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個人ノベルゲーム開発におすすめのゲーム制作ツール(エンジン) 〜判断基準と実例を添えて〜

「おすすめ ノベルゲーム 作る」とかで検索すると、エディタ/エンジン名をたくさん並べた記事がヒットしがちですが、実際使ってみないとわからないことも多いかと思います。

2024年5月現在、ノベルゲームを今まで何本か完成・公開している私こと個人ゲーム開発者が、使ったことのあるノベルゲーム制作ツール/エンジンを厳選、おすすめを中心にまとめました。

なお、

-短期開発しか考えていない
-凝ったこと、カスタマイズする予定は全くない
-ちょっと作ってみたいだけで完成・公開しなくてもよい


……という方には、本稿そんなに参考にならないと思われます。

また、私が各エディタ・エンジンを使ったのは数年前というものもあるので、もし「その情報は古い」「改善している」という知見があればぜひコメントにお書き添えください


前提:自分に合ったツールを選ぶ基本

ちょっと作ってみよう、使ってみよう程度なら、別にどのツールでも良いと思います。色々使って比べてみるのも良いでしょう。

しかしもしあなたの目的が「完成させて公開したい」なら、ツールを選ぶ基準はズバリ「作りたいものに似た完成品が」「自分が公開したいプラットフォームで」「ある程度の数公開されている」これに尽きます。

上記にプラス、「その開発者さんと自分の技術レベルが近いか」も調べて参考にするとなお良いでしょう。例えば、私のフォロワーさんにもUnityでノベルゲーム作ってる人はいますが、ご本職でUnityを使っている人ですので、その方を参考に「Unityでノベルゲーム作れるんだ」と判断するのは早計で「プロだから」という枕詞がつくはずです

個人の実感ですが、「作りやすい・使いやすい」と「完成・公開しやすい」ゲームツールはイコールではありません。終盤になって初めてわかることもあります。

たくさんの人が使って公開しているということは、概ね「完成させやすい」ということです。そして、公開作品が多ければ実際の挙動を遊んで比較し、確認することができます。

例えば国内でたくさんの人に遊んで欲しいならティラノスクリプトとノベコレの右に出るものはないと思います。しかしながら、Steamで多言語対応したゲームを公開するのが目的ならどうでしょうか?

ツールを選ぶ際には「自分が目指す実績をたくさんの開発者さんが叶えている」ツールを選ぶと目的の達成率が上がるはずです。


おすすめ:ノベコレ(公開の場)強し! 国内で圧倒的シェアを誇る「ティラノスクリプト」

おすすめポイント:
-国産エンジンで国内シェアが高く公開作品数も多い
-エフェクトなどのプラグインが公式/有志により配布されている
-デフォルトのUIビジュアルが割と整ってる
-ブラウザ版の公開の場(ノベコレ)やコンテストが充実している
-私はこのツールでリリースまで漕ぎ着けられなかったのですが、ゲーム開発でもっとも完成の支障になると思われる「バージョンアップと共にゲームが動かなくなる」可能性は極めて低いと予想されます(ノベコレのゲームが一斉に遊べなくなる、みたいな仕組みにはなっていないはず)

こんな方におすすめ:
-初心者で、まずは無料ノベルゲームを作ってみたい
-国外展開/ローカライズは今の所考えていない
-完成したゲームを公開する場所や公開方法がよくわからない
-国内でとにかくたくさんの人に気軽に遊んでもらいたい

注意点:
-ノベコレには審査があり、掲載してもらえないこともある(無審査でなんでも載せるより良いことだとも思います)
-Steam対応や多言語化の実績は少ない
-「スマホ対応」を謳っているが、2022年ごろAppストアに置くアプリを実際に作った方によると「動画が再生できない」「最新のiOSに対応していない」などの問題があり、動画を諦めたうえ最新OSに対応する手段を調べるのに相当時間がかかったということなので、事前に「スマホ対応」について現時点の情報を精査する必要あり(スマホで遊べる、ブラウザ版がビルドできることとアプリ化できることは全然別)
-公式サポートのサブスクに入ると、アクセス時にエロいイラストがたくさん並んだ謎サイトを経由させられて嫌でした


おすすめ:質実剛健、看板に偽り無し! 翻訳やSteam視野なら「Ren'Py」

おすすめポイント:
-バージョンアップで動かなくなることが基本ないので長期開発に強い
-他ツールでは無料で責任を問われにくいのをいいことに「このツールなら◯◯(例:スマホアプリ化、ローカライズ、Mac版対応など)ができます」と謳ってはいるが鵜呑みにしてはいけないケースがありまくるんだがrenpyではそういうことがほぼない(βならちゃんとβって書いてる)
-海外で圧倒的シェアを誇る。Steamでの公開実績も多数。ロールバックなど海外でニーズの高い機能に標準対応
-リアルタイムプレビューに近い機能など開発が捗る各種機能が充実
-個人勢Androidアプリも割と公開されている
-Macでもwindowsと同じように開発できる(私は両機使っています)
-拡張性が高い
-国内の有志がやさしい

こんな方におすすめ:
-商用/ローカライズ/中〜長期/アプリ開発/海外展開 を視野に入れている
-スクリプトやゲーム制作の知識が多少ある
-色々カスタマイズしたい

注意点:
-入り口のハードルが高い
-できることが多いゆえ公式マニュアルが迷宮、私も読んでも何書いているかいまだに全然わからない
-iOS版の公開実績は少ない
-スマホアプリやブラウザ対応はあくまでβ版
-なんか調べるにしても英語になる……と思い、以下で日本語記事を大量に公開しています(宣伝)


あまりおすすめできないエンジン

Unity

-明らかにノベルゲーム「以外」向けのツールなので、テキスト系ゲームを作ることに特化しておらず「初心者さんの」「ノベルゲーム制作」にはおすすめできない。ノベルゲーム向きのバックログや既読スキップを実装するには知識やアセットが必要になりがち
- もともと3D向きなので基本的に動作が重い。
自分も3Dゲームの開発に利用したことがありますが、デフォルトで入る冒頭の真っ暗ロード時間を短縮するのは詳しい人じゃないと厳しかった(本職の方に頼んで改善しました)
-Switch移植まで視野に入れている人の選択肢にはなり得ます(が、この場合NDAの問題まで絡んでくるので、この辺ちゃんと調べてからorわかる人じゃないと結局作り直しになってしまいます)
-私のフォロワーさんのうち、ノベルゲームを作っている非プログラマ(十数人はいる)でUnityを使っている人はいません
-しかし、そもそも商用向きのツールなのでおそらく安定度は高く看板に偽りはないはず


その他、おすすめできない基準

以下、一個でも当てはまったらすなわちダメなツール、というわけではありません。ご自身の目指す目的によっては支障にならない項目もあります。

有志の作ったプラグイン頼みになる開発ツール

プラグインを使えば、どんなエンジン・エディタでも色々なことができますが、非公式プラグインは公式のバージョンアップとともに使えなくなったりするので、特に長期開発には不向きです。基本的な機能しか使わない、カスタマイズする必要がなければそんなに心配しなくても大丈夫

公式のコミュニティが微妙なツール

例えば公式コミュニティがあるのに技術的な質問がスルーされがちだったり、開発元までスルーしているといった場合は、身近に教えてくれる人が必要になりがちです。あとそもそもコミュニティに誰もいなかったり、無料ツール系のコミュニティはすごい治安悪かったりしますので、先に覗いてみるといいかも?

ハウツーをサーチしてもヒットしない=利用人口が少ないツール

冒頭で書いたことと逆で、「作りたいものに似た完成品が」「自分が公開したいプラットフォームで」「ある程度の数公開されて」いないツールは候補から外すのが良いと思います。すなわちダメというわけではないですが、完成・公開・販売実績が極めて少ない場合、自作品が実験サンプルになる可能性が高い……ので、そのツールを愛していて販路を切り開いてやるぜくらいのマインドが必要かも

国内向けの開発環境が整っていない

翻訳ソフトを使えば色々なんとかなる時代ではありますが、公式サイトが英語しかないとか、国内で使ってる人がいないといったツールは言語や文化の違いが障壁になりがちです。英語そんな苦手じゃないですという人なら気にしなくてもOK

ツール開発者のSNS発言がなんか気持ち悪い、自分に合わない

経験上、こういう勘は大体当たるので避けた方がいいです


個人向けゲームエンジン側の主張は事実ばかりではない

個人が無料でさまざまなツールの恩恵に預かり、しかもそれが選べるほど存在するありがたい時代だとは思います。しかし、私が10年くらいゲームを作り続け何作かリリースをした結果得られた知見は、残念ながら個人向けゲームエンジン側の主張は事実ばかりではないということです。

ネット上には色々な情報が溢れていますが、このツールを使って困った・ゲームが完成しなかった等の書き込みはあまり見かけません。ゲームが完成しないのは単にその人の技術力が足りないだけなのでは? と思われる可能性もあるからでしょう。

しかしながらそういう一般論を超越して、エンジンそのものがバグだらけのツールもあります。

私はとあるゲームエンジンを使いSteam用のゲームを制作したことがあります。度重なるアップデートのたびに開発中のゲームが動かなくなりエンジン由来のバグを発見→開発者に連絡→最新版にアップデートしてくれと言われる→新たなバグの無限ループ。バージョンロックしようとしても安定版が存在しないので不可能。

それらをなんとか乗り越え、リリース直前にバグ報告をしたところ当方に原因がある旨言われ、学生プログラマ(優秀)さんと2人がかりで数時間かけて検証したところエンジン由来のバグだと判明。再度問い合わせると「こちらのミスでした」の一言もなく修正パッチが送られてきたこともありました。当時、数万払って有料対応してもらっていましたが、この件で打ち切りました。

他にもセーブロードバグや一部ローカライズできない箇所などがあってリリースできないかもしれない恐怖と隣り合わせで、もし独力であれば挫折して「ゲームも翻訳も完成しているのにストアにアップできない」で終わっていたと思います。

こういったことがなんで顕現しないかというと、たとえばiOSアップデートしてiPhone動かなくなったら世界中大騒ぎになると思うんですが、ノベルゲーム開発エンジンはそもそも利用者の母数が少なく、不具合につきあたっても専門知識がない人が多いので「自分の使い方が悪いのかな」と諦めたりする可能性が高く問題が放置されることもあるからと考えられます。

有料ツールでも割と窓口対応が雑だったツールもありますし、上述のように有料対応だからちゃんとしてもらえると思ったらそんなこともなかったりします。エンジン開発側の趣味の域を出ないケースもあるのでしょう。無料ツールにそこまで求めるな、看板通りに動いて欲しいならUnityとかUE使えば? と言われれば、残念ながらそれはその通りです。

実際、Unityやツクール系でノベルゲーム特化ツールが現れては消えたり、長続きせずサービス終了しているのをみると、全ジャンルをカバーするツールに比べ、ノベルゲーム特化エンジン開発は割に合わないのかも知れません。

個人開発って自分のちからでなんでも決めて敢行できるのが大きな魅力のひとつではありますが、ことツール選びに関してはぜひ適切な時節に適切な人を頼っていただきたい。

こんな長い記事をここまで読んでくださった皆様が、この先も長く楽しくゲーム開発を続けられる一助になれば幸いです。


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