メンバーシップ型雇用の崩壊は、リストラ(解雇・人員削減)OKの社会になる?

本人の希望を聞かずに配置転換や勤務地を異動させる辞令を一方的に出すことは、徐々に否定的に扱われるような世情になりつつある。これは、「ジョブ型雇用」と「女性の社会進出」が関係している。

ジョブ型雇用においては、社員一人一人の専門性を磨き上げることが重要だ。しかし、配置転換が何度も繰り返されると、社員は専門性を磨くことができない。

また、女性の総合職が増えたことで、子育てをしているのに、突然遠隔地への勤務が決まると、小学校や塾、中学受験などの計画が狂ってしまう事情がある。昭和や平成の頃は、みんな我慢していたが、それが許容されにくくなっているのだ。

ただし、労働者側は、これを手放しで喜んでいいことにはならない。メンバーシップ型雇用における総合職は、「何でも屋」として雇われている。そのため、不況や競合に敗北したなどの理由で、一つの事業領域や職種が丸ごと無くなった場合でも、企業としては配置転換で雇用を維持する義務があった。これは、判例も積み重ねられており、否定しがたい。

だが、ジョブ型雇用においては、「何でも屋」ではなく「専門家」としての採用であるため、その職務が無くなってしまった場合は解雇が許容されやすくなるのではないか、と言われているのだ。以下の記事を読んでみてほしい。

政府が後押しする雇用の流動化、そのためのリスキリング支援で本当に転職が容易になり、給与も上がるのかは疑問であるが、実は当初から政府のお墨付きによるリストラが増えるのではないかと予想していたが、現実のものとなっている。
その象徴的な事例が資生堂の「早期退職支援プラン」だ。同社は日本事業の抜本的見直しと構造改革遂行のための新経営改革プラン「ミライシフトNIPPON2025」を発表。その中で「持続的な成長」、「稼げる基盤構築」と並ぶ3本柱の1つに「人財変革」を掲げる。そして人財変革についてこう述べている。
「本プラン(キャリアミライプラン)は、資生堂の未来の変革のために、共に取り組んでいく社員、または今回の変革を転機に今後のキャリアを社外で選択する社員、いずれのケースにおいても最適・最善を目指したキャリア支援プランです。具体的には『ミライキャリアプラン』の一環として、変革を共に進める社員への自己革新に必要な能力獲得とリスキリングへの積極投資を実施し、社外で新たなキャリアを目指す社員へは、早期退職支援プランを提供します」(同社ニュースリリース)
会社に残る者、社外で新たなキャリアを目指す社員にとっても「最適・最善を目指したキャリア支援プラン」と謳う。
ただし社外で新たなキャリアを目指す社員、つまりリストラ要員は、早期退職支援プランとして、通常の退職金に特別加算金を支給し、再就職支援サービスも提供するというごく一般的な補償内容にとどまっている。
また、対象者は「現資生堂ジャパン所属社員のうち、一定年齢および勤続年数などの条件を満たす者」(同社ニュースリリース)となっているが、報道によると「45歳以上かつ勤続20年以上」と、中途採用者を除く生え抜きの中高年層をターゲットにしている。

日本人材ニュース

建前では、「社員に選択肢を提供する」と書いてあるが、実態はただの「追い出し」「人員削減」であろう。その証拠に、「45歳以上かつ勤続20年以上」という条件がついている。20年も働けば、その社員が「使える」人材か「使えない」人材か、人事部は十分に判断することができる。「使えない」人材に、おそらくは積極的にこの早期退職プランに応募するよう、面談をするのであろう。

もちろん、労働法が変わったわけではないし、今までの判例の積み重ねもあるため、あまりに露骨な追い出し、例えば「残っても君に居場所はない」などの脅しのような発言があれば、民事訴訟で勝てるだろう。そのため、企業としても円満に退職してもらうために、あの手この手の心理戦をしかけてくるだろう。

私個人の考えでは、人員削減は仕方がないと思う。企業は決して慈善事業ではない。企業は利益を出す、それによって経済成長するのが資本主義社会だ。だが、「人を人とも扱わず、バッサリ切り捨てる」指名解雇などはさすがに反対だ。1日8時間まったく仕事をしないような駄目社員は切っていいが、努力して改善の見込みがある社員には、ある程度は猶予を与えるべきだろう。また、取引先への転籍など、多少は企業側も社員の次の就職先を探すサポートをするべきだと考える。これは、何もサービス精神ではなく、一度に大量の失業者が発生すると、需要が激減し、マクロ経済が落ち込む(恐慌になる)リスクがあるからだ。

いずれにせよ、政府として、令和の時代にふさわしい雇用のあり方を検討してもらいたい。企業側に寄りすぎても、労働者側に寄りすぎてもよくない。中庸を目指すため、企業と労組両方の意見を聞いてほしい。

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