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胸くその悪かった衆院東京15区補選と、小池3選が都政にもたらす失望

 候補者が他の候補者の街頭演説に突撃し、大暴れするという、悪夢のような光景を眺めながら、日本もついに逝くところまで逝ってしまったと天を仰ぐしかなかった。こんな光景を見るために、我々は戦後、民主主義を守ってきたのだろうかと思うと虚しくなる。こんなに胸くその悪い選挙は生まれて初めてだ。かつて、共産党の不破哲三委員長(当時)が党公認候補者の応援で街頭演説をしている場所に、公明党の選挙カーがボリュームを一杯にして叫んで通り過ぎたことがあった。当然、不破委員長は激怒したが、当時の都議会公明党の幹部は慌てふためいて、自ら候補者の事務所に出向いて頭を下げ、謝罪した。やっていいことと悪いことの境界線を、普通の大人は理解できる。それができない時代になってしまったことに落胆するばかりだ。

 衆院東京15区は、大方の予想通り立憲民主党の候補者が当選した。

 自民党は統一協会との癒着と裏金問題でズタズタで岸田文雄総裁の後釜が見つからない。岸田を引きずり落とす気力すら残っていない。候補者すら出せない。公明党はそもそも自民党の腰巾着でしかない。日本維新の会は相変わらず、立憲民主党と共産党の悪口ばかり、そのくせ自分たちが始めた万博にはだんまり。国民民主党には何もない。小池百合子はカイロ大学を卒業したかどうかわからない。そのほかは、わけの分からないチンピラたちが大暴れしていたり、山に登っていたり。

 そう考えれば、有権者の選択は(共産党が支援した)立憲民主党以外なかったのだと思う。

 私は立憲民主党が大嫌いだが、今回の結果に不安はあっても不満はない。あまりにも当然すぎる結果にむしろ拍子抜けしているくらいだ。とりわけ島根1区に関しては、小選挙区制導入以来、まだ一度も自民党以外の候補者が当選したことがない選挙区だけに大きな意味を持つ。この状態で解散総選挙など打てるわけもなく、かといってこんな状態で岸田の首を獲ろうというチャレンジャーがいるわけでもない。自民党自身がデッドロックにハマっているし、もしかすると衆院の任期満了まで、日本の政治全体のデッドロック状態が続くのではないか。

 これは都政においても同じことで、小池百合子が7月の知事選で3選出馬することはほぼ間違いなくなってしまった。以前にも書いたが、ポピュリズム政治家の賞味期限は10年が限界だ。つまり、首長や議員であれば、3期目の途中で賞味期限が切れる。

 石原慎太郎は2期目の途中、側近の副知事がやらかした都議会のやらせ質問事件で足元をすくわれ、都政における求心力を失った。都庁には週1日しか来なくなり、都政に対する関心が一気に薄れてしまった。3選を目指した都知事選では、都の文化事業への四男の起用など、都政の私物化が批判されて、石原知事の友人だった元警察・防衛官僚の佐々淳行を選挙対策本部長にし、「反省しろよ慎太郎、だけどやっぱり慎太郎」のキャッチフレーズで選挙をたたかった。

 3期目の都政は悲惨だった。新銀行東京の破たん、豊洲市場建設予定地の土壌汚染問題の発覚など、石原都政のほころびが一気に噴き出した。石原知事は都政への関心を失い、保守派の老人たちを集めて「たちあがれ日本」を結成し、「応援団長」に就任した。4期目はもう言うまでもなし。自民党が、元々やる気のない石原知事を、無理やり4選出馬させて、〝なんちゃって領土紛争〟をやったあげく任期途中で辞任した。

 だから、都知事に3期目など期待してはならない。美濃部亮吉や鈴木俊一の3期目の都政が盤石だったのは、美濃部であり、鈴木だったからだ。ポピュリズム政治家に彼らのマネはできない。

 小池百合子が3選出馬すれば、実質的には自民、公明、都民ファの3党連合になることは間違いない。裏金事件でボロボロの自民は、もしかすると東京15区のようにいろいろと理由をつけて推薦を出さないかもしれないが、女帝とたたかうような力はもうない。実質的に「支援」に回るのではないか。自民党から気概のある保守政治家が離党し、リベラル層も含めた幅広いウイングで都知事選をたたかえば勝機がないわけではないが、それも期待薄だ。

 日本維新の会は、小池の3選を阻止するというよりは、野党共闘の候補者に冷や水を浴びせるために単独候補を出すことがあり得る。彼らは権力の監視には興味がないので、あくまで立憲民主党や共産党の〝悪事〟を暴くために暗躍するだけである。基本的には彼らのアジェンダは、小池都政との親和性があり、対立する関係にはなり得ない。むしろ、なぜ与党にならないのかが不思議でならない。

 石原都政の誕生から四半世紀が過ぎようとしている。いい加減、都政は右派ポピュリズムから手を切るべきではないか。革新都政なんてぜいたくは言わない。せめて、四半世紀続く石原的都政から脱却すべきである。

 これも以前に書いたことだが、東京には1000万人の有権者がいる。仮に投票率を50%と設定したとして、当選するには投票した500万人のうち半分以上、つまり250万票を獲得しなければならない。有権者の4分の1の得票、かなり高いハードルである。

 例えば、2022年参院選での都内の政党別得票数を見ると、自民党は154万票しか獲得していない。公明党は74万票。つまり、自公連合がフルに組織票を出しても、250万票には届かない。小池百合子は2020年都知事選で366万票獲得している。現職の都知事がいかに難攻不落なのか、お分かりいただけるだろうか。

非公開の会合後、立民都連の手塚 仁雄よしお 幹事長が取材に応じ、候補者を「5人以内」に絞り込んだことを明らかにした。志望している人に加え、以前に打診したものの難色を示した人もいるという。今後、手塚氏が改めて接触を図り、出馬の意向を聞くなどする。

東京新聞2024年5月2日

 だから、いつまでも選考している場合ではないのである。立民や共産がいくらヒソヒソ話を繰り返しても、山本太郎は出てくるだろう。リベラル票の食い合いは避けられない。そもそも、そういう狭いエリアの選挙では勝てない。

 東京15区で乙武さんは惨敗したではないかと言うかもしれない。確かに、女帝の神通力は弱まっている。しかし、それを言うなら、絶大な人気を誇った石原慎太郎が応援した「たちあがれ日本」はなぜ撃沈したのか。やる気もないのに4選出馬し、選挙で街頭にすら出なかった石原は261万票獲得している。都民は、小池総理を支持しておらず、小池都知事を支持している。3選出馬すれば、250万票は超えるだろう。そう簡単に負けるタマではない。

 対立候補が250万票以上を得るには、投票率を50%以上に上げなければならない。このハードルはあまりにも高い。

 この選挙の難しさが、都知事選が人気投票になってしまうゆえんだ。

 国政も都政も、どうしようもないデッドロック状態に陥っている。怖いのは、有権者の逆噴射だ。自民党という昭和のボロ船から脱け出すために、自民党よりももっと怖い、保守カルトに幻想を抱き、極右政治の道を広げてしまうことだ。だからこそ、いまが大事だ。7月の都知事選、本気で小池を倒しにいかないと、エラいことになる。民主主義が試される。


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