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鏡餅と風の時代

 意味を知ると、どきどきすることがある。それまでぼんやり見えていたものが突然しゃんっとした輪郭と色彩を帯び身体に飛び込んでくる。そういったことに出くわすたび、歳を重ねる喜びを感じ、生きる味わいが深くなる気がする。人生がまた面白くなる。
 
 今まで年末の大掃除は、その一年間過ごさせて貰った住処への感謝位のものだと思っていた。
 だけど、それだけではないことを知った。
 大掃除とは、まもなく迎える新年の神様、年神さんを迎える準備だということ。
 年神さんは、汚れを落としたお家にやってくる。大掃除をして、しめ縄を飾ることで、「年神さん、この家綺麗ですよ」って合図になる。年神さんは尖ったものに舞い降りるから、門松を置く。その後、お家の中に入ってきて、鏡餅にくっつく。それを一月十一日に食べることで、ありがたく年神さんを身体に取り込むという、簡単に言うとこんな流れ。(教えて貰ったものがこれなのでひょっとしたら諸説あるかもしれませんが。)
 これを聞いたとき、たちまち大掃除がしたくなり、しめ縄と門松と鏡餅を買いに行きたくなった。
今まで、ほとんど何もしていなかった正月の迎え方が今年は豹変した。世界はコロナで、そのせいかそのおかげか、芸人になって初めてゆっくりの大晦日を過ごす事ができた。存分に日本の文化を踏襲させてもらった。お墓参りや寺社仏閣が好きなのか、こういった事がどんどん好きになっていく。
 
 大袈裟かもしれないけれど、「早くおいで、こんなんもええよ」って待ってくれていたご先祖さんの横一列の並びに参加出来た気がする。文化や伝統を知るのは、ゲームをクリアするように、次々に出てくる課題表があって、穴の空いた僕の型にパチンパチンと自分をはめていく感じ。一生を通して日本人を学んでいく感覚。
 
 思い返せば、文化もクソもない事だけど、自分のお金で市民税や携帯料金を払い始めた頃もこんな感覚になった。コンビニで公共料金を払い込んだ日は身体が軽くなった。なにかいいことをしたような気持ちになって、ドラッグストアに立ち寄り、必要のない洗剤を買って帰ったりした。このまま僕は汚れのない人間になるんじゃないかなって思えた。結局、その気持ちはすぐに歪み、良いことをした気になり、今なら勝てる気がしてすぐにパチンコに行った。結果、負けて借金が増えて又汚れた気になった。とんでもない後悔を両手両足で引きずりやっとの思いで帰る頃には、洗剤を開ける力など残ってはいなかった。

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