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添削の魅力

NHKテキストを読んでいて、おや?と思うことがあります。
NHK短歌2月号、誌上添削教室より。

死神と半分づつの新豆腐マンションの孤独なる死の現場
兵庫県 藤田晋一さん

藤田さんは短歌、俳句の色んなところで作品とお名前をお見かけする巧い方です。NHKテキストの読者のお便りエッセイや、最近ではよみうり時事川柳でもお見かけしました。

ええと、掲出歌。添削の必要、ないですよね? あえて言わせていただけるとすると、上の575だけで良句になっています。季語「新豆腐」を入れてくるあたりが、俳句されている方ですね。

死神と半分づつの新豆腐

誌上では作者のお便りも紹介されていましたが、それがない状態として鑑賞しますと物悲しい、しかし死神と豆腐を突っつきあう画はどこかユーモラスでもある。ひとつの物語が立ち上がってきます。おそらく・・・作者自身も「上句だけで俳句になるなあ。ここで切りたい」と、気づかれたのではないでしょうか。でも、短歌に出すので下句もつけなければいけない。だから付けた。「マンションの孤独なる死の現場」ルポ的な、無味乾燥な感じが私はツボります。

添削で短歌っぽく上品な風に変えられていて、元歌の勢いが削がれた感じになったのはなんだか残念。でもね、選者の久我田鶴子先生も困ると思うんですよ。こういう巧い人が添削を申し込んでくるのは笑。もちろん、他の方の添削を見てますと、いい感じに変えられたと思う作品もあります。

藤田さんの作品は5月号テキストの短歌と俳句の両方に載っていて、俳句では何と全選者に採られています。村上鞆彦選では入選もされています。私が一番好きなのはこちらの句。

花咲くや父は敗残兵なりき
兵庫県 藤田晋一さん(高野ムツオ選)

戦争に行く前と帰ってきてから仰ぐ桜は、おそらく見え方がちがっていただろうと思うんですね。今年の桜を仰ぎながら、父の心情に思いを馳せる作者。

これまで十万回は目にしてきた「花咲く」という四字。俳句の世界では、花は咲いてるのが前提なら「咲く」は要らない、という考え方もあるようですが、そんなの関係ねぇ!って蹴っとばしたくなるほど、これ以外考えられないほど、ぴったり嵌まっているではありませんか。

こんな巧い方がなぜに添削申し込みされるのだろう? と不思議でしたが、最近なんとなく理由がわかりました。
1.巧い方は向上心がありもっと巧くなりたいと考えるものである。
2.添削申し込みはテキストの巻末ハガキを用いるが、文章を書くスペースもある。「作品を詠んだ動機や表現したい内容を80文字程度で記載」と、表の住所氏名欄下の「今月号で良かった記事や、編集部への要望」。

これは、選者および編集部へのいわば「手紙」なのです。私のあくまで想像ですが、おそらく作者は手紙を書きたいがために添削申し込みをされるのではないでしょうか。ある編集者さんが書いていました。「雑誌に付いているアンケートはがきはぜひ出してあげて欲しい。そうすると編集者がたいへん喜びます」。

私はこれまで添削にあまり興味なかったのですが(生意気な^^;)、せっかくテキスト買ってるしとさいきん添削ハガキを書いていたら、これが面白い。なんかね、本当に手紙を書いてる気分なんですよ。「添削の魅力」転じて「選者と編集部に手紙を書く魅力」ですね。