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綿布団万歳


ちょっと前に新しい掛布団を買った。それまではいつ買ったのかもわからない得体の知れない布団で寝ていた。

冬はずっと寒かった。真冬の寝巻はタンクトップとTシャツの上にパジャマを着て、更にスウェット、頭には目出し帽を装着して完全防備で寝ていた。

うちはどっかの子豚みたいに藁の家ではないけれど、私から漂うそこはかとない貧乏感は、ズタボロの布団と共に歩んできた人生だったからなのかもしれない。

単純に布団を買う機会も無かった。布団に替えの周期なんて決まっていないし、ワールドカップみたいになんとなく感じる気配もない。

加えて、たとえば洋服や食べ物は雑誌やテレビで興味がある物を見つければ、あれ欲しいこれ食べたいとすぐに興味がわく。街を歩いていて美味しい匂いがすれば「食べたい!」と直ぐなびくし、街行く人がかわいいバッグをさげていたら「私も欲しい!」とインプットされる。

しかし、布団というのは、「なんか今日無性に布団買いたくなってきたわー」とはならないし「あの人がかわいいのは布団がいいからに違いない」ともならない。

布団の奴の事なんて、その良さや重要性をどこかで見出さなければ、日常的には欲しい物として浮上しないだろう。

人生90年、1日睡眠8時間として、一生のうち30年は寝ている事になるのに、どうして着目できなかったのだろう。こんなに有意義でこんなに快適になる事に。

20代の頃、給料の大半を着飾る物につぎ込んで、うつつを抜かしていた自分に立ちはだかって声高に叫びたい。「良い布団こそが人生!」と。

街中にある昔ながらの布団屋さんを教えてもらった。軽い羽毛布団よりも、時代とは逆行した綿の重い布団が欲しかった。少し前にそういう布団で寝る機会が続けてあって、寝付きがたいへんによく、たいへんに爆睡してたいへんに良かったからだ。

布団屋さんの奥さんに、今どきは多くの人が羽毛布団にするから、綿の布団をお求めなんて珍しいですねと言われた。重いけど大丈夫?と何回も聞かれたので、重いのが欲しいですと何回も答えた。
3キロ位ありますよと言われたけれど、猫より軽いじゃんと思いながら気持ちよく買った。

その日はよく晴れていて、まだ午前だったので買ってきたばかりの掛布団をお日様にあてた。新鮮な空気を吸い込んでフカフカになった布団を取り込んで、私の寝床が完璧な冬モードへと進化を遂げた。
試しに、潜ってみようそうしよう♪と思って目を閉じると、目覚めた時はうっかり夕方だった。

毎晩、就寝時間が待ち遠しくなった。ずっしりと重しみたいな綿布団は、漬物の気分も味わえる。寒い冬にお風呂に浸かって、はあ〜極楽極楽…と思わず声が出てしまうように、くるまれている時間は至福の時だ。

今夜も夢追いかけて8時間の旅に出よう。

新年のあいさつは布団の中から。あなたの今年のラッキーアイテムは布団です。

今年もよろしくお願いします。

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