見出し画像

朝6時の侵入者

その日、私は仕事を終えて晩ごはんを食べたあと、ベッドでスマホを見ていたらそのまま疲れて眠ってしまった。


―朝6:00。気持ちよく寝ていたのに、突如「ブーーーン!」というやかましい音がして目が覚めた。
「何なになに⁉」と反射的にベッドから逃げ出て、机のうえのメガネをかけた。


何かが天井にいる。恐る恐る近づいて見てみる。


…たぶん、ハエだ。
ハエなんだろうけど、ちょっとデカい、というか長い。1.3cmくらい。
窓を開けていたから、網戸のすきまから入ったのかもしれない。


ハエは、苦手だ。
ハエそのものよりは、あの羽音が大嫌いなのだ。

虫全般嫌いというわけではなく(好きってわけでもないが)、
アリ、バッタ、カマキリ、カブトムシ、クワガタ、チョウとかは全然大丈夫だし触れる。
ハエとか蚊とかハチとか、あの高い周波数でブーンってするやつらがダメなんだ。


それで、天井のハエは、動くことなくその場でじっとしている。急に動かなくなると、それはそれで不気味である。

ここが広い家だったなら、自分は別の部屋に移動し、ハエが出ていくまで放置しておいてもいいのだが、ワンルームの部屋でこのまま同棲されるのはたまったもんではない。
どうにか出ていってほしくて、いろいろ試してみる。

まずは、部屋の照明を消し(←つけっぱで寝ていた)、窓を数センチ開けて、そのそばでスマホのライトを点けた。
正の光走性」で誘導し追い出す作戦だ。(以前、職場にハエが出たときはこれで追い出した)

しかし天井のやつは全く動かない。体の向きを変えることさえしない。ライトでやつの周りをグルグルグルと照らしてみてもピクリともしない。なぜだ…!


次は窓の外に向けてサーキュレータをかけ、風の勢いで追い出す作戦に出た。
その前に、天井から移動してもらうためにハエ自身に風を当てたが、これまた動く気配がない。
手元にあった紙を筒状に丸めて、やつの周りでブンブン振ってみたがダメだ。
ナめられているのだろうか?

その後、ベープを焚いてみたりしたが、効果が出るまで時間がかかるしそもそも蚊取り用だから意味がない。
かといって、変に刺激して飛び回られるのもイヤだ。困ったな。

―そんなこんな、ビクともしないハエとにらめっこしてるうちに、10分くらい経っていた。(ほんと何してるんだろう自分…)


実は、殺虫スプレーは、ある。


「じゃあ、早う撃てやい!」と思うかもしれないが、今まで数えるほどしか殺虫スプレーを使ったことがない素人スプレイヤーなので、
「撃ち損じて飛び回られたらどうしよう…」とか「G用のスプレーだけどちゃんと効くのかな」とか「仕留めても死骸見たくないな…」とか、この期に及んで「殺生はよくない…。そうだ、やつにもきっと家族がいて…」とかしょうもないこと考え始めてしまい、いざトリガーに手をかけても噴射できないのだ。

まだ寝ぼけていたのだろうか、しまいには「どうだい…、ここは対話で平和的に解決といかないか」とかアホなことをハエに語りかけている自分がいる。
やつは、何やら前脚を口元で動かしているだけだ。


そんな膠着状態がまた数分続いたところで、ようやく冷静になってきた。
するとだんだんこの状況がバカらしくなってきて、イライラしてきて、ついにスプレーする気になった。

「くらえい!」と噴射すると、ハエはさすがに飛んで、カーテンの裏に逃げ込んだ。
カーテンをバサバサすると、ハエはフラフラしながら、数センチ開けておいた窓から逃げるようにして出ていった。

「いや、ちゃんと逃げれんのかい!」と思わずツッコんでしまった。
だったら最初からとっとと出てってほしかったんだけどな…。


戦いを終えると、また眠くなってきたので二度寝した。
今度はちゃんと窓を閉めて。

おわり


この記事が参加している募集

眠れない夜に

お読みいただきありがとうございます。 私の記事であなたの気持ちが動いてくれたのなら、スキでもコメントでもサポートでも構いません。リアクションいただけると励みになります!