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3× 最終話

喜助を捕らえた吉川は興味深い名前を出した。
「赤沼という人物を知っているね?」
喜助は驚いた。「なぜその名前を?」

「私は赤沼を追っていた。あいつも君と同じ猟奇的な殺人者だ。しかし、ある時期から急に殺人が止まった。その時期とは、15年前の篠塚夫婦十字架殺人だ。その夫婦には息子がいた。それがあなたですね。喜助さん」

警察がまさか赤沼のことをそこまで知っていたとは気づかなった。喜助は疑問に思う。何で赤沼を捕まえなかったのか?

吉川は続ける。
「それからどういうわけかわかりませんが、あなたが殺人を引き継いだ。それが、マジシャン殺人。私はその時思ったんですよ。赤沼が帰ってきたと」吉川は少し興奮気味だった。

「しかし、赤沼とは全然違う。あれはあなたの仕業ですね」と吉川は残念そうに言った。
「何でそう思うんだ?」

吉川は呆れる。
「わからないですか?赤沼には正義があった。むやみに殺していたわけではない。悪を殺してきた。だが、お前はどうだ?ただ殺している。ムカついたから殺してる程度の理由だろ?」
吉川は喜助を煽り、さらに演説は続く。
「お前より赤沼の方がよっぽど良かったよ。私はむしろ尊敬すらしていた。悪に罰を与えていたからな。我々、警察にはあそまでできる権利は与えられていない。しかし、赤沼は私に代わって悪を懲らしめてくれた。そんな赤沼を殺したのは、お前なんだろ?」

吉川は赤沼崇拝者なのか?喜助はそう思った。
「…お前、大丈夫か?ほんとに警察官か?」
「お前が質問してんじゃねー」と吉川は拳銃を喜助に向けた。
「なんだお前、赤沼に惚れてたのか?警察官が人殺しに惚れるとは世も末だな」と喜助も煽った。
吉川はそれには応じず喜助に確認した。

「お前が赤沼を殺したんだな?」

それは15年前だった。
現場からスイッチをこっそり拝借した吉川が、そこから赤沼に電話した時だ。
吉川は赤沼が怪しいと睨んでいた。
その後、吉川の先輩も殺された。それも赤沼だと思った。
しかし、赤沼を捕まえようとしなかった。
疑念と確信の間で揺れていた。
彼は赤沼を追い詰めたいという熱意と、同時に赤沼に対するある種の尊敬の念を抱いていた。
赤沼が悪を裁くダークヒーローであるという信念は、吉川の正義感と葛藤していた。

吉川は赤沼にもう一度電話している。
そしてついに赤沼に言った。

「私が証拠を隠滅してやる」

そこからは赤沼整備も電話番号を変えて、赤沼と吉川はメールのやり取りをしていた。だから赤沼には一回も会ったことはない。

「なんでお前が赤沼のようなことをやっている?」
吉川は倉庫を見渡した。
「ここが赤沼のアジトというわけか。…なんでお前がここにいる?」

「ひょっとして私が選ばれたことに嫉妬しているのか?」
吉川は動揺した。
「そんなことを言っているのではない。赤沼とお前では殺しの質が違うのだ」

吉川にそう言われた喜助は静に語った。
「殺しの質ってなんだ?赤沼は正義のために殺しているということか?」
「そうだ。お前は自分の欲求で殺している変態だ」と吉川は返した。

「自分の欲求で殺すことがおかしいか?私に言わせれば、自分の欲求ではないのに人を殺せる方が変態だと思うけどな」
喜助は吉川と赤沼を否定した。
「私は誰のためでもない、自分のために殺す。赤沼に両親を殺された。だからあいつを殺したいから殺す。まあ自殺されてしまったが。確かに私の両親は今思うとどうしようもなかった。しかし、そんな両親を何の恨みも持ってない全く関係ない奴が殺すって。それが正義だとしても、人として狂ってるだろ?」

「黙れ。お前が言うことじゃない」と吉川は銃を喜助に向き直した。
「だったらお前もいうことじゃない」と喜助は動じなかった。

「お前、えらい余裕だな。この 状況わかってるのか?」と吉川は強気だ。「私は別に死ぬ事はとっくに怖くはないんでね」
喜助は小さいからずっと死に対面してきた。殺されそうになったり殺したり。なのでこの言葉には説得力があった。

「じゃあ本当に死ぬか?」
「でもあんたの思い通りにはさせない」

喜助は口の中をもごもごと探した。
しばらくして吉川は苦笑する。
「ひょっとして、これか?」と吉川は喜助にカプセルを見せた。

そして吉川は赤沼ノートをパタパタとなびかせた。
喜助はしてやられたと思った。
解説を始める吉川。
「ご丁寧に、どの歯に入れた方がいいとか、この中に書いてあったよ」
赤沼ノートのそのページを喜助に見せた。
「これは赤沼の字だな。ここが赤沼の拠点だったのか。まあ、とにかくカプセルは先程取らせてもらったよ」

「くそーーー!」喜助は叫んだ。
15年前の悔しさが蘇る。
赤沼を自分の手で殺せなかったあの悔しさが。
あの時はカプセルで赤沼に自殺されてしまった。今度はカプセルで自分が自殺ができない。
また赤沼が笑っているようだった。
いつまで赤沼にいいようにされ続けているのか。

吉川は拳銃の引き金を引いた。

喜助は負けた。
死ぬことが負けではない。
赤沼に勝てなかったことが負けなのだ。
両親の仇も討てず、自分で死ぬこともできない。
私の人生は赤沼に操られていたようだ。

喜助は仕方なしに死を覚悟した。

喜助は目を閉じる。
静寂が喜助の心を休めた。
銃声は聞こえなかった。
それくらい安らかに死ねたのだろうか?

…まだ、意識があるよな。
喜助は薄目を開けた。
その視界は両親が殺されたのを押入れの隙間を思い出した。

吉川の頭にはナイフが刺さっていた。

???

母親ではなく吉川?
吉川は倒れた。
その背後にゆいが立っている。

「ゆい?」

「私は…施設から救ってくれたお父さんが好き」
喜助は初めてゆいの心を聞いた。

ゆいの言葉は赤沼に縛られた人生からの解放された瞬間だった。

ここは薄暗い部屋。
その隅で、男はロープで縛られ、冷たい鮪を切る台の上に放置されていた。

彼の目は恐怖で大きく見開かれている。

喜助はゆっくりと近づき、男に向かって冷酷な笑みを浮かべた。
「今からあなたを、鮪のようにスパンといかせてもらいますよ」

「何をするんだ?」男の声は震えていた。
「ちょっと待ってくれ」と男が懇願する中、喜助はポケットから小さなスイッチを取り出した。
「このスイッチを押すとね、刃が動きますから。緊迫感が出るでしょう?」男は恐怖で身を硬くしていた。

喜助はゆいに向かってニヤリと笑い、「おい、押すか?」と問いかけた。

「うん」

ゆいは無邪気に答え、スイッチを押した。

刃が回り始めると、男は震え上がった。
「おおー」とゆいは興奮気味に叫んだ。

「じゃあ、いくよ」と喜助が言うと、男は必死になって哀願した。
「お願いします。やめてください。」

喜助はゆいに振り返り、「こう言ってるけど、どうする?」と尋ねた。
「どうか、勘弁してください」と男が再び懇願する。

しかし、ゆいは冷静にノートを男に見せた。

「でもね、3バツになっちゃったんだよね」

喜助は首を横に振り、「だそうだ、残念でした」
そして喜助とゆいは声を揃えた。

「レッツ、スパン」

そう言いながら、男を刃に向かって滑らせた。
「ぎゃー」という男の絶叫が部屋に響き渡った。

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