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140字小説/深

保育所の送迎は深緑色のホンダZだった。祖母の車。昭和五十年代。地元では運転する年配の女性が珍しかったし、深緑色なのも珍しかった。なんで深緑なん?深緑が好きやからや。…人気が無くて安うする言われたからや。ふうん。でも他が赤や白ばっかりやから一番目立ってるで。というかおばあちゃんが。


深海に横たわる一枚の鋼鉄。ぼこぼこに変形したその下にサメの子が潜んでいる。毎夜彼は夢をみる。ここをうんとうすくした青。火の球のぎらぎら。熱い、熱い。羽の生えたやつ飛んでった。四角い街遠ざかり。緑がさわさわゆれ、白や黄色もゆれる。いい匂い。黄色のひとつが手折られ小さな指にわたった。


「お前の文章ってポキポキしてるねん」「うん」「なんか表面だけで陰影というか深みがないねん」「うん」「お前さ、友達おらへんやろ?」「……」「あっ」「え?」「もしかして俺のこと友達と思ってた?」「思ってへんよ」「そうか、そっかあ~。いらんこと言うてごめん、ごめんな」「友達思てへんて」


詩がわかるとはどういうことか。まるい言葉、きらきらした言葉、透明な盾のような言葉。わかった気になってへんに深読みをし勝手に傷つき去ってゆく。ひりひりした心が立っていた。あれは私を遠ざける言葉だったのか。今となってはわからない。詩の縁から明日を見て、ただうっとりとさせてほしいだけ。