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小説『明鏡の惑い』第二十章「移ろう時」紹介文

 1997年が始まった。
 シューベルト生誕200年を記念したテレビ番組に、悠太郎は夢中だった。
 凶悪な3年生を送り出すための予餞会では、様々な出し物が演じられる。
 演劇クラブが舞台にかけたアンデルセン原作の《雪の女王》では、芹沢カイがカイを演じる。
 年度が改まって進級したみんなは、榛名湖畔での高原学校に臨む。
 ゲーテの詩によるシューベルト歌曲〈湖上にて〉を、悠太郎は思い出していた。
 中間試験期間中のある日の帰り、留夏子は悠太郎を吾妻牧場碑に伴い、学区外受験の誘いには安易に乗らないよう忠告する。
 夏がまた来る。
 ピアノのレッスンのとき悠太郎は、陽奈子先生の伴奏でシューベルトの歌曲〈水面に歌う〉を歌いながら、夕映えの照月湖を思っていた。
 時の移ろいとともに、湖畔を通り過ぎていった人々のことも――。

https://www.alphapolis.co.jp/novel/703314535/113741973

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