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大切な人との関係に値段をつけるとしたら

 川上未映子先生の作品は、中学生の時に「乳と卵」を読んだぶりだった。
 大学生の時に人から薦められて「ヘヴン」を読もうとしたけど、内容の重さに耐えきれず、序盤で脱落してしまっていた。

 「黄色い家」もまた、なかなかベビーな話だった。というか、心理描写や情景描写が、ここまで書くかってくらい生々しくて、それが余計に重みを増しているように思う。一気に読み進めるのはしんどくて、中盤で一回休憩を挟んで別の本を読んでから、意を決して最後まで読んだ。

 テレビのインタビューで、川上先生は「青春物語を書きたかった」と仰っていた。それを踏まえた上で読むのとそうでないのとでは、見方がだいぶちがってくる気がする。
 終盤で、桃子が逃げようとして四人がもみくちゃになる場面があるけど、普通に読んだらそこにはただの暴力しかなく、目を逸らしたくなるような悲惨さしか感じなかっただろう。
 だけど、"青春"という観点で見てみると、彼女たちの絆とか悩みとか息苦しさといった、瑞々しい生命力の集大成のように感じられて、ついつい応援してしまいたくなるくらい切なくなった。

 花は結局、他人を金で繋ぎ止めようとする癖みたいなものがあって、映水さんと黄美子さんとの最後の会話から、それは今も残ったままなのだと察することができた。でも、誰か困っている人を本気で救いたいと願った時、金ほど簡潔でまちがいないものはないだろう。

 ただの推察になるけど、花がこれまで盗まれたりあげたりした金の額は、そこで失った他人との関係性の大きさを表しているんじゃないかと思う。
 トロスケに盗まれた金が約70万円。これがきっかけで、花は母親への信頼を失くすことになる。
 母親から懇願されて渡した金が200万円。これでほとんど完全に、親子の縁は切れてしまったように思う。
 桃子のパー券が50万円。このあたりから、花は仲間を支配するようになる。
 そして、黄美子さんに残した金が400万円。
 (ついでに、同居していた女性が持ち逃げした金が3万円)
 それぞれの金額の大きさと、失った関係性の重要さが、比例してるように思える。もしこの見立てが正しかったとすると、ラストで映水さんと黄美子さんが花の施しを断るのが、人との関係は金で買うことはできないということを表しているのかも。

 いろいろな見方、考え方ができる小説は、やっぱり素晴らしいなと改めて思う。この「黄色い家」という小説を、私はこの先何度も読み返すことになるだろう。

 「ヘヴン」にリベンジしようかな……

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