見出し画像

【広島商人】知られざる戦後復興の立役者(8)船路

マガジンで全話読めます!(売上は一部平和記念資料館に寄付します)

8 船路

 暁の海の小波は、しずかにどぶりどぶりと押し寄せてくる。
出船の準備は着々進み、第一回船は朝日丸、浜吉丸、神恵丸、進勇丸の四隻である。

私たち親子は、朝日丸へ乗りこむことになった。
朝日丸船長は小船八郎氏である。

 船団の家族の見送りを受ける。
船は錨を巻き上げると、出港の合図に、発動機はポンポンと元気よい音を立て、江田島湾を出てゆく。
呉軍港沖を経由して、目的の港に向かってゆく進路なのである。
 はや午後三時半にもなるであろう。

私はデッキの上で嬉しそうに対岸の呉線方面を眺めている利雄のそばに
立って、指しながら
 
 「対岸は呉線大屋海岸だよ」

 「鉄道の駅が小さく見えるね。……あすこのはありゃあ軍艦ですか」

 「あれは小さい軍艦の天龍じゃよ。そこの大屋駅から北に向かって、
  谷間を上った所に呉海軍施設部が疎開していたんだよ」

 「お父さんはたびたび大屋の施設部へ行っていたね。
  はあ、あの谷の奥じゃったんか」

 「現にいま航海しておるこの海の上で、アメリカ空軍と日本海軍との
  激戦を見たよ。その話をしてあげようかね」

 「そいつあすばらしいね。聞かしてよ」

ここから先は

9,598字
本マガジンへの売上は電子化経費が回収できた時点で残りを「平和記念資料館収蔵資料の保存措置の強化」の用途指定して平和祈念資料館に全額寄付いたします。 また、英語化、映像化の要望があった場合にはその投資に一部使用するものとします。

この文章は昭和31年11月に発行された「広島商人」(久保辰雄著)の冒頭です。(原文のまま、改行を適宜挿入) 広島は原爆が投下された約一か…

サポートは不要です。 よろしかったら https://note.com/alex_keaton/m/m63df0baf9941 の購入をお願いします!売上は平和記念資料館に寄付します!