【短編小説】落雷
ついに落ちた。
さっきから腹の虫のような唸り声が響いていて、それはこの町一帯の寝室を一つ一つ揺さぶりながら少しずつ移動していた。時折、気まぐれにその触手を地上に下ろしては、鋭い光と轟音を放った。
わたしはパイルが伸びきったくたくたのタオルケットの下で膝を抱えながら、自尊心の膨れた生き物のごとく傍若無人に振る舞うそれに耳を澄ましていた。
一方で、わたしの体はすっかり怯えてしまい、心臓が早く、強く、鳴っている。薄目を開けて、青白い光が透けるカーテンを見つめながら、他人事みたいにそのリズムを感じた。
そうしていると、突然、凄まじい音がうねりながら降ってきた。それからすぐ、バリバリと何かが割れるか裂けるかする音も。
歪な円形をしたこのマンションの真ん中にそびえる針葉樹、まるでわたしたち住人の方が守っているかのようなただ一本の樹、きっとそこに落ちたのだろう。
あの窓を開けると、廊下の向こうにその先端が見える。雷に打たれた樹がどんな姿になるのか知らないけど、たぶんすべての葉が消し炭となり、太くて真っ直ぐ伸びた幹も斧で割られたように真っ二つ、そしてぐにゃりと地面に手を着くのだ。
教室で上手く笑えないこと、部活に行こうとすると胃が悲鳴を上げること、なのに景色は変わらず瑞々しいこと、浅い絶望がどこまでも果てしなく広がっていること。
どろりと重い陰がどんどん体の底に溜まって、なにもかも壊して台無しにしてやりたいのに、自分の手では触れることすらできないでいた。
だけど、いま、ようやく。
遠くでサイレンの音がする。空耳かもしれない。どっちにしても、わたしはここで眠りたい。平凡な日常の切れ間に、深い呼吸と共に沈んでいく。
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