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2022年末、横尾を歩く

横尾という町がある。古い町だ。

広島県、福山の市街地からバスに乗って府中へ向かっていると通りかかる町。片側一車線の細いバス通り沿いに昔ながらの商家が連なり、そこだけ周りの風景が変わって、戦後すぐ頃の雰囲気をそのままに感じる。僕は実家に帰るたびにその横尾の古い町を通りかかるので、いつかじっくりカメラをもって歩きたいと思っていた。

横尾の町並み

2022年、今年の年末は北海道からフェリーを使って帰省した。大寒波で列車が運休になったりいろいろ大変だったけれど、良い思い出になった。
実家で親戚に囲まれいろいろと目まぐるしい年の瀬を過ごしていると、ふと、今年最後にもう一度だけどこかへ行きたい気持ちになった。でも遠くへ行く余裕はない。
そこで思い浮かんだのが、この横尾だった。

福塩線の横尾駅で列車を降り、夕暮れの横尾を歩く。もう大晦日だというのに国道は車が切れ間なく走っていて、カメラを構えてのんびり歩ける雰囲気ではない。大通りを歩くのはあきらめて、路地を一本抜けて裏通りへ行くと、土蔵や洋館の連なる通りに抜けた。

路地にすっと陽がさす光景が美しくて、思わずシャッターを切った。洋風縦窓の洋館だった。

裏通りからまた路地を抜けて、国道沿いをのぞいてみる。いくつかの家の軒先にはしめ飾りが飾られていて、年末だなぁ、なんて感じていると、その軒先をかすめるようにバスが通り過ぎて行った。昔、旧街道の街として栄えてきた横尾は戦後になって国道が整備され、今、交通・物流の通過点として目まぐるしいなかにある。

商家の日本家屋や洋館が立ち並びつつも、重伝建や保存地区に指定されることがないまま今日まで来た横尾。昔はずらりと軒を並べた旧家も次々と解体され、今は数えるほどの日本家屋が立ち並ぶのみ。それでも残った建物はどれも重厚で、当時の賑わいをかすかに感じる。
もし国道が違う場所にできていればこの通りは保存され、石畳が敷かれ福山の古い町並みとして有名になっていたかもしれない、そんなことを思ってしまった。

建物に差していた夕日が山の向こうに沈み、やがて町が薄ら陰に包まれる。僕はこの時間がいちばん好きだ。そんな横尾の町が想像以上に素晴らしくて、結局2時間も歩いていた。

空地の隅に置かれたバス停で、帰りのバスを待つ。ふと、年末年始バスは時刻表通り走ってるのかなと心配になったけれど、5分遅れでちゃんとバスは来た。
バスが発車し、振り返ると、窓から見える町並みは一気に遠く小さくなり、まもなく見えなくなった。

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