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『中銀カプセルタワービル 最後の記録』を読んで

2022年3月1日
『中銀カプセルタワービル 最後の記録』を買って読んだ。

はじめに

コロナ禍にならなければ、2020年の5月か6月に上京して見学ツアーに参加するつもりだった。しかし、緊急事態宣言でその予定は白紙になった。自分の目で、自分の肌でその内部を体感したかった。建築マニアとして。

中銀カプセルタワーと私

中銀カプセルタワーを最初に認識したのはいつのことか、全く覚えていない。ただ、覚えているのは、その時ハマっていた星新一氏のSFの世界そのものではないかと思ってドキドキした。こんなミライな建物が東京にあるのだと思うと田舎育ちのものとしては、『東京=近未来都市』と思い、東京に憧れを抱いた。カプセルタワーから空飛ぶクルマで通勤しているミライの姿を想像するとワクワクが止まらなかった。多くの人が思い描いていたミライのカタチが物語の世界だけでなく、現実に物理的なカタチとして存在していることにいろいろな可能性を感じた。それだけ、衝撃を受けた建物であった。
しかし、東京で暮らしていた時は、近くを通ってもわざわざ見に行くことがなかった。ずっとそこに存在しているだろうから、そのうち、強い興味が湧いた時に見に行けばいいと思っていた。そして、私は東京の空気に慣れず、カプセルタワーを近くでじっくり見ることもなく、心を壊して地元に帰ることになった。
取り壊しの危機が叫ばれて、暫く経ってから、カプセルタワーをじっくり見に行かなかったことを後悔した。
建物も永遠の命ではないのだ。特に日本においては。

メタボリズムとは

中銀カプセルタワーの特異な形態はメタボリズムの思想としてかなりわかりやすい形で表現されている。メタボリズムとは近年よく耳にする「メタボ」と同じで「新陳代謝」を意味する。
古くなったユニット(部屋)を新しいユニット(部屋)に交換して再生され続けるはずだった。これが実際に実行されたのならば、サスティナビリティな建築のモデルになったかもしれない。

感想

私が見たいと思っていた全部屋の様子を見ることができる満足な内容だった。
カプセルに魅せられて生活を楽しんでいる人々、廃墟となってしまった時の止まった部屋。すべての部屋に物語を感じた。ドライで無機質な生活をイメージしていたが、いい意味で裏切られた。コンパクトな空間に各々の世界観を表現している。取り壊しが決まってから、近未来世界を旅してみたいと思ったであろうクリエイター達のインテリアコーディネートが素晴らしい。インテリアコーディネートというより、ひとつのアート作品を見ているかのようだ。空間プロデュースととも言える。カプセルでの生活は創造性を刺激されて無限な宇宙を垣間見ることができたのではないだろうか。それは古の茶人たちが待庵などの狭い茶室に無限の世界を思ったのと同じ思想ではないだろうか。実際にその空間を体感できていないので、私の想像でしかない。
写真を見た後に、松下希和氏の「中銀カプセルタワービル〜半世紀の先へ」を読んで、自分が思った感覚はあながち間違いではなかったと思った。
そして、鈴木敏彦氏の「未来のホモ・モーベンスの住まいとは」は、黒川紀章氏が未来を見据えた書籍を1969年に出版していたとは、知らなかった。ホモ・サピエンスは考えることで満足をし、ホモ・ファーベルはつくることに喜びを感じ、変化の激しい現代においての新しい価値としてモビリティ(移動可能性)があるのではないかと。それをホモ・モーベンス(動民)と名付けている。
現在、インターネットの発達で、移動しながら仕事ができる可能性が生まれて十数年経っている。パソコンがあればできる仕事をしている企業家や早期リタイア生活をしている人は、すでにその生活様式を手に入れている人もいるが、日本の組織に属している人にとっては、考えられないことだった。(日本の伝統や慣習を重んじる会社文化のため)しかし、突然世界を覆い尽くした新型コロナの影響で、腰の重い企業や政府は自宅で仕事できる人は自宅でしましょう。旅先でも仕事ができることをワーケーションと名づけたり、それは最先端な働き方だと声高らかに伝え始めた。こういった非常事態がない限り、移動しながら働くという考えは一般人にまで降りてこなかったことだろう。
黒川氏はこういった世の中になることを予想していなかったであろうことが現実になった。それも中銀カプセルタワービル解体されるカウントダウンの時期に。偶然に過ぎない運命にカプセルの未来を思い描いている文章にも解体の残念さよりも、ワクワクを感じた。
カプセルタワーはカプセルとなって世界に向けて細胞分裂をしていく。そういった保存方法は新鮮であり、カプセル(細胞)の進化・成長をこれから先みていける未来に建築の可能性を感じることができた。世界に広がったカプセルを巡りながら仕事をするホモ・モーベンスツアーがあればぜひ参加したい。それまでに、ホモ・モーベンスな働き方を手に入れたい。

明後日な方向

っと大真面目に書いておいて、通常運行の妄想想像感想も書いちゃう。

もう一冊、この本を購入して、裁断して図面を立体に組み立てたい。そして、そのペーパーカプセルを立体的に組み立ててカプセルタワービルを作りたい。黒ひげ危機一発のようにカプセルを差し込んでいって、ハズレで中銀の塔屋を飛ばしたい。

カプセルタワーの引き出しを作ってアクセサリーなどの小物をしまえたらかっこいいな。

カプセルタワービルのイヤリングやピアスがあったらしてみたい。

それだけシンボリックな建物だと思うし、あれやこれやと想像できて楽しい建物である。カプセルたちの第二の人生の物語を考えると絵本にもできそう。

やっぱり、マンスリーで生活したかったなぁ〜。
それが叶わなかったので、カプセルハウスKに泊まりたい。同じ夢をもつ友達が欲しい。

「ホモ・モーベンス―都市と人間の未来」は読む機会があれば、読んでみたい。


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