1.記事の概要
この記事でこんなことがわかります。
・有利区間情報持ち越しの仕組み
・実際に搭載されるの?
・おまけ:特許の読み方
2.有利区間持ち越し特許とは
2021年11月30日にサミー株式会社より提出された、
出願番号「P 2021193755」の特許を指すこととします。
本文については、知財ポータル様
https://ipforce.jp/patent-jp-P_A1-2023-80424
を参照してください。
なお以降では有利区間持ち越し特許を本特許と呼称します。
3.技術的にできるようになること
本特許は一言でいうと有利区間情報の持ち越しです。
有利区間の持ち越しとは何かというと、
例えば有利区間の終了条件到達時
(以降リセット時という、詳細条件は※1)に
継続ストックを3つ持っていたとします。
内規ではリセット時はストック等の情報を含め
有利区間の情報全てが初期化されます。
そのためストックは0になります。
これは内規で決まっています。
その後、ゼロから有利区間が始まるという流れになります。
(※1)
終了条件は
①2400枚を超えた差枚獲得時
②4000g消化時(スマスロは無制限)
③あらかじめ定められた任意の条件成立時
のいずれかが成立した場合。
これが本特許を使うと、
ストック数などの持ち越しができます。
凄くないですかこれ?
ただしリセット時は、
もちろん内規に従い情報は"初期化"します。
・・・ん?
初期化されるのに持ち越す?
と混乱される方もいらっしゃるでしょう。
ではその仕組みを紐解いていきましょう。
4.リセット時の挙動
それでは、実際に本特許を引用しながら解説していきます。
4-1.従来の仕様と解決方針
まずは従来の仕様から
色付きが引用です。
あとでもう一度引用するので、
引用読むのしんどかったら飛ばしてください。
これは何度か言っているリセット時の処理を指します。
1文ずつ読んでいきましょう。
以降「」でくくったところが本文です。
「有利区間を終了して通常区間へ移行する際」
これは有利区間終了時ですね。
「RAM初期化処理(有利区間終了時のRAM初期化処理とも称する)によって指示機能に係る性能へ影響を与えるパラメータをすべて0に更新する」
これはリセット時の初期化のことです。
指示機能に係る性能へ影響を与えるパラメータは
例えばストックと読み替えてください。
それをすべて0に更新するなので、
ストックは0個になります。
「従来の遊技機では一の有利区間が終了してから通常区間を経て新たに有利区間に移行したときに、前回の有利区間での指示機能に関する情報は一切持ち越すことができなかった。」
上の結果、ストックが持ち越せないよという意味です。
「このため、例えば一の有利区間でATのゲーム数が500ゲーム残っているような状況であっても有利区間の上限に達してしまえばATを終了するとともにATの残りゲーム数も初期化されてしまうこととなり遊技者が損したように感じてしまうことが多くあった。」
皆さんも経験あると思いますが、
AT500ゲーム残ってたら損した気分がしますよね。
本特許ではゲーム数で表現されていますが、
以降の説明はストックのが分かりやすいです。
従来機では上のような課題がありました。
それを本特許では間接的に解決しています。
ここで特許の概要を説明しています。
「有利区間の終了前にボーナスに入賞させることにより」
確かにAT機では裏でゼロボを抱えてましたね。
これを「入賞」することで解決を図るようです。
「ちなみ」な話
私が頑なにボーナスを「入賞」ではなく「作動」と言っているのは、
技術上の規格の解釈基準に
と明記があるからです。
だから4→5号機でボーナス「作動」時に払い出しがなくなったんですね。
特許って意外といい加減なんですね(失礼)
「指示機能に係る性能へ影響を与える所定のパラメータ(例えば、ATの当選に関する所定のモード、ATの当選に関する所定のポイント等があり、持越しパラメータとも称する)を次の有利区間に間接的に持ち越す方法について説明する。」
かっこ書きで詳細に書いてくれてますね
上の例で言えばストックですね。
ここで大事なのは”間接的に”です。
さて次の節からは実際にどのような仕組みで解決していくのか。
かなりシンプルなので、度肝を抜かれるかもしれません。
「ちなみ」な話
【1162】より前は概ねパチスロ機、もとい回胴式遊技機の性能についての説明です。
過去に提出された特許なども踏まえ、
どのような性能を持つ機械なのかを書いてあると思ってください。
4-2.解決策
では実際に解決策について抜き出します。
まず一気に引用しますので、
わかんねーよって方はスルーしてください。
ここもあとでもう一度引用します。
わかる方は詳細に読み込んでもらっても構いません。
従来機同様に1ブロックずつ見ていきましょう。
「」でくくったところが本文です。
まあ前提条件ですね。
詳しく見ていきましょう。
「なお、ここではリール配列、図柄組合せ、条件装置、内部抽せん置数は図12乃至22と基本的に同じとするが、」
ここはどんな機械かだけなので無視でいいです。
(どうしても知りたい方は、このブロックより上や図12ないし22をみてください。)
「1種BBに当選した遊技で1種BB図柄組合せが停止しなくてもリプレイ確率が変動しない(非RTを維持する)よう構成されている。換言すればRT1(1種BB内部中)を有さないよう構成されている。」
1種BBはゼロボまたは減るボと読み替えてください。
まあ増えてもいいんですが…
重要なのは1種BBが成立してもRTに入らないということです。
これ後で使います。
ちなみにRTの規定は以下の記事参照お願いします。
見なくてもわかります(説明します)が気になる方だけ。
「また、1種BBの終了後に移行して所定回数の遊技(例えば5回の遊技)で終了するRT2を有するよう構成されている。」
今度は逆にボーナス終了後RTについて言及されています。
ボーナス終了後はRTに移行するようです。
ここでポイント①
ボーナス終了後RTとボーナス成立後RTを持つ場合、
ボーナス終了後RTはボーナス成立後RTで上書きされます。
しかしボーナス成立後RTを持たない場合は、
ボーナス終了後RTをそのまま消化できるということです。
「また、再遊技-A、再遊技-Bに当選した遊技でも有利区間への移行が決定されるよう構成されているので、通常区間において略1/1(65532/65536)で有利区間への移行が決定されるよう構成されている。」
思いっきり誤字ってますが、通常区間ではほぼ有利区間へ移行するようです。
「また、説明の都合上、非RTかつ1種BBが作動していない状態を非RT1と称し、非RTかつ1種BB条件装置が作動している状態を非RT2と称するが、非RT1と非RT2とは同一のRTであり、非RT1における置数4の1種BB単独当選が非RT2でははずれとなることを除き内部抽せん置数も同一である。」
ここも無視で大丈夫です。
簡単に言うと、1種BB非成立を非RT1、1種BB内部中を非RT2と言うよってだけです。
すごくややこしく書いてありますが、
このブロックで言いたいことは2つです。
ポイント②
①ボーナス終了後はRT2へ、それ以外はRT1へ遷移する
(非RT1,2はボーナス内部中かどうかだけの違い)。
②設定変更時はRT状態、ボーナスともにクリア、電源断は据え置き。
なお特許中で5回の遊技と書いてあるので、
以降私が出す例では5ゲームを使います。
「ちなみ」な話
RT遷移の件は図示すると一発でわかります。
青丸からスタートです。
これを文字で起こすとこうなるんですね。
「また、非RT1中に1種BBに当選した遊技、非RT2中にはずれとなった遊技、非RT2中に押し順ベルC群(入賞-C1~C6)のいずれかに当選した遊技の一部のストップスイッチの操作態様で1種BB図柄組合せを停止可能に構成されている。」
1種BBを作動させる手段はありますよということです。
「なお、有利区間中に押し順ベルC群のいずれかに当選した遊技では一部の状況を除いて1種BB図柄組合せが停止しないストップスイッチの操作態様を報知するので報知された操作態様に従って遊技すればユーザは非RT2を維持することができる。」
有利区間の状況によって、ベルナビを出しますということです。
裏を返せば一部の状況で1種BBのナビが出るということですね。
ベルナビに従えば1種BBが作動しないので非RT2を維持できるということです。
ここでは1つだけ。
AT中に有利区間終了条件を満たしそうなら、
とりあえずギリギリまで継続しますということです。
リゼロのエンディングをイメージしてもらうとわかるかと。
「その後、MYカウンタの値が所定値を超えた以降の遊技であって1種BB図柄組合せを停止可能な遊技で、1種BB図柄組合せの停止を促す所定の演出を実行するよう構成されている。」
エンディング終了したら1種BBを揃えさせるナビが出るということです。
「なお、1種BB図柄組合せの停止を促す所定の演出を実行するときは押し順ベルC群のいずれかに当選していても1種BB図柄組合せが停止しないストップスイッチの操作態様ではなく、1種BB図柄組合せを停止可能なストップスイッチの操作態様を報知するよう構成されている。また、1種BB図柄組合せの停止を促す所定の演出を実行する遊技で1種BB図柄組合せが停止しなかった場合は、その後の1種BB図柄組み合わせを停止可能な遊技で再び1種BB図柄組合せの停止を促す所定の演出を実行するよう構成されている。」
1種BBを揃えさせる場合は、
ベルを蹴って1種BBを表示させるナビを出すよということです。
これを無視した場合でも再度1種BBを揃えさせるナビを出すことも書いてあります。
※※※※このブロックからかなり重要です※※※※
「その後、1種BBの作動が終了すると次の遊技からRT2に移行し、1種BBの作動が終了する遊技またはRT2中のいずれかの遊技で有利区間1を終了するとともにパラメータをすべて0に更新し、次の遊技から通常区間かつ非RT1に移行する。」
まず1種BBが終わるとRT2へ遷移しますね。
この時1種BB終了後0g~RT2終了の間に
有利区間を終了させるよと言っています。
つまり有利区間を終了するタイミングは任意で決めますってことです。
「なお、1種BBの作動が終了する遊技またはRT2中のいずれかの遊技うち、いずれの遊技で有利区間1を終了するかは、有利区間1にてエンディング条件を満たした遊技の終了時の持越しパラメータの値に応じてエンディング条件を満たした遊技の終了時に決定し得るよう構成されている。」
有利区間を終了するタイミングは「持越しパラメータ」で決めるということです。
例えば「持越しパラメータ」が3なら
RT2の3g目に有利区間を終了するような動作ができるということです。
同じ「持越しパラメータ」という言葉を使っていますが、
理解のため別物として扱ってください。
ダメなんですけど面倒なので"ストック"と言います。
具体例ですね。
例えば「持越しパラメータ」が0なら1種BB終了時に即有利区間を終了。
「持越しパラメータ」が1なら1種BB終了後RT2の1g目に有利区間を終了。
これにより「持越しパラメータ」の値によって、
有利区間開始タイミングをずらせます。
ここで有利区間について振り返りましょう。
有利区間は「フラグ+RT状態」で決定できます。
詳細は以下の記事を見てください。
つまりRT状態が異なれば、違う有利区間を抽選できます。
言い換えればRTのg数がどれだけ残ってるか(RT状態の違い)で
有利区間開始時に持っている「ストック」数を変えることができる
ということです。
頭がいい人がいたもんですね。脱帽しました。
さっきの例の言い換えですね。
RTのどこで切るかを有利区間の終了時に決めるといったけど、
正直エンディング時でも1種BB作動時でもいいということです。
「また、AT中にエンディング条件は満たさなかったがATの終了後に有利区間が終了するような場合にも同様の手法により、持ち越しパラメータの値を次の有利区間に間接的に持ち越すよう構成してもよい。」
リゼロが使いやすいのでリゼロで行きます。
例えば鬼天国ループに入ったときに「持越しパラメータ」を使うと、
別の有利区間で処理できるということです。
「なお、この場合はAT終了後の1種BB図柄組合せを停止可能な遊技で1種BB図柄組合せの停止を促す所定の演出を実行するよう構成することが好適である。また、この場合は、ATの最終遊技の終了時の持越しパラメータの値に応じてATの最終遊技の終了時に、1種BBの作動が終了する遊技またはRT2中のいずれかの遊技のうちいずれの遊技で有利区間を終了するかを決定するよう構成してもよい。」
いずれにしても1種BBに入れないとRT2に遷移しないので、
終わってから入れましょうということですね。
またRTのどこで切るかを有利区間の終了時でもエンディング時でも
1種BB作動時でもいいって言ったけど、AT終了時でもいいよということです。
どこでもいいじゃん…
お疲れさまでした。これが最後のブロックです。
「また、1種BB図柄組合せの停止を促す所定の演出が実行されていない状況で遊技者が誤って1種BB図柄組合せを停止させてしまった場合には1種BBの作動が終了後も有利区間を終了せず継続するよう構成されている。このように構成することで意図しないタイミングで有利区間が終了してしまうことを防止することができる。また、このように構成することで遊技者が遊技状況に応じて意図的に有利区間を終了させるといった攻略を防止することができる。」
ちぇんくろ学園ですね。
無理やり入れても有利区間リセットしないよということです。
以降は具体例なので割愛します。
ずっとストックと書きましたが、
ホントにストックと相性がいいなと思っています。
RT2の切るタイミングとストックを1:1にしておけば、
ほぼ引き継げますからね。
読み方によっては、
RT2中のレア役で有利区間強制終了=ストック獲得
とかもできそうですがどうなんでしょう。
以上がサミー株式会社提出の有利区間持越し特許の内容でした。
5.搭載可能性
じゃあ実際に搭載されるの?ってことですが、
ここまで読んでいただいて申し訳ございません。
多分搭載されないです。
5-1.理由は3つ…
出願日が2021/11/30であること
公開日が2023/6/9であること
1.2.をもって未だ市場に出回っていないこと
正直業界人でもない限り知る余地はないんですが、
これだけの時間が経って未だに出てないということは、
そういうことなんでしょう。
自主規制で有利区間作ったのに、
それを無効化する特許なんて認められるわけがない
という所感です。
5-2.それでも…
だいたい台の開発には2~3年かかるといわれています。
ソースを出せと言われると非常に困りますが、
ネットではそのように書かれていますね。
業界人が漏らしたか、噂が出てから型式試験を通過するのがそれくらいなんでしょう。
噂は商標とか意匠とかで察知するらしいですね。知らないですけど…
6.特許の読み方
6章は話題をガラッと変えて特許の読み方です。
これはパチンコ・パチスロの特許だけかもしれませんし、
他にも使えるかもしれません。
簡単に言うと「責任は負いません」というやつですね。
傾向として新しいもの=特許として出願したいものは、
後ろの方のブロックに出てきます。
今回はいい例ですね。
パチンコのV確変潜伏タイプの演出についての特許もそうでした。
いやVゲート見とけよと。
まあそんな感じで"あたり"を付けます。
あとは該当箇所を探して読むだけです。
技術上の規格を大体読める人は、ガッツがあれば読めます。
ただ請求範囲がとてつもなく広いので、どこまでOKかは議論が分かれます。
まあパチンコ・パチスロのライセンス料って、
認可シール(だっけ?)の販売額を特許数で割ってるとか聞きますし、
出願時以外は大体で使えるんじゃないでしょうか。
この辺は業界人に任せます。
もうちょい読み方教えてとかあれば、コメントください。
コメントに応じて追記します。
7.感想
そうこうしてるうちに15000字超えました。
まあ半分くらい引用なので、そんなに時間かかってないですが…
特許わからんけど有利区間持越しには興味あるよって人には刺さったかと思います。
全部まとめて結論書けやって話ですが、
理屈をもって理解してほしいのでこの構成にしました。
というわけで以上とします。
長丁場お疲れさまでした。
他の記事とかも興味があればご覧ください。