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【未来予測①】グローバル社会の中で"由利本荘市のごてんまり"はどうなっていくのか

こんにちは。秋田県由利本荘市でごてんまりを作っています〈ゆりてまり〉です。

よく「秋田のごてんまりを世界に向けて発信したらどうか」と言われます。「人口減少の進む秋田の中だけで商売していてもジリ貧になるだけ。より多くの顧客のいる世界へ売り出した方が良い」と言う人もいます。
そういう人たちはごてんまりが世界のマーケットにはばたけば、明るい未来が待っていると想像しているようです。
果たして本当にそうでしょうか。グローバリゼーションは由利本荘市のごてんまりにとってどのような影響をもたらし、どんな未来が予想できるでしょうか。

わたしの未来予想


わたしは他の人の言うような明るい未来を想像していません。
世界のマーケットで"由利本荘市のごてんまり"が華々しく活躍するというイメージよりも、むしろ"由利本荘市のごてんまり"とは誰も気づかないうちにひっそりと世界のどこかに流出する可能性のほうが高いのではないかと思っています。
わたしがそう考えるのは、由利本荘市にいるごてんまりの作り手の性質に理由があります。

彼ら彼女らは、ほとんど誰も「わたしが作っています」とは言いません。全国ごてんまりコンクールの例外をのぞき、ごてんまりの展示会ではなぜか作者と作品名が明かされません。
他の芸術作品ーー絵画や書、生花などの展示会では作品の横に作者と作品名が掲示されるのですが、ごてんまりの場合はなぜかこの「展示会あるある」のルールが全然適用されないのです。
2021年秋田空港にごてんまりを含む手工芸品の展示ブースが出現した際は、作者の名前はもちろん、どこが運営しているのかお問い合わせ先すらも明示されず、困惑したお客様からわたし〈ゆりてまり〉のところへ問い合わせが入るという事態が発生しました。

https://note.com/akita_ringo_chan/n/n2300963e1f93


こういうハッキリ自分の名前を名乗らずに「ごてんまりを作ってるんだけど…みんなに見て欲しいんだけど…名前を出すのはちょっと…」というモジモジした態度は、グローバルな社会ではちっとも通用しません。
しかし幸運なことに言うべきか、不幸なことにと言うべきか、こういうハッキリものが言えないところに魅力を感じて近づいてくる人もいます。わたしはこういう人たちを通して由利本荘市のごてんまりが県外や世界へ流出する可能性があると考えています。 

ごてんまりの状況は誰にとってメリットがあるのか?


由利本荘市以外に目を向けると、全国には既に手まり(temari)を日本を代表する文化の一つとして、世界に向けて販売するビジネスを行っている人たちがいます。
手まりは日本を感じさせるお土産として需要があるのはもちろん、手まりのアクセサリーも人気がありますし、イベントの装飾などにも需要があります。そういった手まりの仕事をビジネスとして成立させるためには、一定のレベルを習得した大量の技術者が必要です。
手まりの技術の習得には、相当の時間と労力を必要とするため、作り手の確保はそんなに簡単ではありません。手ほどきしたとしても1日かそこらで作れるようになるというものではないですし、根気も要ります。

手まりの事業を既に行なっている人たちからすれば、秋田県由利本荘市の環境は素晴らしく魅力的に感じられるのではないでしょうか。
まず、地域に手まりの文化が根付いており、高い技術を持った技術者がいること。
第二に、その技術者もサークルを結成し展覧会を行うなど、名前は出さないけれど地域に相当数いると思われること。
第三に、技術者のほとんどはまりを作って人に見てもらうのは好きだが、自分たちの名前が出るのを極度に嫌がること。

これらのことを総合して考えると、由利本荘市にいる技術者たちに内職として手まりを安く作らせ、日本はもちろん世界の都市部で売ろうという考えに至るのは、もはや必然ではないかと思われるのです。
ごてんまり作りが旧本荘市の主婦の内職として定着したという事実も、彼らにとっては非常に都合がいいと思われます。内職であって労働でないなら、労働法の適用にならないからです。

どれだけ働いても時間給でなく出来高払いで済みますし、労災など社会保険の整備もしなくて済みます。簡単に言えばコストダウンになります。
よく知られていることではありますが、平均年収で言えば秋田県の女性が最も低く全国最下位です。


秋田のこういうところも、手まり事業の経営者の目には魅力的に映るのではないでしょうか。

グローバルなマーケットでは様々な国、民族の人たちが集まり、異なる文化と価値観の中で取引が行われます。その中で価値の差異を見抜き、自らの取り分を最大化出来た者がグローバル社会の勝者になります。
誰もが勝者になるために行動するわけではありませんが、由利本荘市のごてんまりはその中であまりにか弱く、すぐにでも食い物にされそうな印象があります。

由利本荘市の技術者を使うメリット

単にコストの面だけを考えれば、国内の人間より単価の安い他国の労働力を使う方がメリットがあるように見えるかもしれません。
しかし手まりの仕事はそんなに単純ではありません。

手まりの大量生産というと、技術者と手順書をそろえて一度作り方をマスターしてもらえば、あとはいくらでも大量に作らせることができそうに思えます。
おそらくそういう方法でビジネスが成立するのは、小さくて単価の高いアクセサリー用のまりに限られます。人体はその場その場で大幅に変化しないため、一定の大きさのまりをそろえることができれば事業が成立するからです。

しかしイベントで使う、室内装飾用のまりや来場者プレゼントで配るようなまりは、そうはいきません。会場に合わせた大きさで、その場の雰囲気やイベントの色に合わせたまりを作ることが求められます。
技術はあっても言語の異なる人たちに、場の雰囲気やイベントの色といった微妙なニュアンスを伝えて、その通りのまりを作ってもらうことは可能でしょうか。
わたしはかなり難しいのではないかと思います。

そもそもアクセサリーに使うような小さなまりと、室内装飾に使うような大振りのまりでは、針や糸といった使う材料の種類や力の入れ方が全く異なります。まりが作れる人間ならばどんなまりでも作れるだろうと考えるのは間違いです。

その点秋田県由利本荘市の技術者であれば、方言という違いを差し引いても同じ日本語という言語を共有しているため、かなり微細なニュアンスまで伝えることができます。
また由利本荘市には地域を代表する工芸品に「本荘ごてんまり」という、球体の三方に房の付いたまりがあります。房が付いているので手でついて遊ぶことはできません。本荘ごてんまりは壁や天井に吊るしかけて鑑賞する、室内装飾品として昔から親しまれてきました。
由利本荘市の技術者を使うメリットはこういうところにあります。

つまり、同じ言語を共有し、もとから地域に手まりの文化が根付いているため、質の高い仕事が期待できること、その上で国内の取引相手では最も経済格差の恩恵を享受することができるというメリットです。
既にグローバルマーケットで手まりを扱っている事業者からすれば、秋田県由利本荘市の技術者は非常に利用価値が高いだろうと予想できます。 

仕事内容の予想

わたしは、もし由利本荘市にそういった内職の依頼が来るとしたら、イベントに使うまりの制作依頼がくるだろうと考えています。
イベントで使うような室内装飾用のまりやプレゼント用のまりは、クライアントにイベント装飾費としてある程度まとまった金額が請求できますが、受注の予測が難しく、大量に作って納期に間に合わせる必要があります。
そういった意味で国内にいる技術者に「とにかく手伝ってくれ!」と緊急の依頼を出すことが考えられます。

そして、危機管理能力が高く計算高い経営者であればあるほど、このように考えて行動するのではないでしょうか。
ある程度安定して需要があり、小さくて単価の高いアクセサリー用のまりを作る技術者は、他国の安い労働力を使うにしろ国内の人間を使うにしろ、経営の要として囲い込む。
反対に、まとまった金額にはなるけれども受注の予測が難しいイベント用のまりは、その都度由利本荘市など国内にいる技術者に内職として外部委託するーー。
これが、グローバルマーケットで手まりの事業を行うにあたり、最も自分の取り分を最大化できる方法なのではないでしょうか。

プランテーション農業化する可能性

由利本荘市のごてんまりの文化は、既に手まり事業を世界で展開しているところの、非常に使い勝手の良い仕事の調整弁として利用される可能性があります。
こういう内職の仕事は、地元向けではなく日本もしくは世界の大都市に向けて大量に安く作られるという点で、プランテーション農業に極めて近いと言えるかもしれません。プランテーション農業のおそろしいところは、知らぬ間にその土地の経済を蹂躙し、破滅に導く可能性があるということです。
わたしは地域の技術者がそういった仕事を「楽そうだから」「顔バレしないから」といった理由で了承し引き受けるのではないかと危惧しています。
そして大量に引き受けるうち、自分たちの手まり製作がおろそかになり、その結果由利本荘市の手まり文化が衰退するなんてことにならなければいいなと思っています。


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