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幼虫#SS

 初夏。庭のくちなしの木にオオスカシバの幼虫が発生した。アゲハの幼虫に大きさの似た青虫で、お尻に鈎上の突起がついている。これが葉を食い荒らすので、祖母が一匹ずつ火箸ではさみ、草履の裏で踏んで潰す。幼虫は青い汁となった。
 物陰にかくれて様子をみている私にお前もやれと言う。かわいそうだし気味が悪すぎて、私は震えながら屋内に引き上げる。オオスカシバの成虫は透明の翅を高速でふるわせ、ホバリングしながら花の蜜を吸う。美しい小さな鳥を思わせるこの蛾が私は好きなのだった。
 祖母は長年糖尿病をわずらっていた。喉が渇くのか、夜、しばしば水を持ってくるよう私に命じた。隣の部屋でテレビを見ていた私はコップに水を汲み、襖を開けた。
 電灯を点ける。祖母の布団のへりに青いものが動いている。幼虫である。昼間に祖母の服に付いたのかもしれない。時折、それは祖母の布団の上を這っていた。いくつかは顔の上にも這っていた。
 おばあちゃん、幼虫が、と言うと目を閉じたまま祖母が口を開けた。幼虫がその中に入っていくのを私はみた。



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