見出し画像

「皆でやる」という幻想

皆さんも一度は聞いたことがあると思うが、アフリカで、”if you want to go fast go alone, if you want to go far go together” ということわざがある。直訳すると「早く行きたければ一人で行け、遠くに行きたければ皆で行け」であるが、私はこのことわざは素晴らしいと感じるし、大きなことを達成するには皆で協力するのは必要不可欠であるという普遍性があると思う。

特に昨今話題になっている、SDGsやグローバルパートナーシップなどで「皆で何かを成し遂げる」はさまざまな人の心を動かし、特に学校や会社で組織的に動くことを良しとされてきた日本人はそういう社会的ムーブメントに感化されることも多いのではないだろうか。
しかし、このことわざは、語弊を招くこともあると感じる。最後の「皆で行け」に引っ張られ「一人で行く」ことはあまり重要視されていないのではないだろうか。

私も十数年組織の中で働き「皆で何かを成し遂げる」ことの大切さは自覚しているが、それと同時に数多くの失敗を経験していく中で「一人で行く」ことも同じくらい大切なのではないかと感じるようになった。
正確に言うと「一人で行く」は改革への最初の段階にとても重要で、決して無視できないプロセスである。ここでは私の実経験を共有しながら自分の考えを説明していきたい。読んでいただける方に少しでも参考になれば幸いである。

起業の失敗から学んだこと

私は実は起業するにあたり、三回くらい失敗している。(ここでの起業は、登記をするとかではなく、何か事業を始めたのを定義する)

最初の起業はイベント事業だった。(コロナ禍で淘汰される運命にはあったのかもしれないが)そのイベントはVIP向けのイベントであり、MBAのクラスメイトで立ち上げた。そのビジネスモデルはネットワーキングのイベントを主催運営をし、リクルーターからスポンサーフィーをもらうものだった。当然ながら、スポンサーをする側としては転職候補者の情報が欲しいのだが、参加者側からすると、別にリクルーターと連絡先を交換したくないのである。そうなると、参加者の情報をリクルーターに横流しする必要があり、この参加者の意向を無視した事業からは何も生まれなかった。

次に、とある起業家に出会った。リカレント教育への熱い思いを話しているうちにその人は人材紹介の業界に長年携わっており、今後日本の労働力確保のために教育事業と人材紹介事業で相乗効果を図る事業をやらないかと持ちかけられた。そこで私は自腹で個人M&Aで人材紹介と派遣資格を持っている会社を300万円で購入し、オフィスまで借りたのだが、その人はコロナ前に海外の人材会社と提携するという名目で海外に行ったっきり日本には戻ってこず、特に活用しない資格を持った会社が残っただけである。この事業からは何も生まれなかったのである。

その後、MBAのクラスメイト二人にインド人をターゲットに西葛西でインターナショナル塾を開かないかとピッチされた。そこは今までの事業に比べると私がやりたい事業に向いていたので、クラスルームを借りたが、当初社会人向けにやる予定が、子供向けのプログラミングや数学教室、アート教室、ヒンディ語の教室まで何をやりたいのかわからない状態になってきた。しかも何故かクラスメイトの妻も勝手に参加するようになり(しかも強い)内輪で不満が発生し、結局これも名目上コロナの影響で撤退をせざるを得なかった。
 
これらの失敗に共通するのは、創業当初に複数の人が入ることにより、あれやりたいこれやりたいが増え、本当にやりたいことから「ブレが生じる」のが原因だと考える。皆でやることにより、さまざまな利害関係が生じ、創業時で一番重要なスピード感が失われ、資金や時間など限られた資源を無駄にしたのである。
これは決して関わった人たちが悪い訳ではない。彼らはビジネスマンとしても優秀であり、高度人材として日本政府が欲しがっている人材である。

ただ私自身が大勢とやることで大きなことを達成出来ると勘違いしていたのと、自分ひとりでコミットする度胸が無かったのが原因で、完全に自分の甘えであり、自分の判断ミスである。
 
確かに皆でやるのはワクワクする。飲み会をやったり、ネットワーキングイベントに行ったり、ビジョンを語りあったりして本気で社会を変えられると思えるようになる。ただ残念ながらそのようなことをやっている時点で数か月たっても何も生まれず、高い確率で解散するだろう。ここで気づいたのは、個人で成果が上げられないのであれば、集団では絶対に成果は上げられないのである。

つまり、自分が本気で改革したいのであれば、まずは責任を持ち自分でその事業をドライブをするコミットメントが必要である。もちろん最初は上手くいくこともないだろうが、諦めずにやっていくと、自然と協力者がついて来て、大きな改革に繋がる第一歩につながると私は信じている。イノベーションは集団からではなく、個人から起きるのである。
 
ではその後、起業した会社はどうなったかと言うと、気持ちを入れ替え自分自身でドライブをして行くと、複数人でやっているときに比べて数十倍と言っても過言ではないくらい収益を上げられている。
もちろんそれは、飲み会や余計な付き合いやミーティング、自己満足なオフィス内装にお金や時間をかけるのを辞め、サービスを購入していただけるお客様への価値提供にひたすら集中するという、本来あるべき姿に向かって舵をとっているからである。

もちろん自分ひとりで全て運営している訳ではなく、コンテンツ作りは講師と協力してやっているが、あくまでも講師の方々はプロフェッショナルとしての付き合いである。もちろん楽しいだけの飲み会などは無い。特に創業時は右も左も分からないので、自分ひとりで出来ることは限られ、製品コンテンツ作りはその道のプロ、会計は税理士など、各種プロフェッショナルにアウトソーシングするのは何かと必要だと思われる。間違っても友達や知り合いを入れたりしてはいけない。

「一人」でコミットする勇気を持とう

ここまで色々書いたが、何かを変えたい方は是非「一人」でまずやっていただきたい。別に世の中を変える壮大なことや会社を辞めて事業を立ち上げることじゃなくてもいい。今自分が所属している組織でも以前から当たり前のようにやっている、あまり意味を持たない業務で誰も疑問に持たないものはないだろうか?それを声をあげて変えていこう。
もちろん週末に皆が楽しめるようにコミュニティを作ったり、社会人のキャリアアップのための勉強会や健康を促進するためにダンスやヨガの練習会とか、前向きな気持ちで自分から動いて出来ることはどんどんやっていこう。

ひとつ忘れてはいけないことは、自分から始めたら徹底的にコミットすることだ。丸投げしたり誰かがやってくれるだろうという期待は捨てよう。
繰り返し言うが、皆でやれば「大丈夫」は幻想である。自分でコミットして一人でやっていけば協力者は後から自然とついてくる。
ちなみにやってみてもし失敗したら、誇っていただきたい。なぜなら一人で何かを始めることはとても勇気が必要なことで、世の中の大半は便乗することしかできないからだ。私もまだまだであるが、今後もこのことを肝に銘じて挑戦していきたい。

長々と読んでいただきありがとうございます。


【経歴サマリー】
Aki Allen Kaneko
1979年カナダ・トロント生まれ、ヒップホップ育ち、悪そうな奴らは大体友達じゃない。サイファーホールディングス(株)代表取締役をやりながら、ヨーロッパの医療機器メーカーでSCM & オペレーションのマネージャーをやっている。
自分自身の経験をベースに、会社員をやりながら起業をするパラレルキャリア、転職による外資系企業でのキャリヤアップや社会人のリカレント教育などを推進している。現在毎月企業をピックアップして、ディスカッションをするケーススタディコミュニティーを運営中。趣味はブレイクダンスと読書。

この記事が参加している募集

最近の学び

仕事について話そう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?