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3× 最終話

3× 最終話

喜助を捕らえた吉川は興味深い名前を出した。
「赤沼という人物を知っているね?」
喜助は驚いた。「なぜその名前を?」

「私は赤沼を追っていた。あいつも君と同じ猟奇的な殺人者だ。しかし、ある時期から急に殺人が止まった。その時期とは、15年前の篠塚夫婦十字架殺人だ。その夫婦には息子がいた。それがあなたですね。喜助さん」

警察がまさか赤沼のことをそこまで知っていたとは気づかなった。喜助は疑問に思う。何

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3× 第十二話

3× 第十二話

夜の倉庫は静まり返っていた。
ただ一つ、外灯がぼんやりと光を放っている。その光の中で、喜助はコーヒーを片手に設計図を眺めていた。

コーヒーをすする度にゆいの思い出が蘇る。

施設で一人で遊んでいるゆい。しかしその姿は寂しいとか悲しいとか、そんな雰囲気はない。ただ一人で熱中している。それが本来の彼女の姿だ。
それを大人が無理矢理、人の輪に入れようとする。
人の輪に入った方が寂しいそうだ。

そんな

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3× 第十一話

3× 第十一話

朝の光がマンションの外観を照らし、静かな住宅街にパトカーが停まっている。

喜助はリビングのソファに座り、窓から差し込む朝日を背にしていた。
吉川は彼の前に立ち、静かに話し始めた。
「ご主人は、朝帰ってきて寝室で死んでいる奥さんを発見したと」
吉川の声は穏やかだったが、その目は何かを探るように鋭い。
喜助はうなずいたが、その手はわずかに震えていた。

「いつも朝帰りするのですか?」
吉川の問いかけ

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3× 第十話

3× 第十話

あの事件の夜、家でゆいはうつむいて座っている。
その前にはマキが仁王立ちで顔を赤くしていた。

そんな状況で喜助が帰ってきた。
「ちょっとあなた、どこに行ってたの?ずっと電話してたんですけど?」とマキは喜助にもチクリと言った。

「あーちょっとな。何かあったのか?」と喜助が言う。
「ゆいよ」マキは視線を鋭くゆいに向けた。

「ゆいがどうした?」
「男の子に暴力」
「暴力?」喜助は疑問に思った。

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3× 第九話

3× 第九話

朝の光が校舎の窓ガラスに反射してキラキラと輝いている。
中学校の生徒たちの賑やかな声が校庭に響き渡り、新しい一日の始まりを告げている。遠くの運動場では、体育の授業が始まる準備で、ボールが跳ねる音が聞こえてくる。

2年3組の教室では、朝のざわめきでいっぱいだ。生徒たちは入ってきては、友達と話したり、笑ったりしている。

しかしゆいは違った。彼女はいつものように窓際の席に座り、外を見ている。
誰も彼

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3× 第八話

3× 第八話

暗闇に包まれた倉庫は、古びた木造の壁と錆びた鉄の屋根で覆われていた。月の光が僅かに差し込む中、赤沼整備のトラックが静かに到着した。

赤沼は倉庫に足を踏み入れ、壁に取り付けられた古いレバーに手を伸ばした。彼がレバーを引くと、蛍光灯が一斉にチカチカと点灯し始め、やがて倉庫全体が明るい光で満たされた。
「入っておいで」

ゆっくり喜助が入って来た。警戒心と恐怖心が混ざりながら。
ただ別に拘束されている

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3× 第七話

3× 第七話

赤沼はコップの水を勇助に頭からかけた。
目を覚ました勇助は、自分も十字架に縛られていることを瞬時に判断した。

「あなた」同じく十字架に縛れている好美が声をかけた。
「修理屋?何のマネだ?」威勢よく勇助は言う。

「さきほど、奥さんに説明したんで、省略させてもらっていいですか?」
赤沼はそういったが、面倒くさいけど仕方ないという表情で説明する。
「まあ、簡単に言いますと、DVの夫に罰を与えるという

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3× 第六話

3× 第六話

赤沼はインターフォンを押した。
しばらくして、喜助の母、好美がドアを開けた。
「赤沼整備と申します」と、赤沼は自己紹介した。
「あ、どうぞ」好美の声は、夫の不機嫌さを予感させるような低さだった。

リビングには喜助と父の勇助が座っていた。
勇助の手には、昼間から空になった酒瓶が握られている。
壁は古びた黄色で、家具は使い古された感じがあり、部屋の隅には未修理のテレビが置かれていた。

「こちらです

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3× 第五話

3× 第五話

まだまだ15年前の話です。
31歳の刑事吉川が登場です。
赤沼が若者を殺害したリビングから始まります。

夜の帳が下りた静かな住宅街を背に、吉川は犯罪現場のリビングに立っていた。
彼の目は冷静に、部屋の中央に横たわる若者の死体を観察している。死体の周りには、鑑識が証拠を探すために忙しく動き回っていた。

「これは、どうやって死んだんですかね?」
吉川の声は落ち着いていたが、その目には犯人を追う決意

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3× 第四話

3× 第四話

夜の静けさを破るように、パトカーがマンションの前に停まっていた。赤色灯が暗闇に光を投げかけ、不穏な空気が漂っている。

村田家のリビングには、若い刑事と鑑識が捜査を進める現場と化していた。彼らの間を縫うように、吉川が入ってくる。
46歳にしては若々しいその男は、現場の異様な雰囲気にも動じない様子だった。

「あ、吉川さん」と刑事が声をかける。

「何これ?」吉川は部屋の中央に置かれたガラスボックス

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3× 第三話

3× 第三話

夜の更衣室は、店が閉まった後の静けさに包まれていた。
篠塚喜助は、他のスタッフと一緒に着替えを終え、帰宅の支度をしていた。彼は料理長に向かって一礼し、「料理長、お疲れさまでした」と声をかけた。料理長も疲れた様子で「はい、お疲れさん」と返した。
喜助は何かを料理長に手渡し、そのまま店を後にした。

料理長が手に取ったのは、辞表だった。

「ちょっと、篠塚君」と料理長が呼び止める声が、喜助の背中に届く

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3× 第二話

3× 第二話

夜の居酒屋の厨房は活気に満ちていた。
フライヤーからは唐揚げのジューシーな音が響き渡り、料理長と村田は忙しく調理をしている。

喜助もその一員として、唐揚げを揚げる任務に就いていた。
この居酒屋の新人は、まず唐揚げを担当する。
このカリカリ唐揚げはこの居酒屋の名物だ。その名の通り、外側のカリカリがお客さんに好評なのだ。

タイマーが鳴り、喜助はそれを止めてカリカリ唐揚げを取り出す。そして盛り付ける

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3× 第一話

3× 第一話

あらすじ
篠塚喜助30歳は殺人者である。自分が許せないと思った人物は殺してしまう。しかし、すぐに殺すわけではない。喜助も我慢はする。その我慢は3回まで。メモを取る。そして×が3つ並んだら殺すのだ。

なぜこんな人間になったのか?それは15年前のこと。赤沼光一郎45歳に出会ったからだった。

喜助は父親にDVを受けていた。母親も父親の味方。それを許せなかった赤沼。赤沼はそういうものを許せない。しかし

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泥棒が詐欺師の日記を見た物語

泥棒が詐欺師の日記を見た物語

『盗んだのは罪悪感』

静かな夜。
月明かりだけが泥棒の唯一の仲間だった。
彼は影から影へと移動し、まるで夜の生き物のように音もなく家々を巡っていた。
彼の動きは猫のようにしなやかで、目的ははっきりしていた。
金品、貴重品、それが彼の収穫だ。

しかし、この夜は何かが違った。
彼はいつものように窓を開け、暗闇に身を委ねたが、心の奥底で何かがざわめいていた。
それは、これまでの彼の人生に対する疑問か

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