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中小企業診断士と再生支援

今回の記載目的

今回の記事を書くのは以下の金融庁からの発表を見たからです。

中小企業診断士として11年間仕事をしている中で、これまで80件程度の再生支援に携わっています。多分、多い方だと思います。

色々な記事を書いている自分の紹介としても、他の診断士にも再生支援の意義などについて知ってもらうために、再生支援についての考え方をどこかで書きたいとは思っていたのですが、このタイミングかなと思って、記載しています。(ちょっと内容がいつもより難しいです)

今後の日本で再生支援が今まで以上に重要になってくるのは間違いないですし、診断士が最も力を発揮できる場所だと思っています。

もし、この記事を経営が苦しい状況で見つけた経営者の方がいらっしゃれば、近くの診断士に相談をすれば、少しでも状況改善のきっかけになるかもしれません。もちろん、私に直接ご連絡を頂いても大丈夫です。(一番下に問い合わせ先のリンクを貼っています)

この記事ではテクニカル面の話を記載することはありません。仮に記事を書くとしたら「紙の余白がない」訳ではありませんが、他にたくさんいい資料がありますから。

ちなみに再生支援に関する基本にして究極の資料は間違いなく「実践的中小企業再生論」です。

そもそも再生支援とは

再生支援というのは「法的再生」と「私的再生」があります。本記事では私的再生のみについて記載をしたいと思っています。

再生支援の定義としては色々とありますが、「再生支援+定義」で検索した時にWEBページの上部に出てくるのは以下の内容です。

業績不振による赤字続きで借入金が増加し、金融機関等からの追加融資を受けられず、資金繰りができなくなった企業は、事業継続が困難な状況になります。その企業が行う事業に市場性やブランド価値がある場合、そのまま倒産してしまうのはもったいないことです。

企業に再建できる見込みがある場合、事業再生を行うことで、倒産を免れることが可能になります。事業再生を行うためには資金調達が必要になりますが、それを助ける制度として「事業再生支援制度」があります。

J-Net21の記事「自称再生支援制度」より抜粋

ただ、現実的には資金繰りが厳しい状況となった企業がリスケをするとなった時に、金融機関から経営計画を提示を求められて初めて、再生支援の話がでてくるのが一般的です。

会社として、誰からも文句が出ない経営計画を作って、金融機関とやり取りをできればいいのですが、現実的には難しいです。

再生支援の公的な枠組み

公的な再生支援の枠組みとしては「中小企業活性化協議会(旧:再生支援協議会)」というのが、一番使われています。

中小企業活性化協議会とは?

中小企業の活性化を支援する「公的機関」としてすべての都道府県に設置されており、全国各地の商工会議所等が運営しています。 中小企業活性化協議会は、地域のハブとなり、金融機関・民間専門家・各種支援機関と連携し、「地域全体での収益力改善・経営改善・事業再生・再チャレンジの最大化」を追求します。

https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/saisei/index.html

他にもREVIC(株式会社地域経済活性化支援機構)もありますが、規模が大きい先ですし、私自身が関係したことがないので、今回は触れません。

今回の金融庁の記事では「信用保証協会の支援の強化」という内容もあります。10年ほど前から経営支援をされていて、広義の再生支援をされていましたが、状況も待ったなしになって、これまで以上に取り組みを進められるんだと思います。

また、ネット上では活性化協議会(旧:再生支援協議会)を使うなというような記事もありますが、的外れの内容が多いです。困った状態であればまずは各都道府県にある活性化協議会に相談するのが一番いいと思います。

中小企業活性化協議会でのフィルタリングがあるので、全て取り上げられるわけではないですが、中小企業活性化協議会が関与すれば、再生できる可能性は通常よりは間違いなく高いです。

再生支援の必要性・意義

再生支援の必要性・意義は色々とありますが、潰すのではなく、再生をすることで、「雇用の維持・確保効果がある」「高い技術力を残す」というところが意義の一つになっています。

ただ、再生支援の必要性については色々と言われる部分もあります。

特に話題となるのは「ゾンビ企業」に対しての話だと思います。再生フェーズに至っている企業は投資もできず一般的に「ゾンビ企業」と呼ばれる状況の場合が多いです。(私はこの呼び方は失礼だと思っていますが。)

公的な制度を使用した再生支援は税金を使用しています。
税金を「ゾンビ企業」に使用するのはおかしいという話があります。特にイノベーション研究社やベンチャー企業のコメンテーターがその先鋒です。

実際に私自身も過去には再生支援の仕事の意義について悩んだりしたこともあります。

  • 雇用の維持といっても、現在の日本は人手不足なので、会社が潰れても転職は容易になっている。

  • 技術力も残すだけの高い価値があれば、潰れることはない

悩んだ結論としては「星を投げる人(元ネタ:ローレン・アイズリー氏)」になろうという結論に至りました。
実際に再生支援には価値があることは間違いないと考えていますし。

単純に、金融機関のリスケをして、再生支援に至るような企業には少なくとも金融機関がお金を貸し出すだけの企業としての魅力はあるんです。沢山の取引先を持っていたり、人員・設備もあるので、一から事業を作るよりは圧倒的に早いです。

私が関与した企業でも企業としての傷み方、債務超過の度合いにもよりますけれど、やり方を変えれば高い確率で復活しています。

復活すれば延納している社会保険料の支払いをできたり、法人税の支払いもできるようになります。金融機関の返済もできるので、社会に対しては確実にプラスになります。

効率性でも、費用対効果でも悪くはない税金投下の事業だと考えています。

再生支援をしないと金融危機・経済崩壊

保証制度の危機

今回の記事ではそこまで記載はされていませんが、再生支援をしないと、金融危機・経済システムの崩壊になる可能性があるというのが大きな問題としてあります。

日経新聞の記事にもなっていましたが、保証融資の金額が37兆円と非常に大きくなっています。

信用保証協会付融資は全国の保証協会が保証していて、もし倒産した場合には保証協会が金融機関に対して、代位弁済をすることになります。

保証協会は再保険の制度を使っているので、最終的には日本政策金融公庫に負担が行くことになります。
結局、国・都道府県の税金で損失を補填することになります。

37兆円の融資の全額が焦げ付くことはないでしょうが、かつてないほど厳しい状況であることは間違いないと思っています。
10%焦げ付いたら3兆円ですし。
(そんなひどいことにはならないと思いますが・・・)

もし、焦げ付きが大きくなった場合に想像できるのはマスコミが保証制度を叩くことです。「損失が出る保証制度などやめてしまえ」という風な安直な考えを発言する未来が想像できます。

保証制度が無くなったら

ただ、保証制度が無くなったら、中小企業金融はほぼ崩れてしまいます。

現状の金融機関は協会付融資でなければ、貸し出しなんかほとんどしません。不動産担保のプロパーはありますが、それはまた別の話。

事業性融資を進めるように金融庁は言っていますが、金利も低く、リスクを取れないビジネスモデルで、実際のところは難しいです。

保証制度が壊れてしまったら、創業時、規模の拡大時にまともに融資をできるのは日本政策金融公庫だけになってしまいます。民間の金融機関はリスクを取れませんから。

そうなると新しい企業も出てきませんし、既存企業に対しても折り返し融資が無くなって、結果としての貸しはがしが恐ろしい速度で進んでいきます。多くの会社で資金繰りが持たなくなり、結局、会社が潰れて経済が崩壊します。

再生支援の担い手は?

これまで記載してきた通り、再生できれば国にも、社会にもプラスになるのは間違いないです。

ただ、再生支援は企業の業績を改善させるしかないので、経営を改善させるための能力が重要になります。もちろん、金融調整のための知識・見識も非常に重要になるのですが。

再生支援に必要な能力を備えているのは中小企業診断士だと考えています。特に再生が必要な企業において問題となっているマーケティング、人事、業務プロセス改善ができる専門家は他にいません。

弁護士さんや会計士さんとも再生支援のお仕事をしており、尊敬している方も多いのですが、傾向的には他の士業は向いていません。

弁護士さん:再生よりは法的整理に持っていきたい人が多いので、処理のスピードは上がりますが、国の負担が減ることはありません。

税理士さん:基本的に税務なので、経営改善については得意ではありません。税理士試験でも経営改善の項目はありませんし。

会計士さん:財務DDで監査能力は高いですが、コストカット中心になってしまうので、余力のない会社だと対応は難しいです。そもそも、会計士さんは足りていないですし。

診断士が一番素養はあると思いますが、ただ、教育する仕組みがないので、今のところできる人が限られてしまうというのが現状です。なので再生支援の担い手ができる診断士は足りていないと私は考えています。

結局、診断士ではなく、コンサルファームが再生支援を沢山やっているのも、組織として教育・フォローする仕組みがあるからなんだろうと思っています。コンサルファームさんは値段がかなり高いですけど・・・(大体5倍~10倍のイメージですね。)

まとめ

再生支援に興味を持っている診断士の人はたくさんいますし、実際に一度はやったことはあるけど・・・という人が多いですが、継続してやっている人は一握りです。

再生支援をできる人を増やすのが、国のためにもなるし、「診断士の社会的地位の向上」に繋がると考えているので、何とかできないかなと思っています。

ただ、やっぱり再生支援の案件を専門にするのは大変なんですよね。会社の生きるか死ぬかの話なので、プレッシャー・ストレスは大きいですし、受注も安定していないですし。まぁ、仕事関係の詳細はまたの機会に。

企業さんで本当に困っていて、相談したいという場合は以下からどうぞ。手一杯なので、私自身で支援するのは難しいかもしれませんが、どこに相談したらいいかぐらいの話はできると思います。

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