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Aの物語①ネパールからの留学生

少し前に、卒業生から連絡が来ました。
とてもとても嬉しい内容だったので、その彼について、私の思い出に残っていることを記します。
少々長くなるので、いくつかに分けて書こうと思います。

ネパールからやってきた「ワンピース大好き」少年

Aは8年前の春にネパールからやってきた、高校を卒業したばかりの少年だった。ひらがなとカタカナが書ける程度で、日本語学校では「初級」のクラスに入った。
大人しいタイプで、授業も宿題も卒なくこなすが、これといって積極的な学生という印象はなかった。

数か月経った頃に、彼が尋ねてきた。
「新しい『ワンピース』の映画を映画館で見たいのだけど、僕にチケットが買えると思いますか?」
「もちろん!」と私は答え、映画館でのチケットの買い方を説明した。
調子に乗ってポップコーンの買い方も説明したが「好きな映画は集中して見たいから、ポップコーンはいらない」と言われてしまった。

それから数日後、彼からメッセージが送られてきた。
「先生!ワンピース見ました!ぼく、日本で一人でワンピースを見た!!チケットも買えたし映画の日本語も結構よくわかった!すごいよ!!!」
授業中の彼とは違い、とても興奮した様子だった。

「日本で一人で映画館でチケットを買い、好きなアニメの映画を見ることができた」

という彼の達成感が、その後の彼の日本での積極性を後押ししたようだった。
それからというもの、授業中の発言が圧倒的に増えた。クラスメイトと話す時間も増えた。
学校でのテストや課題でもメキメキと成果を上げ、周りを驚かせた。

先の事をよく考え、考えるが故に不安になることも多い彼は、来日して早い段階で進路の相談をしてきた。
忘れられないのが、ジブリミュージアムへの遠足の時。
宮崎駿さんの書斎の展示コーナーで私をつかまえて
「高度な機械の勉強をしたいが、大学と専門学校とどちらがいいのか」
「大学に行くには試験が必要と聞いているが、どんな準備をすればいいのか」
「有名な学校である必要はないが、自分が納得できるような勉強をしたい」などなど
自分が思っていることを次々に話してくれた。

その時に提案した選択肢の一つは、東京から数時間のところにある地方都市の大学への進学だった。
他の理系の大学と比べて比較的負担の少ない方法で受験ができるが、教育的な実績も高く、留学生へのサポートもしっかりしていることから、そこをすすめた。
他にもいくつかの選択を提案したが、最終的に彼はその大学へ進学することになる。

第2章へ続く

YouTube「おきらく日本語教育」の中で「あなたにとって日本語教師とはどんな仕事?」という質問に答えるエピソードがありました。
その時に私がしたのが、まさにAのワンピースの映画のお話でした。

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