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FC物語(5)場の構成要素


基本方針は、行動しながら考える

明確なイメージがない中で始めたフューチャーセンターなので、詳細は基本的に行動しながら考えました。とりあえずやってみる→振り返って改善する→やってみる→改善する・・・のループをぐるぐる回しました。

軽食の提供

「来てほしい人」を考えると、社会人が仕事が終わってから参加できる時間帯での開催にする必要があると考えました。ただ夕方はお腹がすきますし、お腹が空いているときにいい議論はできません。なのでサンドイッチを地元の商店街で購入して出すようにしました。18時に開場し、来た人には食事をしながら18:30の本編スタートまでお待ちいただくという形にしましたが、一緒に食事をすると場が和むのでちょうどいいアイスブレイクになることが分かりました。(ちなみに、数年後にゼミ生が「軽食がワークショップに与える影響」をテーマに卒論を書きました)

参加費

最初は軽食代は私が負担して参加費無料でやっていましたが、しばらくすると社会人参加者から、「軽食を出してもらうのにお金を払わないのは却って参加しづらい」「参加費をとってくれたほうがありがたい」という声が上がるようになりまして、軽食代をいただくことにしました。ただ学生が参加しやすいよう、収入差のある学生と社会人で傾斜配分をする共済型です。ここで金銭的に自立するしくみになったことで、運営もぐっと楽になりました。また参加費をとるようになったことで、ひやかしのような参加者が来なくなり、結果的によい場がつくりやすくなりました。また軽食調達係を担う学生はその労働の対価として参加費を免除するというルールを採用したため、学生にとってのインセンティブにもなりました。

食事の準備。

規模(定員)

部屋のキャパシティ的に上限は20人なので、定員20人とし、超えると参加受付をストップします。初期はfacebookのKOKULABOグループで開催通知を出し、参加申込みを受け付けていました。食事の準備のために参加人数を事前に把握することを目的としていたのですが、事前に誰が参加するかが分かると運営が楽になるだけでなく、さらに参加を促進するという効果もありました。そしてこのグループをつくったあたりから、「KOKULABO」という概念が生まれました。直接的には国保ゼミの学生とそれを取り巻く社会人のバーチャルコミュニティなんですが、「教育現場と社会との溝を埋めるために学生と地域の社会人が交わる場所」として定義しています。

ただ20人はマックスで入れる人数という感じで、物理的に快適なのは楕円テーブルを一列で囲める12名くらいだと感じています。

これくらいが適性規模(2012/05/07)

タイムスケジュール

ところで、全体のタイムスケジュールの構成はフューチャーセンターが始まってもなかなか決まらず、ここが決まってないためにグダグダになるということがしばらく続きました。国保ゼミのフューチャーセンターは学生がファシリテーターを担っており、必然的にプロの場づくりスキルには及びません。ファシリテーターが不慣れで、タイムスケジュールも定型がない、参加者やテーマは当日にならないと分からない、というように不確定要素が多いとカオスになるということが分かりましたので、テンプレート化できるところはテンプレ化したほうがいいと思い、タイムスケジュールは型を決めることにしました。コレに限らず、実は枠があるほうが運用そのものの自由度はあがるしクリエイティビティも高くなりますね。

基本は現在は以下のような流れです。
 18:00 開場、受付。来た人から軽食を食べながら寛いでもらう
 18:30 開始。自己紹介でアイスブレイク
 19:00-21:00 ワークショップ(1テーマにつき20-30分程度×3,4テーマ)
 21:00-21:15 参加者同士で気づいたことをシェア

わりと大事なのは、最後に気づきをシェアするところです。ワークショップ技法では「チェックアウト」とも呼ばれるものですが、これによって参加者はこの日の経験を俯瞰し、自分の中で意味づけることが可能になります。30分程度のディスカッションでは結論が出ない(=満足感を得られにくい)ことも多いのですが、全体を経験として俯瞰するとスッキリして満足感にもつながるようです。

また、ワークショップの部分では、GEさんに伝授してもらったGE式問題解決技法や、ブレインストーミングでのアイデア出し、慶應SDMで学んだデザイン思考などから、テーマによって使い分けています。ただワークショップをちゃんと作り込もうとすると、アジェンダオーナーとの事前打ち合わせをしたりワークショップデザインをしてリハをするなど、準備の負担がかかります。これは学生にとっては顧客の真のニーズをくみ取って実現するトレーニングになるのですが、一方で学生の中に「ちゃんとやらなくては」という気持ちが強くなり真面目な学生ほど負担感が大きくなります。なのでどうしてもワークショップデザインが必要なとき以外は、敢えて事前準備はせずに挑んだほうがいい場になるように思っています。

学生ファシリテーターの効果

ところで、一般的なフューチャーセッションでは、プロのファシリテーターが進行を担っていますが、国保ゼミのフューチャーセンターでは学生がファシリテーターをしています。私がいないと回らないフューチャーセンターを創りたくなかったので、学生に任せると決めました。最初はかなり拙い進行で参加者に満足してもらえるものになるのかどうかハラハラしましたが、回を重ねるごとに周りのやり方を見て覚えるのか腕が上がっていきましたし、想定外の学生ファシリテーターならではのメリットもたくさんありました。

例えば学生が運営を担っていると気が回らないところも多々あるのですが、参加者の社会人側も学生ファシリテーターに隙のない運営は期待はしません。その結果、ホスト/ゲストという区別がなくなり、参加者同士が「至らないところがあっても皆でカバーしよう」という雰囲気が生まれやすく、皆が主体性を持ち始め、とてもいい雰囲気になるという効果がありました。プロのファシリテーターが相手だと、参加者がお客さん意識を持ち、サービスを「与える人」と「受ける人」という構図ができてしまう場合があります。これが、国保ゼミのフューチャーセンターの場合、参加者が当事者意識を持っているので、ファシリテーターがつたなくても参加者の誰かが助けてくれる(笑)。これは学生にしかできない場作りだと思います。

面白いのは、ファシリテーターが完璧でないからこそ、その場に「あなたも完璧でなくてもいいんだよ」というメッセージが生まれ、それが安心感に繋がるのか「居心地がいい」「発言しやすい」という感想を、よくいただきました。フューチャーセンターの情報発信をしているFuture Center News Japanに取材いただいた際も、居心地の良さがフォーカスされました。

活発なディスカッションのためには、ゼロベース思考と上下関係のないコミュニケーションが大事だと思っているのですが、これが実務と組織の経験がない学生がいることで実現しやすくなるというのは私にとっても大きな発見でした。人は搾取する意図がないと感じる相手を信頼する傾向がありますが、学生や大学という場は利害関係を感じさせにくいため、信頼関係を構築しやすいようです。その信頼関係の上で行われることで、ディスカッションは本質的でクリエイティブなものになります。例えば地元の海苔メーカーさんの依頼で海苔の新商品開発のためのブレインストーミングをフューチャーセンターで実施したのですが、ひとり10~20個のアイデアを出していました。このあたりは以下の寄稿にまとめています。

海苔の商品開発ブレスト(2012/2/13)

未来を可視化する

ところでもう1つの学生のとても大きな役割は、「未来を可視化する」です。人間は、これからの未来を生きる存在を目の前にすると、それを無視した意思決定はなかなかしにくいようで、学生がいるとおのずと未来思考になります。加えて、基本的にプロジェクト遂行上の課題を議論するので、一歩間違えるとすごくマイナス思考な場所になってしまうのですが、現実を知らないがゆえに将来に対して基本的にポジティブな学生のコメントは、周りの社会人にもポジティブ思考を伝染させるため、結果的に前向きな場となります(ただし未経験であることを責める人がいると学生が委縮してしまってこの効果は出ません)。この雰囲気づくりはとても影響が大きく、国保ゼミのフューチャーセンターでも学生が少なすぎる日はあまり前向きな議論にならなかったりします。

なお未来を可視化するしくみとしては、参加者のマジョリティより未来の可能性が大きい存在であれば学生じゃなくともいいと思います。ある人にエネルギー問題をディスカッションするために地域の人が集うフューチャーセンターを作りたいという相談をされたときには、子どもの遊び場を真ん中に作ったらいいんじゃないかと提案しました。ディスカッションの最中に未来を生きる人が視界に入る、ということが大事だと思っています。

なお、これらの場の運営方法の具体的な作りこみは漠然とやったわけではなく、フューチャーセンターの立ち上げとほぼ同時期に産まれた1つのプロジェクト(茶の和プロジェクト)を中心に据えて、「このプロジェクトにとって使いやすい場の要件」をフューチャーセンターとして作りこんでいった結果です。具体的なパイロットプロジェクトを持ったことで、漠然としていたフューチャーセンターの必要要件を具体化することができました。なので、これからフューチャーセンターの立ち上げを考えている人は、こういうパイロットプロジェクトを設定するといいのではないかと思います。

目次
(1)立ち上げたきっかけ
(2)立ち上げ前にやったこと
(3)立ち上げ初期に大変だったこと 
(4)実践を通じて分かったこと
(5)場の構成要素
(6)数年後に考えたこと  ←次はこれ
(7)プロジェクトの具体例
(8)コロナ後の大学生の状況

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