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言葉の舟 140字小説

ほしおさなえさんの「言葉の舟 心に響く140字小説の作り方」読了。後半のコンテスト入賞作品も含め、きらめく宝石みたいな、あるいは肌触りのよい布のような物語たちにうっとり。私は切手が好きなのですが(写真より手書きの絵のやつが好きです)、140字小説は切手に通じる魅力があります。小さな面積に精密描写をする点が同じに思えるからでしょうか。

第2章の140字小説実作講座では、言葉を省いて、移動して、省いた言葉を復活させて小説が締まってゆく様子はたいへん参考になります。講座の生徒さんが書かれた小説中「これは省いてほしくないなぁ」と思ってたフレーズを、ほしおさんも「外してしまうのはもったいない」と仰り、復活となったのはうれしかったです。

ほしおさんの好きな一編、たくさんありますがことに、

活字屋に行った。むかし、うつくしい文章に出会ったのです、と店主は言った。ふさわしい字を作りたくて、何十年もかかりました。ようやく完成したというのに、その文章が思い出せないのです。さびしそうに言って活字を出した。鉄色の活字は一字ずつがうつくしく、組まれることを拒んでいるようだった。

22番

組まれたあと、店主の意識が文章にいってしまうのを拒んでいるのでしょうか。活字の矜持もまた、美しい。省略の仕方や、ひらがなと漢字のバランスがいいので文章がゆったり流れていて、読んでいて心地よいです。

アザラシと空を見ていた。急に星がひとつ消えた。僕はぶるっとした。アザラシの毛が逆立った。とてつもなく長い命が消えたのだ。星の光が届くには何百年もかかります。だから消えたのはずっと前ですよ。アザラシは冷静に言う。でも声は震えている。怖いね。怖いです。空の下でぴったり寄り添っていた。

370番

震撼しました。星のみならずいま目にしているものは本当はもう消えて「無い」のかもしれないと恐怖して、主人公とアザラシはぴったり寄り添ったのだと思いました。



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