしょうか。

③執行された場合の最高齢は77歳、70代での執行例は平成以降で10例存在。
リストより。ちなみに昭和を含めると古谷惣吉(執行時71歳)も11例となります。
これを見るに相当高齢でないと年齢を理由に執行を避けることはないと考えていいでしょう。今後高齢化が進めば秋山芳光の(77歳で執行)を上回る例が出るかもしれませんね。
この条件については、満たせば後述の⑥~⑨がなくても即執行回避につながるものの、⑩をみると早くなるのを助ける要因になると考えることもできます。

ここからは早くなる要因になります。


④最高裁まで争っていない死刑囚は優先的に執行される
漂泊旦那様の死刑囚リストをみると大半が執行され、順番的にも最高裁まで争った死刑囚より早く執行されているように見えます。特に附属池田小事件の宅間守の場合は確定から1年と相当早期に執行されました。
執行されていない例についても説明がつく死刑囚が多く、大濱松三(精神疾患の可能性)、小田島鐵男(共犯が最高裁まで争ったのち再審請求中)、高根沢智明 (共犯が最高裁まで争った、共犯も高根沢も確定後再審請求)、長谷川静央(確定後に再審請求)など、何かしら理由が見つかりました。

⑤重大事件の場合は圧力等によって早期に執行される場合が多い
宮崎勤(鳩山元法相が直々に指名、確定から2年5か月)やオウム事件等(実質執行可能となる高橋の公判終了後6か月)。法相の指名や重大事件の場合は環境が整えば即座に執行される場合が存在していると見えます。
ただ被害者遺族からしたらどの事件であっても重大事件であるはずなので、特定の死刑囚を優先的に執行するのはどうかと思いますが。

ここからは遅くなる要因
⑥再審請求中をすれば死刑を先延ばしにできるが、再審請求中でも執行されることがある
例を挙げると名田幸作、藤島光雄など再審請求を複数回行った結果執行が後回しになっていました。実際に執行されずに逃げ切った例だと浜田武重、神宮雅春(拘置中)あたりが該当。ただ、複数回再審請求をしている死刑囚が全員執行逃れというわけではなく、古くは平沢貞道元死刑囚、今も生存している死刑囚だと金川一、村松誠一郎など冤罪を訴え続けている例もあります。
その一方、ここ最近では2017年に西川正勝が執行されてからは、長らく居なかった再審請求中に執行された死刑囚が複数存在しています(西川以前だと1999年の小野照男が該当するが小野以前だと1950年代あたりまで遡る)。

再審請求中の執行を一覧にすると


2017年:西川正勝、松井喜代司、関光彦
2018年:松本智津夫、井上嘉浩、遠藤誠一、中川智正、新実智光、早川紀代秀、
豊田亨、林泰男、広瀬健一、横山真人、河村啓三
2019年:庄子幸一、魏巍

この中で第一次再審請求中だったのが確定しているのは、井上、中川、豊田、広瀬、横山でそれ以外の死刑囚は複数回目の再審請求中であったと思われます。
ただし庄子、魏巍については第何次であるかは各記事等から確認することができませんでした。ただし庄子については2011年の時点で請求をしていたとされること、裁判中の争点が責任能力、強盗目的などに絞られていたことから2011年時点の請求が執行時まで続いていたとは考え難いです。いずれの死刑囚も殺害をしたという事実関係については動かす余地がなく、精神状態や犯行に至った経緯に関して争っていたものと思われます。
オウム関係を除いても再審請求中の執行が半数以上であることから、オウム一斉執行の辻褄合わせに加えて再審請求で延命を図る死刑囚を追い詰めようとする法務省の意図が見えるのは私だけですかね。
ちなみに表中の西川は2005年確定で執行時は第10次再審請求中でした。捜査段階では全面自供していた上に証拠もほぼバッチリだったことを考慮すると、いくら何でも往生際悪すぎやろ。

⑦共犯者が逃亡している場合は執行されない
例として坂口弘、永田洋子、大道寺将司、益永利明、2018年に共犯の裁判が終わるまでのオウム事件の13人が該当。
法律上決まっているわけではないですが、執行後に共犯者が逮捕された場合責任逃れが可能になってしまうことを加味して運用上まず執行されていません。
ただし共犯者の身元が不明の場合はそこまで考慮されていないようで、2013年に執行された加賀山の場合は氏名不詳の共犯者がいたものの執行されています。


⑧冤罪の可能性がある死刑囚については執行を後回しにしている場合が多い
飯塚事件の久間三千年元死刑囚が例外として、基本的には冤罪の可能性が高い死刑囚については執行をせずに拘留を続けてお茶を濁しているパターンが散見されます(ほかには2014年までの袴田さん、奥西勝元死刑囚など)。
現に確定から20年以上たった死刑囚の中には、無罪もしくは殺人等死刑判決にかかる部分に関する事実誤認を主張しているパターンが多く、現在最古参の死刑囚となっている尾田信夫は確定から50年の月日を経ても執行されないまま拘置されています。

⑨精神面に問題のある死刑囚の執行は忌避される傾向にある。
刑事訴訟法第479条で「死刑の言渡を受けた者が心神喪失の状態に在るときは、法務大臣の命令によつて執行を停止する。」と定められていることから、基本的に死刑が執行されるときには心身喪失の状態ではないのが建前です。
ですが、実務上は判決文等で精神障害の影響が認められた死刑囚や、拘禁中に精神障害を発症したとされる死刑囚は長期間拘置されているものの執行されている例が少ないです。例を挙げると前者は大濱松三と造田博、後者は松本美佐雄、堀江守男などがいます。ただ、「妄想性障害で精神薄弱」と判決上で評された大石国勝や、執行時に統合失調症だったとされる川中鉄夫が執行されているので絶対執行されないとは限りませんが、相当考慮すべき事情にはなりそうです。
ただ、個人的には執行された二人も相当頭逝っちゃってたきがするんですよね。大石の場合自宅のホースの金具がなくなったと言って隣人に言いがかりをつけて一家殺害、川中は服役中に刑務官の一人から暴行を受けてムカついたので、刑務官の出身地の兵庫県で一泡吹かせてやろうと一家皆殺しを企てて強盗殺人。動機が飛躍しすぎて恐ろしい……。

⑩法則性がありそうな中で一定数順番を無視したような早期執行が見られ、還暦前後から70代までの年齢だと最高裁まで争った死刑囚も多い。
3年以内の執行という条件で抜き出しても、

1:宅間守(11か月・40歳)
2:加賀山領治(1年4か月・63歳)
3:浜崎勝次(1年4か月・64歳)
4:高見沢勤(1年10か月・59歳)
5:高塩正裕(1年10か月・55歳)
6:川崎政則(1年11か月・68歳)
7:西本正二郎(2年0か月・32歳)
8:平野勇(2年0か月・61歳)
9:前上博(2年0か月・40歳)
10:久間三千年(2年1か月・70歳)
11:山地悠紀夫(2年1か月・25歳)
12:宮崎勤(2年5か月・45歳)
13:山本峰照(2年5か月・68歳)
14:熊谷徳久(2年6か月・73歳)
15:野村哲也(2年7か月・39歳)
16:川村幸也(2年7か月・44歳)
17:陸田真志(2年8か月・37歳)
(月未満の端数は切り捨て、後ろは執行時の年齢)

上記の17人が相当早期といえる3年未満に執行されています。
このうち宅間、高塩、西本、前上、山地、山本は④に該当、宮崎は⑤、浜崎は先に確定していた宮城吉英(といっても宮城も確定から3年10か月しか経っていない)と同時執行のためということで納得ができます。ですが、それ以外の死刑囚についてはちょっと疑問が残る結果となりました。
一応この中で再審請求をしていたのは川村(途中で請求取り下げ)のみで、再審をするつもりのない死刑囚ばかりか? と思ってみたのですが、加賀山、高見澤は再審請求準備中だったようだし、一貫して無罪を主張していた久間元死刑囚がいることを考えると、単純に罪を認めているかいないかという問題ですらなさそうです。特に語られませんが、平野勇も公判中から強盗殺人と放火を否認していた事案の上、被害者のうち一人の死因が特定されていないなど執行をするのに躊躇しそうな例です。
控訴・上告を取り下げた死刑囚を除けば高齢の死刑囚を狙い撃ちにしたと思ったのですが、それだと野村、川村、陸田の説明がつかないので、これも一要素ではあるだろうけどあまり強いとまでは言えない気がしました。そうなると残るは数合わせ? 法務省の気分? ちょっと謎ではあります。
法律上は刑事訴訟法475条で原則6か月以内に執行するよう定められていますが、あくまでも訓示でありそれを超えても特に問題がないと法務省は解釈しています。法務省が法律守ってないじゃん……、それでも実際6か月以内での執行は実務的に厳しいような気がしますが。

⑪裁判員裁判下の死刑囚限ると2021年時点で執行されたのは控訴、上告を途中で取り下げた死刑囚のみ
現在までに執行されたのは下記の3人

2015年:津田寿美年(控訴取り下げで確定)
2016年:田尻賢一(上告取り下げで確定)
2017年:住田紘一(控訴取り下げで確定)


いずれも起訴内容を全面的に認めていました。


2,各死刑囚の執行可能性について

以上の前提条件をもとに検討していきたいと思います。
調査の対象となるのは下記の25人です。

池田容之、松原智浩、奥本章寛、桑田一也、新井竜太、高見素直、
高橋明彦、伊藤和史、浅山克己、千葉祐太郎、筒井郷太、木嶋佳苗、
上田美由紀、鈴木勝明、林振華、渡邉剛、西口宗宏、山田浩二、保見光成、
堀慶末、植松聖、土屋和也、白石隆浩、肥田公明、川崎竜弥 

いずれも2人以上を殺害した重大事件の犯人が並びます。
一応サラッと各個人について紹介はしていますが、各個人の事案については各自でお調べいただけるとありがたいです。文末に参考文献をつけておりますので、詳しく知りたい方はそちらもどうぞ。

25人を今後5年以内の執行可能性を勘案して以下のように分類します。
①今後5年以内での執行の可能性が相当高い(80%以上)
②今後5年以内での執行の可能性が高い(60~80%)
③今後5年以内での執行の可能性があるが高いとまでは言えない(40~60%)
④今後5年以内での執行の可能性が低い(20~40%)
⑤今後5年以内での執行の可能性が相当低い(1~20%)

※あくまでも()内は目安程度の数字です。
※今後5年で7人から10人されることを想定(年2回執行、1回に2人ずつで年4人、旧制度下の確定死刑囚との兼ね合いを勘案した結果)


分類すると以下のようになりました。左から確定順に並んでいます。

①執行の可能性が相当高い(80%以上)
桑田、高橋、浅山、植松、白石
②執行の可能性が高い(60~80%)
川崎
③執行の可能性があるが高いとまでは言えない(40~60%)
松原、伊藤、奥本、千葉、筒井、林、渡邉、西口、山田
④執行の可能性が低い(20~40%)
木嶋、上田、鈴木、堀、土屋
⑤執行の可能性が相当低い(1~20%)
池田、新井、高見、保見、肥田

順を追って説明していきたいと思います。

①相当高いに分類された死刑囚について
植松、白石の二人については控訴取り下げで死刑を確定させているうえ、犯行自体も世間を震撼させた超重大事案であることを考えると、宅間のように超早期での執行があり得るとして分類しました。

桑田、高橋については最高裁まで争ったものの、一貫して起訴内容を認めており判決に対し疑義を挟む余地がないこと、確定から5年以上たっていまだ再審請求等の動きを見せていないことを考えると相当に執行をしやすいと判断したため分類。浅山ももう少しで5年経つけど未だ再審請求の動きはないから、彼(彼女?)も桑田と合わせて執行されるかもしれません。
高橋を取材した記事は読んだのですが、確定直後は動揺していたものの一貫して死刑を受け入れる態度をとり続けていたことや、早く死んだほうが被害者の親御さんのためと言っていたことを考えると、今後執行を回避しようとすることは考えにくいように見えました。個人的には改心して死刑を受け入れた死刑囚よりも先に、往生際悪くあがき続けている死刑囚を先に執行したほうがいいと思いますが。

②執行の可能性が高いに分類した死刑囚について
川崎は上告取り下げで確定しており植松、白石と同様本来であれば①に分類されてもおかしくない死刑囚ですが、その両名に比べれば事件の重大性という面で見劣りがすること、確定した途端に国家賠償請求訴訟をし始めていることを考えると、もう少し執行までに時間がかかるかもしれません。川崎の起こした事件も重大事件ではあるものの、前の二人があまりにやったことが大きすぎる。

③執行の可能性があるが高いとまでは言えないに分類した死刑囚について
松原、奥本、千葉、筒井の4人は現在再審請求中であるが、事実関係について動かす余地があるとは言えないため③に分類しました。

松原……事実関係については概ね認めている。争点は犯行時の精神状態と被害者から受けた仕打ちの評価か。
奥本……事実関係については全面的に認めて反省の態度を示している上、被害者である奥本の妻の弟が彼の死刑を回避すべく裁判やり直しを求めて上申書を出していた。再審請求の理由は量刑面と遺族感情についてと思われる。
千葉……客観的な事実関係については概ね認めていた。再審理由は不明。
筒井……捜査段階では犯行を認めたが公判中から全面否認し証拠はすべて捏造と主張。再審請求理由は不明。

松原は再審請求が三回目で、そろそろ請求中の執行が考えられる段階に入っています。ただ、共犯の伊藤が確定後一度も再審請求をしていないことを考えれば、伊藤が再審請求をすればもう少しは生き延びることができそうといった感じには見えますが。ただ、その伊藤が今のところ再審請求をする意思が全くなさそうなので、それを考えるとそろそろ危ない気がしています。この二人については奴隷的な拘束から逃げるためという犯行動機があったことを考えると、さすがに死刑にするのはかわいそうと私は思いました。個人的には松原は控訴をやめようとしていたころ、弁護士に「ここで自分の刑が確定すれば伊藤も死刑になる」と言われ、控訴をしたという経緯があることから、今度は伊藤が松原を救う番……と、なってくれたらいいのですが。頼むから本当にこの二人については助かって欲しいです。
奥本は家族間の事案であることや義母との関係、犯行当時の視野狭窄、犯行当時22歳という年齢を考えると無期でもよかったような気がします。それでも犯行後に出会い系とパチンコに興じていたことを考えると難しいですかね。それにしてもあの穏やかそうな顔を見ると、殺人犯、それも死刑囚になるとは到底見えない。
千葉については不遇な成育歴が相当犯行動機の形成にかかわっているように見えるので、未成年であったことも考えると死刑はちょっと重いような気もします。ですが、他の犯行時未成年の死刑囚との対比をしたときに、相対的に執行しやすそうに見えるのが不安。先に確定してる光市事件の大月孝行は、最高裁判決で反対意見がついていたことを考えると法務省も執行躊躇してしまうような気がしますので……。
筒井は……うん、さすがに犯行態様の残虐さと公判での無反省っぷりを見ると早期に執行されてもいいような気がします。同じストーカー殺人事案の浅山は一貫して罪を受け入れる態度を見せていたことを考えるとこの差は何なのか。

林、渡邉、西口は現時点で再審請求をしていないことから順番に並んでいると考えて③に分類。ただし西口は確定は前の2人より少し遅いものの、現時点で60歳と比較的高齢であることを考えて前提条件⑩を考慮し、④に分類した堀、土屋と差をつけるために1ランク上の③に分類。
私個人としては林については残虐な犯行であることを考えても、学費や生活費に悩んで万引きを繰り返して転落していったという、犯行に至った経緯の一部は少なからず同情したくなる部分もあります。
渡邉は仕手筋の黒幕がいると言われながら結局特に何も起きることがなく死刑が決まった事案で、なんとなく紀州のドンファン事件と被るところがありますね。また、事件とは関係ないものの、彼の経営していた日鯨商事は海外出張者の解雇に関する判例に名前が残っていたりします。
西口は死刑囚表現展に絵を精力的に投稿している死刑囚の一人。個人的には罪の意識と死の恐怖を描いた作品が怖くもあり興味深くもあります。今後死期が近付くにつれてさらに筆力が上がるのか注目。

山田は控訴取り下げの無効を争っている事案。正直なところ多分控訴審は開かれないと思いますが、実質再審請求をして争っているのと同類とカウントしてここへ分類しました。とにかく控訴取り下げが1回だけならばまだ普通に審理がされていたと思いますが、1回取り下げして死の淵に自分から追い込まれたにもかかわらずまたするのはさすがに何を考えているのか少し理解に苦しみました。獄中手記を見る限りまだ生きていたいという意思は感じられるのですが、一時の感情ですべてを無駄にしてしまったといった感じ。ただ、もうしばらくは控訴取り下げの効力を争い続けることになるとは思うので、植松や白石のように早期の執行はないと思います。
それにしてもこの人の獄中手記、自分の待遇への不満に相当なリソースを割いていることから本当に反省の意思があるのか疑問に思いました。獄中生活の事情が細かく知れるという面では個人的にはありがたいですが、それでも亡くなられた被害者2人が可哀想にも思えるだけに複雑。本人はどう思っているのかわかりませんが、控訴審が仮に開かれてもこのままでは結果は変わらなさそう。覆す意思があるのなら、反省の態度を示しながら自分の言葉で事件の真相を語るのが一番有効的な抵抗方法だと思いました。


④執行の可能性が低いに分類した死刑囚について
木嶋、上田、鈴木、の3名は公判段階で一貫して無実を主張していたことを考えるとすぐの執行が難しいように見えたので④に分類。各人の有罪となった決め手(下記)を見るとさすがに無実ではないと思いますが。

木嶋……犯行現場にあったものと同じメーカーの練炭とコンロを直前に購入、被害者の体内から検出されたものと同じ睡眠薬を所持、木嶋が被害者の死亡とほぼ同時刻に現場にいた、被害者に自殺をする動機がない、火をつけるのに使ったマッチ箱と車のカギが持ち去られていた、など
上田……上田が被害者と一人で会った後ずぶ濡れの状態になったのを同居人が目撃、上田が知人男性から入手した睡眠薬と被害者の体内から検出された睡眠薬の成分が同一、など
鈴木……被害者の死体を損壊してガレージ内のドラム缶に入れていたことを認めた、時計など持ち去られたもののほぼすべてを鈴木が質入れして利得を得ている、鈴木のいう殺害実行犯の闇金関係者の存在が確認できない、など

ただ、個人的には3人ともクロだと思いますが、再審請求等をしていればすぐには執行しにくいような気がします。

堀、土屋の2人は順番通りにいけばということでここに分類。もっとも③より前の死刑囚が再審請求をした場合、優先順位は上がりますが。
堀については説明不要でしょう。闇サイト事件の時に碧南の事件のことを隠しながら反省のそぶりを見せ続けたということで相当悪印象を与えてしまったイメージが強いです。彼の再逮捕を知った時、死刑破棄という判断を下した二審の裁判官の心情はどんなものだったんでしょうか。
土屋についてはパーソナリティ障害の影響や不遇な成育歴を見るとちょっとかわいそうにはなります。高齢者をメッタ刺しという残虐な犯行はさすがに擁護がしがたいですが、それでも何か変わるきっかけを掴んでいれば……。

⑤執行の可能性が相当低い分類した死刑囚について
ここに該当する5人について整理すると下記のようになります。
池田……共犯者が逃亡中
高見、保見……犯行時に精神障害にり患
新井、肥田……無罪を主張

池田は裁判員裁判での死刑確定第一号と確定直後は散々騒がれた死刑囚の一人。個人的にはチェーンソーで生きたまま首を切断というとんでもない手法と合わせて、事件関係にあまり興味がなかった当時でもかなりインパクトが残っています。共犯とされる近藤剛郎容(国際手配中)がいることから現在に至るまで執行されていません。ただ、近藤の死亡が確認されれば執行の優先順位は①まで上がると思っています。少し前の例ですが佐川和男の場合、共犯の獨古勇の死亡が確認されてから割とすぐに執行されていましたので。ただ、現状捜査の進展が全くなさそうな雰囲気であることを考えると、そのまま放置されそうな雰囲気はありますが。
余談になるのですが、遺体の見つかった横浜港が管轄の神奈川県警のHPでは近藤に関する記述は一切ありませんでした。イスラム聖戦士血盟団のモフタール・ベルモフタール師はアルジェリアの日揮社員人質事件で指名手配犯リストに載ってるのに……。神奈川県警そういうとこやでホンマ。

高見、保見の両名は裁判中で犯行時に妄想性障害にり患していたとされつつも、完全責任能力が認定されて死刑となりました。ですが、前提条件で述べたように精神疾患のある死刑囚は完全責任能力が認定されても執行がされていないことが多いことを考慮すると、この二人についてはおそらく執行が難しいと思われます。
個人的には高見については同じように妄想性障害を理由に減刑となった平野との均衡を考えると首をかしげたくなったし、一審判決文を読んでみると本当に妄想が軽度なのかと少し疑問には思いました。
保見については、妄想性障害の影響についてはさほど大きいようには感じませんでした。先に挙げた高見の妄想が超能力者の集団に嫌がらせを受けているというのに対し、保見は近隣住民から嫌がらせをされているという内容だったので……。それでも彼自体は高齢ですし、再審請求をしていればこのまま獄死コースを歩むでしょう。

新井、肥田の両名は一貫して無実を主張していたものの死刑となった事案。個人的に④で上げた3人と分けた理由を含めて説明していこうと思います。
新井については従弟である共犯者Tの証言を全面的に信用して公判が進んだ事案で個人的にはちょっと疑問を挟むところが多かったです。特にひどいと思ったのは1審判決文中で新井がTに保険金殺人を持ち掛けたところで、Tがそんな方法があるのかと驚き感心したという部分。Tは過去に複数回詐欺等で服役していたにもかかわらず保険金殺人という発想が一切なかったというのは到底信じがたいと感じました。新井の主張を見ると、流石に新井の母親を主犯にして一家まとめて犯罪者に仕立て上げようとしたというのは無理があると思うけど、Tが自分に罪を着せようとしてきたという部分については事実に見えるのですが。それにしても、自白したしもう自分の裁判が終わったから嘘をつくはずがないって論理は明らかに冤罪の温床になりかねないと思います。世の中には死なば諸共とか道連れという言葉もあるので……。
ただ、ほかの冤罪疑惑があって執行が先送りされている死刑囚と遜色ない無理な判決であることを考えると、多分当面は執行されない気がします。でも、今のところ確定から5年たって一切再審請求やその準備をしていないようなので、このままだと普通に順番待ちに組み込まれて執行されてしまうのではと不安。

肥田は個人的には完全にクロという心象ではあるのですが、1審2審でDNA鑑定の評価がブレてしまったように見えたのが執行をする上でのネックであり再審の論点の一つになりそう。1審の裁判員裁判では事件の日に肥田が来ていた服についた血痕が証拠能力を認められないとした一方、2審では当日現場にいて付着したものであると推認できるとして証拠能力を認められていました。
私個人の推測になってしまうのですが、1審が終わってから開示された「犯行時刻前後に現場から車が出てきた」、「犯行時刻以降に2人組が現場の駐車場で話をしていた」という証言が証拠として2審にでてきたため、有罪を維持するために証拠能力を認めたと考えたくなりました。1審で目撃証拠を開示しなかったことも合わせて再審請求をし続ければ、おそらく執行の順番は回ってこないと思います。

3,まとめ

結局確定した順番に並べたような感じになってしまったので、わざわざ考察した意味があったのかと書いてから思ってしまいました。そもそも前提条件に例外が多すぎるし、書いていて自分でも着地点が見えず相当グダグダになってしまったなと……。 ただ、個人的には事件報道が起きるたびにすぐに死刑にしろ、税金がもったいないと罵声を浴びせられ続けるのはちょっとかわいそうに思いました。もちろんやったことは惨いこととは言え、歯車が狂わなければ普通の社会人だっただろうって人間もたくさんいるし、そもそも本当にやったのか怪しいような人間も混じっているように感じましたから。 あとは、現行の中途半端にバラついた確定から平均7年4か月生きられるとはとはいえ実際は相当ばらつきがあって、明日死ぬのかというプレッシャーに死ぬまで晒されるってのは相当しんどいよなと。むしろ、6か月以内に死にますって最初から提示されていたほうが中途半端な期待も抱かずに居られるし、やってる死刑囚からすればこっちのほうがむしろ精神的に楽なのかもしれません。自分はどっちも嫌ですが。 長々となりましたが、結局は「植松と白石の二人がほぼ確定で、後は原則順番通りに執行されるけど、どこまで順番が回るか」って感じですかね。一万文字以上費やしたのに対した内容にならなくて残念。


4,最後に

長文乱文になりお目汚し失礼いたしました。最後までお読みいただき本当にありがとうございます。
また、ご指摘ございましたらTwitterもしくはメールまで頂けると幸いです。

5,参考文献

全般について
・漂白旦那様「死刑確定囚リスト」https://hyouhakudanna.bufsiz.jp/cplist.html
確定死刑囚の氏名及び犯情、裁判に関する資料として使用
・折原臨也リサーチエージェンシー様「死刑囚名鑑」
http://azegamilaw.web.fc2.com/meikan.html
補論に使用
・朝日新聞DIGITAL「死刑9年ぶり執行ゼロ 109人収容、病死・自殺者も」
https://www.asahi.com/articles/ASNDY6TSGNDXUTIL04M.html
前提部分に使用

各死刑囚について(確定順)
・高橋明彦
exciteニュース・片岡健「【死刑囚の実像】“不器用すぎる”凶悪殺人者・高橋明彦と会う ― 取材でわかった“まさかの殺人理由”と“衝撃の発言”とは? (会津美里町夫婦殺害事件)」 https://www.excite.co.jp/news/article/Tocana_201708_post_14228/

・松原智浩、伊藤和史
伊藤和史獄中通信・「扉をひらくために」 2021年01月24日ニュースレター創刊・伊藤和史からのメッセージhttp://masimaziken.blog.jp/archives/1078580653.html

・奥本章寛
事件備忘録様「22歳元自衛官が見誤った故郷の誇り~宮崎家族3人殺害事件~①②」https://case1112.jp/?p=425 
https://case1112.jp/?p=432

・千葉祐太郎
exciteニュース・片岡健「【平成生まれの死刑囚と面会】ニュースで報じられない衝撃の告白の数々 ― 実は「殺人の記憶がない」石巻3人殺傷事件」
https://www.excite.co.jp/news/article/Tocana_201611_post_11453/

・渡邉剛
exciteニュース週刊実話「資産家夫婦殺害事件 被害者と犯人を取り巻く暴力団関係者の闇(1) (2)」
https://www.excite.co.jp/news/article/Weeklyjn_3202/
https://www.excite.co.jp/news/article/Weeklyjn_3207/
労働新聞社「日鯨商事事件(東京地判平22・9・8) 海外出張先から無断帰国、「業務契約」解除は解雇? 退職意思確認せずに手続き」
https://www.rodo.co.jp/precedent/28748/

・林振華
一審判決文 https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/980/084980_hanrei.pdf

・西口宗宏
MSNニュース・全国新聞ネット「「恐怖の日々」と死刑囚 第16回表現展、垣間見える心境」https://onl.tw/gAQGX4n
※URLの一部が日本語で非常に長くなるため短縮URLを使用しています。

・山田浩二
控訴取り下げ死刑を確定させた寝屋川事件・山田浩二元被告が最後に書いた手記の中身
https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20190606-00129115/
死刑囚から被告に戻った寝屋川殺人事件・山田浩二被告の獄中手記
https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20200211-00162633/
二度目の死刑確定後に寝屋川事件・山田死刑囚がつづった獄中手記
https://news.yahoo.co.jp/articles/94349452020cc57d56b95fd1f8f412ae6d54dde6
死刑が確定した寝屋川事件・山田浩二死刑囚が手記につづった年末年始
https://news.yahoo.co.jp/articles/701a5132648bbec64d0a65a071800eed03c25591

・木嶋佳苗
一審判決文https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/984/082984_hanrei.pdf

・鈴木勝明
デジタル鹿砦社通信・片岡健「《殺人事件秘話12》大阪ドラム缶遺体事件の死刑は「最も重い死刑」であるhttp://www.rokusaisha.com/wp/?p=24248

土屋和也
週刊女性PRIME・河内千鶴「《ガラス越しの死刑囚》第1回目~3回目」
https://www.jprime.jp/articles/-/15939
https://www.jprime.jp/articles/-/15995
https://www.jprime.jp/articles/-/16589

・池田容之
神奈川県警察/指名手配情報 https://www.police.pref.kanagawa.jp/wanted.htm

・高見素直
一審判決文https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/916/081916_hanrei.pdf
上告審判決文https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/793/085793_hanrei.pdf

・保見光成
上告審判決文https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/950/088950_hanrei.pdf

・新井竜太
デジタル鹿砦社通信「全文公開=新井竜太の手記45枚のPDF 」
http://www.rokusaisha.com/wp/wp-content/uploads/2016/01/4c1dca68af011210b9fbae63df7e6d03.pdf
デジタル鹿砦社通信・片岡健「東京五輪中止が正式決定でいよいよ死刑執行か…… 心配な2人の死刑囚」 http://www.rokusaisha.com/wp/?p=37683
新井一審判決文https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/764/082764_hanrei.pdf
共犯T一審判決文https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/661/081661_hanrei.pdf

・肥田公明
二審判決文 https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/993/087993_hanrei.pdf


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