小説『明鏡の惑い』第二十三章「烏川」紹介文
高校受験を明日に控えた悠太郎は、高崎にある和田橋に立って、夕映えの烏川を眺めていた。
激しく吹きつける赤城おろしの空っ風が、その弱りきった体を倒さんばかりであった。
様々なことが思い出される。
冷たい横顔を見せつけるように卒業していった留夏子のこと。
学力試験でのミスを家族に責められ、部屋のピアノに鍵をかけられたこと。
合唱コンクールの体育館練習で裁判にかけられ、吊し上げられて孤立無援になったこと。
株式会社浅間観光の廃業に、頑として肯んじない祖父のこと。
懐かしい紀之から、夢のなかで月光の剣を授けられたこと。
何もかも始まっては終わってゆく。すべてはこの川のように流れ去ってゆく。
思いを定めた悠太郎は、増田ケンポウ社長の霊に必勝を祈願して、最後の決戦に挑むのであった。