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徒然トマトジュース

お取り寄せしたトマトジュースの不在票がポストに入っていた。
見た瞬間、このトマトジュースのどえりゃ旨〜な記憶が脳裏をかすめた。ゴクリ。

あれは去年の夏の日の事だった。美味しかった、早く飲みたい。

私はトマトジュースが大好きだ。子供の頃好きな食べ物は?と聞かれると、迷わずトマトジュースと答えていた。好きなアイス買ってあげると言われてもトマトジュース!誕生日プレゼント何がほしい?と聞かれてもトマトジュース!と答えていた記憶がある。

トマトジュースの種類も今程豊富ではなく、なじみのトマトジュースだったらどこのメーカーのものか言い当てる事もできた。

レモンや胡椒を入れて通な味を試したり、缶の内側についた残りの一滴まで余す事なく飲みきるよう口につけたままつづみのように叩いたり、トマトジュースへの敬愛の念には落ち度がなかった気がする。

他にも、うどんやイカ、水羊羹や梅といった好物もあったけれど、やはり最終的に行き着くところはトマトジュース。トマトジュースをお風呂位飲みたいと豪語していた。ひょっとするとあの頃の私はトマトジュースだったのかもしれない。それくらい大好きだった。

不在票の翌朝、出勤前に郵便局の窓口に向かった。受付をすませ、お姉さんの姿がすっかり隠れてしまう3段重ねの箱が出てきた。

これが再配達を待てずに窓口受取を選択した私のトマトジュースか。箱の向こうから「重いですよ。」と言われてかくれんぼの気分になった。( おーもいよ♪ まーだだよ♪ )私の胸は高鳴った。

「お、、おもい…!」

窓口受取を選択したトマトジュースは、箱に190グラム30缶と目立つように記載があった。駐車場まで下ろすことなく、あと少しあと少しと自分を奮い立たせてこの重い塊を運ぶ土壇場で、突如、暗算の神が降臨し、190g×30本×3箱=19カケル90!イコール!17.1!17.1キロ!!重っ!と計算できてしまった。

17.1キロ…  

私は腰をいためた。

職業柄、腰痛とはいつも隣り合わせにいたけれど、今の店になってからは社長様が即決で選んでくれた座ってできるシャンプー台のおかげで無縁だった。腰痛の大敵の冷えにも細心の注意を払っていた。

にもかかわらず、90缶17.1キロのトマトジュースを、再配達ではなく窓口受取を選択したが為に、不覚にも私は腰をいためた。

悲願成就のトマトジュースはどんな味だっただろう。

5ヶ月越しに飲んだそれはとてもしょっぱかった。喜び勇んで飲んだ1本目、なんか違うともう一度確かめるべく飲んだ2本目、その日パーマに来た友達に畳みかけるように与えた3本目。トマトジュースというよりも、もはやこのしょっぱさはもう少しでソースだ。

今、店のバックルームには、トマトジュース87本が3段ベットに寝ている。

「誰か飲んでみたい者はおらぬかー!」

徒然なるままに、スマホに向かいて、心にうつりゆくトマトジュースごとをそこはかとなく打ちまくってしまった。どんな日常にも面白くできる一コマがあると思いたい。そんな視点にフォーカスできる穏やかな1年を送れたら。

今年もよろしくお願いします。


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