記事一覧
執筆後記 [短編小説] 『呪縛』を打ち破れ!について。
お付き合いいただきありがとうございました。
今回は『仮入部期間』という場面設定を決めてから書き始めました。書き進めていくうちに物語の輪郭がはっきりしていったのですが、自分の好きな『青春』要素に、最近ぼんやりと考えていたことを加えました。
『親の影響』についてです。
人と会話していると、「この人、話が通じないな」と思うことがあって、もどかしい気持ちになる時があります。
その話題の一つ
[短編小説]『呪縛』を打ち破れ!
「では、最後の質問です」と記者が言った。
「やっと終わりだ」、と苦行から解放されることに安堵した。記者というのは退屈で同じような質問を繰り返す。プロ野球選手になってから、思い知らされたことだ。
どうせ「今シーズンの抱負は?」とか「今年の目標は?」とか、そんなところだろう。端から用意していたコメントを頭の中で準備した。
しかし、目の前の記者は想定していた質問と違ったことを聞いてきた。
「江
執筆後記 『[短編小説] エイプリルフールは繰り返す』について。
今回も読んでいただき、ありがとうございました。
いつもとは趣向を変えて、サスペンスを書いてみました。それだけでなく、自分の好きな青春の分野を織り交ぜながら完成させました。
昔から、誰かの”特別”になるということは、椅子取りゲームで一つの椅子を取り合うようなかんじがしていました。
自分で音楽を止めるタイミングも、椅子を競う人数も決められないって、何だか納得いかないな、と。
そんな感覚を、
[短編小説]お別れセットアップ
「私が先輩のことを殺したんです」
私の告白が、体育館の空気を揺らした。
どうせ今日で会うのが最後だ。そんな気持ちがあった。ずっと抱えていたやり場のない憤りを、私は先輩にぶつけていた。
彼女はいつもどおりの笑顔で私を見つめ返してくる。
その余裕綽々とした様に、私の怒りの火花が、散った。
我がバレーボール部の朝練は自由参加と取り決められている。そのため、強豪校でもない平凡なうちの高校で、
執筆後記 『[短編小説]素顔うらはら。』について。
読んでいただきありがとうございました。
最初は叙述トリック的な小説を作ってみたい、と思い書きはじめたのですが、途中で、自分の思惑とはちがう方向に進んでいきました。
登場人物二人の境界線が曖昧になっていくのも、そのためです。
そういうエッセンスを交えつつ、登場人物二人の幸せを願いながら書いていきました。
書き進めていく中で書きたいものがカタチを作っていくのが、面白かったです。
”登場人物が動く”な
[短編小説] 素顔うらはら。
何かの夢を見ていた。それがどういう夢か思い出せないことはいつも通りだった。
まどろみの中で、寝ぼけながら枕に顔を押し付けると、鼻をくすぐる匂いが、自分のものと違っていることに気づいた。その瞬間、焦りとともに意識が覚醒した。見渡すとやっぱり私の部屋ではなかった。
次いで頭に鈍痛が広がっていき、私は思わずベッドの中でうずくまる。視界も思考も、自分の感覚全部がぐるぐるぐるぐるして気持ち悪い。
[短編小説]秋風の中のダンス。
「おーい!おつかれー!」
私が声を掛けても、美咲(みさき)は反応することなく鏡の中の自身の姿に集中して踊り続けていた。
”ザー‥タンタタタン。シャッ。ジャッジャッ‥”
スニーカーが地面のコンクリートを鳴らす音が空間に響く。止めるところは止める。リズムに乗るところは乗る。全身で”緩急”を操る美咲のダンスからは、いつも美咲自身の音楽が鳴っているのがわかる。
私は美咲の後ろに回り込んで、姿身代
[短編小説]屋上で同期とコーヒーを飲める時間。
腕時計を確認すると時刻は午後八時を回っていた。デスク作業で凝り固まった背中が痛い。疲労感を覚えながら、俺は会社の屋上に置かれたベンチに腰掛け、缶コーヒー片手に、建物が立ち並ぶ街の夜景を脱力して眺める。視界の左には高くそびえる小綺麗なマンションがあり、そのマンションの陰になっている右手には小汚いアパートが建っている。
俺はこの光景を見るたびに、「資本主義ってえげつねえな」と辟易するし、「もう少し
「十年後の九月に答え合わせしよう」(短編)
やはり、おかしい、と思った。
制服に着替えて、家を出て、最寄駅から電車に乗って、学校までの通学路を歩く。夏休み前まで当たり前のように出来ていたことが、自分の中で違和感となっていた。私と同じ制服姿の人間が学校に向かって歩いていくのを見ていると、まるで蟻が巣に帰る様のように見えて、気分が悪い。
私って、何のために学校に行ってたんだっけ?
いつもこなしていたルーティーンに疑問が生じてしまう。疑問
「何しに社会に出てきたの?」(短編小説)
一年程前のことだ。私はバイトを辞めた。辞めた理由は非常にシンプルで、人間関係に因るトラブルだ。私は店長ともパートのおばさんとも、相容れなかった。
店長は会社の常識こそがこの世の教典だと信じて疑わない、柔軟性に欠ける人間だった。始業時間の十分前に出勤することを強要してきた割には、終業時間はガバガバで当たり前のように残業させられた。
パートのおばさんはもっと論外だ。いつも不機嫌で周りの人間にご機
「変えたほうがいいよ」(小説)
お盆になって帰省したはよかったが、実家に帰っても特にやることがなく、朝から途方に暮れていたところ、携帯端末に連絡が来た。
『もしかして地元いる?会わない?』
小学校の同級生の村上だった。
俺はその連絡を受けてすぐに快諾し、夜に村上と食事に行く約束を取り付けた。
「正直、助かったよ。実家に帰ってきてもやることってないのな?実は俺、就職してから実家には寄り付かなくてさ。もう、三年帰ってなく
[小説]今晩は、君に付き合おう。
「もっとこう、何ていうかさ‥ハッピーなかんじにならないもんかなあ?」
おっ、久しぶりに聞いた。ハッピーなかんじにならないかな。これは茉莉(まり)の口癖だった。高三の文化祭の出し物でクラスが揉めた時も、大学のゼミでゼミ生の議論が白熱した時も、こいつは俺の隣でそのように言っていた気がする。彼女、基、長年の友人である茉莉はカルーアミルクが好きだった。俺は近くにいた店員さんにおかわりを注文した。
「
[小説]そうだ、カラオケに行こう!(短編)
今週は最悪だった。
一週間を振り返ると、おかしい人間に絡まれることが多かった。
インターフォンが鳴って玄関のドアを開けると、リフォーム業者が長々と営業を掛けてきたり、散歩をしていると目の前に車が停車して「○○の住所の家知らない?」とおばさんに話しかけられたり、自分の日常が土足で踏み荒らされる感覚に陥る出来事が何度も起こった。
そして、これは仕方のないことなのだけれど、仕事で不快な人間が数多
春、よーいドン!(短編小説)
風が強めに吹いた。少し遅れて、アフロヘアーみたいな桜の木が、さわさわ、と揺れる。宙を舞う薄桃色の花びらが、私の真新しい制服に当たって、地面に落下した。今の時期に、この道を通るのは初めてだ。これからは、毎年四月になると、綺麗な桜が見られるのか。ありがたいなぁ、と思った。
登校時間からだいぶ早い電車に乗ってきたため、周囲には人の姿はなかった。私は再度、桜の木を見上げる。今日から三年間、お世話になり