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「ペロ」

僕には友達がいない
だから幼稚園から帰ってきても
遊びに行かず
家で一人で遊んでいる
おばあちゃんに教えてもらった
折り紙をしている
やりだすと作りたいものが沢山でてきて忙しい日だってある

友達がいない
そんなことどうだっていいように思ってた

ある日、お父さんが、捨て犬を拾ってきた
茶色い毛をした犬で随分洗ってないのか汚れてた
公園で雨に濡れてて可哀想だったって
「急にやめてくれない、誰が世話するのよ」
お母さんと台所で少し喧嘩してた

その犬は僕を見つけるとひょこひょこと近づいてきた
僕の顔をペロペロなめて
甘えた声を出してきた
汚れてたからすごくいやだった

汚いからお風呂に入れた
こんなままでうろうろされたらたまったもんじゃない
お風呂に入れてやると、綺麗になった
嬉しいのか、また僕の方へやってきて
僕の顔をペロペロなめた
どうしたらいいかわからなかった
どうしたらいいかわからなかったけど
目の前ですぐに拭くのは見せない方がいい気がして
見えない所で顔を拭いた


その犬はずっと僕についてきた
いつの間にか、いつも一緒にいるようになった
やっぱりいつも顔をペロペロなめてくるから
ペロって名前をつけた
あまりにもペロペロするから
可笑しくなって
僕は笑った
ペロも笑ってるように見えた

ペロのご飯がなくなると
おとうさんとおかあさんにペロと手紙を書いた

ごはんがなくなりました。おねがいします。
りょうくんにじてんしゃもおねがいします。
そうすればおかあさんたちにめいわくをかけることなく
ぼくのごはんをりょうくんがかいにいけるようになります。
ペロより

僕の名前はりょうと言うんだけど
こんな風にうまくおねだりすると
お父さんとお母さんは笑ってくれて、
買ってくれた
「ペロより」って力はすごかった

幼稚園の同級生が
見に来たりするようになった
おそるおそる玄関から顔を覗かせ
ペロが走ってくると
みんな声をあげて逃げていく

逃げていくみんなは笑ってて
それを見て僕も笑ってた

いつの間にか友達が出来て
幼稚園から帰ってくると
ペロを連れて一緒に
遊んだ

おばあちゃんが折り紙を誘ってきても断るのは少し胸が苦しかったけれど

小学生になって
年中さんになる頃
ペロはあまり走らなくなった
お父さんに聞いたら
ペロはもうけっこう大人なんだって
大人のくせに顔をペロペロなめてくるのが可笑しくて
僕はまたギュってした
ペロはあたたかかった
ペロは笑ってるような気がした

だんだんペロが動かなくなって
僕は一人で友達と遊びにいくようになった
帰って来たらペロがいるし
それでよかった

ペロは顔をなめなくなった
怒ってるのかなって思って
なでたりすると
僕の指をなめて
甘い声を出すから
すねてるわけじゃなかった



ある日
学校から帰ってくると
お母さんが泣いてた

ペロが動かなくなったって


その日のことはよく覚えてないけど
お父さんもお母さんもなんだか忙しそうだった

ペロはいなくなった

僕は遊びに行かなくなった

友達が誘いに来てくれたみたいだけど
部屋から出なかった

僕は折り紙をするようになった

鶴を沢山折った

おばあちゃんが千羽折ったら願いが叶うって
いつか言ってた

折るたびに羽に手紙も書いた

早く元気なってね
また外で遊ぼうね
たくさん走ろう
皆で一緒に遊ぼう
お父さんもお母さんも悲しそうだから
お風呂に入ろう
綺麗になって
いっぱいご飯食べて
いっぱい笑ってね
大好きだよ


最後の一羽

僕はなぜか

「ペロより」
って書いた

鶴の羽に書いた手紙を読み返した

早く元気なってね
また外で遊ぼうね
たくさん走ろう
皆で一緒に遊ぼう
お父さんもお母さんも悲しそうだから
お風呂に入ろう
綺麗になって
いっぱいご飯食べて
いっぱい笑ってね
大好きだよ

ペロより

ペロが僕にくれた手紙みたいになった

僕は涙を拭いて
立ち上がり部屋を出た

もしも、貴方が幸せになれたら。美味しいコーヒー飲ませて貰うよ。ブラックのアイスをね。