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死ねなくてごめんなさい

それは何も変わらない、普通の日常だった。
周りが18年ぶりのアレに浮き足立っていたそんな日。

なんのきっかけもなく、心が崩れてしまった。

大好きな仕事に行けなくなった
買い物にも行けなくなった
そもそも長時間歩けない
お風呂に入れない
髪も乾かせない
肌もボロボロ
眉毛もヒゲも何もかもムダ毛だらけ
髪の毛も痛みまくってる
《オシャレ》なんて夢のまた夢
大好きだったコスプレももちろん出来ない

ファンクラブ歴10年を超えたポルノグラフィティのライブ、もちろん行けない
チケットは持っていた。電子チケットなので譲ったり出来なかった。
それが奇しくもアリーナの3列目だった。
それをSNSに投稿したら、『どうにかして譲って』と複数のDM
怒りと悔しさとが入り交じり涙が止まらなかった。

日々テレビで映る同じ年頃の綺麗な女の子たち
キラキラに吐き気。
それに比べて鏡に映る汚い醜い怪物
鏡見てまた吐き気。

胸を焦がすような恋も、色鮮やかな夢も
もう二度と手に入らないものになった。

全く効かない痛み止め。
たまにある外出は病院。
数歩で息切れ動悸。
日に日に増していく自己嫌悪感。

全部に見ないふりをしていた。
元気なふりをしていた。
大丈夫なふりを。

大丈夫、楽しいよ
大丈夫、大丈夫。

そしたらいつの間にかコップの中はゴミクズだらけになった。

もちろん療養生活は療養生活なりに楽しみを見つけようとした。
絵を描いたり、エア併せを企画したり。
それを楽しいと思う気持ちに嘘偽りはない。

それでもやっぱり療養前に愛していた物事の輝きには負けてしまった。
大量の光が矢となって胸を射る。
悲しみや苦しみが血のように流れていく。
それを見て見ぬふり。大丈夫、大丈夫。

どうやら大丈夫じゃなくなったらしい。
私の口からは《死にたい》などと物騒な言葉だらけになってしまった。

このまま生きていたって、いいことは何もない。
だって治らないんだもん。
だって苦しいんだもん。

激しい息苦しさと四肢の痛みで
浅い睡眠から目が覚める
ぼやけた頭で醜い自分を見る朝は
酷く辛い。
数時間安静にし、呼吸を整えたらようやく動き出す。
ああ、昨日も入浴できなかった。
体がネバネバする。汚らわしい。

食事も動悸が酷くなるので少しずつ。
何かを気にしながらの食事は味気なく、美味しくない。
医師から処方された薬を飲む。
残念ながらまた、私には合わないようだ。
効果を全く感じない。

四肢の痛み、痺れは片時も離れてくれない。
これがかわいい女の子ならどれだけ良かったか。
頭を切り替えようと食器を洗おうとする。
呼吸、動悸、強い足の痛み
フルコースがお待ちかね。
せめて『人間ごっこ』はさせてほしい。
たのむよ。

食事の後は砂の時間を噛むのみ。
身も心もザラザラ。
輝いているのは窓から射す陽の光だけ。
目に、心に刺さる。
早く過ぎますように。

空腹もないが、正午を過ぎたので昼食。
例により動悸。
不味かったわけでも、苦しかったわけでもないのに、涙が止まらない。

この頃になると猛烈な睡魔が襲う。
それに委ね、眠る。
このまま起きなければいいのに。

起きるとそろそろ夕方。
炊飯、洗濯……人間ごっこをする。
足の痛みが強い時はできない時もある。
勘弁して欲しい。

夕食。
やはり家族と食べることは有意義だ。
動悸を多少、忘れられる。

魔の入浴。
全ての動きが通常の倍ほど疲労する。
プールの中の運動が高齢者に人気なのと同じく。
満足に洗えないまま限界が来て退室。
洗ったのに汚い。
腕も、足もボロボロ。力が出ない。

濡れた髪はそのままに布団に倒れ込む。
自室の掃除なんて全くできない。
できるわけがない。
私と同じく汚くて醜い。

風呂の疲労から気絶するように眠る。
すると足に痛み。起きる。
痛み、起きる。その繰り返し。

そうしてまた、ぼやけた頭で醜い自分を見る羽目になる。

それでも、《緩和》なんだもん。
見て見ぬふり、されるもん。

報道を見る限り世界はコロナ後遺症をなんとも思ってないように見えて、それが日に日に募った。

ああ、いなくてもいいんだ。
だって《コロナ》は邪魔だもん。
楽しいことだけ報道しよう。

『さぁ続いては海外の可愛いわんちゃん映像です』

そうだよね。
可愛いわんちゃん、素敵だもんね。

コロナ?遠い昔の話だもんね。

お前?知らねえよ誰だよ。
全身きたねえ人間なんて生きてんなよ。
肌ボロボロ、髪ボサボサ、ムダ毛ボーボー、服は毎日寝巻き、お前みたいなやつが人間名乗んな。

そうだよね。
いない方がいいよね。

ごめんなさい。


ごめんなさい。

この考えが歪んでいることも
部分的におかしいことも理解はしている。

けれども《死にたい》がこびり付いて離れない。
焦がした砂糖のようにただ苦くて汚い。
甘い部分も確かにあって、そこにそそられてしまう。

黒いべっこうあめを噛んで死にたい。

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