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ブコパイはどこへ行った? 香りと味とわたしの記憶

つい先日、とても思い出ぶかい場所を訪ねた。初めてフィリピンに来た27年ほど前に、友人たちと泊まったマニラのホテルだ。

ホテルといっても豪華なところではない。マニラ湾の近くにある、ベッドが並ぶだけの簡素な宿だった。

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女性の大学生8人ほどのスタディーツアーで、路上で働く子どもたちとかかわる団体にお話を聞いたり、ゴミの山を訪ねたり。海沿いの小屋に住む家庭に1日泊めていただいたり。

「どこに住んでいるの?」「あっち」。

ゴミ捨て場で会った女の子にタガログ語が通じたこと。水浴びをして身なりをととのえ、流行歌を聴く子どもたちを見て、「スラム」と呼ばれようと、そこに普通の暮らしがあるんだという、当然のことに気づいたことなど。ありがたい経験ばかりさせていただいた。

消えたカラマンシージュース

ある意味、フィリピンの「陰」の部分を目のあたりにするハードな旅だったから、私たちは疲れで次々に熱を出したり、おなかをこわしたりもした。

そんな中でほっとするのが、この宿の中庭で、つめたい飲み物をいただくときだった。

そのとき初めて飲んだのが、小さなかんきつをしぼって甘くした、カラマンシージュースだ。レモンほどとがっておらず、みかんともちょっと違う、沖縄のシークワーサーに似たカラマンシー(写真)のさわやかーな香り。

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路上でよく売られていたサンパギータの花の香りとともに、私の中のマニラの印象にずっとひもづけられてきた。

もう一つの飲み物は、黄色いマンゴーや、ちょっと酸っぱい青いマンゴーを氷とミキサーにかけたシェイク。うるさい女子学生みんなで「何これ!おいしい!ぎゃー」とかいいながら毎日のように飲んだ。

ホテルを再訪した大きい理由は、これらのジュースをまた飲みたかったからだ。

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フィリピンに3カ月以上住んで、ずっと「カラマンシージュースはどこにいったの?」と思っていた。どこにでもある飲み物だったのに、カフェやレストランでもあまり見ない。

カラマンシーはフィリピンの料理に欠かせない食材で、市場にもスーパーにも必ず売っている。カラマンシージュースも濃縮液や缶ジュースは見る。

スタバのフラペチーノやタピオカミルクティーなど、お店でしか飲めないおいしいものがどんどん登場する中で、「カラマンシージュース?そんなものは家で飲みなはれ」となっていったのかな、と想像する。超シンプルだから。

と思っていたら、アイスティーのお店で「カラマンシー」と書いた看板を見つけた!

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お茶とカラマンシーはとてもよく合う。でもよくみると、真ん中に写っているのは「カラマンシーヤクルト」だ。カラマンシージュースも新時代になったんだ。

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ホテルを訪ねると、ご主人に「前にも来たことがあるね、覚えてるよ」と言われてびっくりした。でも喫茶メニューを見ても、カラマンシージュースもマンゴーシェイクも見つからなかった。

「生のジュースね。実は、コロナでお客さんが減って、大変なのでいったん提供をやめたんです。また再開したいと思っているんですよ」と、女性の従業員さんが教えてくれた。

この2年いろんなことがあったんだろう。

ブコパイはどこに?

身近な食べ物や飲み物は、どんどん変わっていくものだ。

実はフィリピンでもう一つ、「どこいった?」と気になっていた食べ物があった。ブコパイだ。

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ブコとはココナツのこと。実の中のジュースは体によい飲み物で、内側にある白い果肉は、柔らかく、こりこりとした歯触りもあってとってもおいしい。

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ブコパイは、この白い果肉とカスタードクリームを重ねて焼いたパイのことだ。

学生時代、ホームステイ先の近くにおいしいブコパイのお店があり、しょっちゅう食べていたから、余計にいま「ない」ように見えるのかも。小さいパイはモールなどで見かけることもある。

知人に聞くと、「ブコパイはマニラよりもむしろ地方のほうが多いよ」という。

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マニラの南にある、カビテ州タガイタイという避暑地に連れて行ってもらったら、確かに、ブコパイ屋さんがたくさん並んでいた。

ブコパイは大きな箱入りで、どっしりしている。お土産品としての機能があるのだろう。

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地元の人が一番おすすめというお店は売り切れ、2軒目は閉まっていて、3軒目でやっと売っているのを見つけた。ナッツやバナナチップスなどのお菓子と一緒に売られ、レジには行列ができていた。

一つ325ペソ(約813円)。一緒に旅をした人がお土産に買ってくださった。ホール丸ごと!まだほかほかしていて、あったかい。

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マニラの部屋に戻って、さっそく箱を開けた。一切れ切って食べると、おーいしーい。やっぱりブコの歯ごたえがたまらない。

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でも、2切れは一度に食べきれなかった。やっぱり甘い。むしょうに、コンソメスープとキムチが食べたい気分になってしまいました……。

フライパンで温め直して、その後もおいしくいただいている。

一人でホールはむちゃだったかな。でも、ブコパイがフィリピンにまだあってよかったよ~。

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