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暇でひまで仕方がなかった


あの頃

時間が余ってた

暇でひまで仕方がなかった

買ってきたシングルCDを覚えるまで何度も何度も聴いた

部屋で大声で歌った。

夜になって姉に「あんたあんな大きい声で歌うんやめてくれへん?」と言われご飯が喉を通らなくなった。

だからお風呂で歌いそらで歌えなかったらまた聞いた

音楽番組で発表されるランキングチャートがあった

そこに自分の買ったCDがトップテンに入っているだけで嬉しかった

その曲が何週にも渡ってランクインしているだけで特別なものを感じた

自分はなにか感覚を持ち合わせているんだと少し胸をはれた

誰にも言わなかったけれど

明日に早くなれと思った

学校のない日曜日になれと思った

暇でひまで仕方がないから早く明日になれと思った

明日になればなにかある気がしてた

でもなにもなかった


自分の家にはゲームがなかった

ゲームをするために友達の家に行った

「兄ちゃんがやってるから今日無理やわ」

途端に帰りたくなった

でもそんなこともできずだらだらと遊んだ

自転車で走り回った

いつも畑で採れた野菜を家にくれるおじいさんの家

その前を通ったとき

「ここのじいさんみたことある?なんかきしょない?家も暗いし」

ほんまやな、と同調してしまった

喉の奥が痛くなった

そんな人じゃないとわかってたのに、僕は同調して終わらせた

そんなことならゲームしようやって誘うなやって思った

出来ると決定してから誘えと

来るんじゃなかったと後悔した

明日に早くなれと思った



夏休みの宿題は早く終わらせた

8月の頭までに読書感想文と自由研究以外は先に終わらせた

でも予定なんてなかった

時間だけがあった

お盆に行くおばあちゃんの家と二泊三日の家族旅行だけを楽しみに一ヶ月を過ごした

朝の子供アニメ祭りという番組を見る為だけに早起きした

掃除機をかける母親に怒られながら見続けた

午後からは遊びに行った

時間を埋めるためだけに友達と遊んだ

やりたいこともなく、時間だけがあった

早く大人になりたいと思った

自由にジュースを買ってお菓子を買って

ポケットに小銭がたくさんあればいいなあと思った

宿題もなにもなくて

ゲームもあって

明日も明後日もすっ飛ばして

早く大人になりたかった


大人になった

明日なんかまだ来るなと思う

一日があっという間

もっとやりたいことがある

もっともっとやらないといけないことがある

覚悟してさぼってしまうときもある

無理してやるときもある

そんな我慢も忍耐も解放もあの頃は必要なかった

自分と相談することなんてなかった

自分の現在地とか上を見たり下見たり

毎日が色んな感情で目まぐるしい

大人になってよかった

存分に生きている気がする

全部自分で決めれる

ジュースも買える

あのおじいさんいい人やでって言える

せっかく生まれたこの身体

色んなとこに連れて行きたい

色んなひとに会わせてあげたい












もしも、貴方が幸せになれたら。美味しいコーヒー飲ませて貰うよ。ブラックのアイスをね。