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最期のお花見

祖母は長い長い闘病を《死》という形で終えた。

病室で横たわった祖母の顔には、シルクのような布がかけられていた。
そんなシーンはマンガやドラマでしか見た事なかったのでより深く、直感的に死を実感した。

祖母の息子である父がその布をとると、今にも起き上がりそうな、穏やかな顔で寝ていた。
その顔を見た瞬間、涙が溢れた。

『頑張ったなぁ、お疲れ様』と
父とふたりで声をかけた。

祖母が葬儀場へと向かう道中には
遅咲きの桜がまだかすかに咲いていた。

まるで祖母を待っていてくれたかのように。
薄い桜色が所々に見え、長い春を感じさせた。
きっと桜を見る度に祖母のことを思い出すのだろう。

日は跨ぎ、葬儀場。

私は初めて《湯灌(ゆかん)》を見た。
簡単に言うと最期のお風呂みたいなものである。
私たち遺族も手伝い、祖母は綺麗になった。
ここから更にメイクもしてもらい、本当に綺麗になった祖母を見て、また泣いた。

『お手に触れられるのは最後ですので、どうぞ触れてあげてください。』
そう言われ触ると、ドライアイスで凍った祖母は酷く冷たかった。

通夜も終え、告別式。
通夜では全然泣くこともなかったのに、
いざ棺に入った祖母を見るとまた泣いてしまった。

この姿を見るのはこれで最後。
そう思うと涙が止まらなかった。

生前大好きだった花でいっぱいの棺。
アパートの鍵、ゆで卵、本、写真。
思い出と花が詰まった棺は火葬場へ向かった。

熱中症で倒れた私を助けてくれた祖母。
いじめられた私の辛さを受け止めてくれた祖母。
卵焼き、からあげ、おにぎりを作って正月に迎えてくれた祖母。

優しく、本当に優しい祖母はもういない。
先に他界した祖父も、そして2年前に旅立ったもう片方の祖母にもよろしくね。

ひどく辛かっただろう闘病が長かった祖母。
どうか、向こうでは明るく楽しく暮らせてますように。

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