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BBC対スマイルアップ 

BBCの反論



スマイルアップの抗議に対してBBCが5月3日に声明を出しました。

BBCはスマイル社の抗議文に対しメディアとして明確なスタンスを示しました。

「このドキュメンタリーは、BBCの厳格な編集ガイドラインに沿って綿密に調査され、報道されました」「BBCは、編集上の決定に際して常に慎重な検討を重ねており、東山氏を含むすべての取材対象者が公平かつ正確に描写され、必要なすべての反論機会が与えられるよう配慮しました」と論破するかのように反論しました。

さらに、スマイル社は性被害の補償業務にボランティアで協力している性被害者と、BBCの担当者による面談について、面談の事実や内容については放送しないよう約束を取り交わしたと主張したことについては、「BBCは、SMILEーUP.社が設定したサバイバーとの面談において、その話し合われる内容のいかなる制限にも同意しておらず、同社の主張を否定します」と否定。

そしてこう宣言したのだ。

「私たちは、自らのジャーナリズムに自信を持っています」

この言葉はなかなか日本メディアでは聞けない言葉だと、僕は感じました。

余談ですが、例えば週刊文春が抗議を受けたときは「記事には絶対の自信を持っています」と取材のクオリティについて主張することはあるが、ジャーナリズムを語ることはない。

週刊誌にも週刊誌ジャーナリズムという概念はあるが、芸能から政治まで幅広く取材する週刊誌はことさらジャーナリズムを語らないというのが美徳という空気もあるからだろう。一方で、大手新聞が語るジャーナリズムは説教臭くて好きになれない、という人間も多い。これはイギリスと日本の、ジャーナリズム対する成熟度の違いなのだろう、とも思う。BBCが追及したジャニーズ問題は日本の大手メディアがゴシップとしてスルーしてきた問題である。堂々とそこに切り込みジャーナリズムと宣言するBBCの外連味のなさは、素晴らしい。

もちろんBBCは内部に法的専門家を揃え、記者が問題に突き当たると法務担当と協議するという体制が整っているとも聞く。「とりあえず裁判になるような記事は避けたい」と考える日本メディアとは大違いなのである。余談ついてに語っておくと、メディア裁判の多くは記事の真贋が理由ではなく、相手の都合(番組があるとか、ビジネスとか、時間かせぎとか)により起こされることのほうが多い。だから裁判を気にしたり、裁判対策をしたからといって、裁判にならないわけではないというのが記者としての実感である。

話を戻しまして、今回の記事ではBBCとスマイルアップの攻防について考察したいと思います。


ぬるま湯のスマイルアップ



BBC報道におけるスマイルアップ社の最大のミステイクは、インタビューという真剣勝負の場に東山氏が迂闊に出てきたことに尽きる。

そして、その発言を本音であると記者は捉える。スマイルアップは「なるべくなら誹謗中傷は無くしていきたい」がカットされたと主張していますが、「なるべくなら」という曖昧な言葉なのでカットされたと考えるのが普通です。

まずBBC側の取材意図としては、誹謗中傷で亡くなった人がいるというのが最大の問題点だと考えたはずです。そうしたなかで東山氏は「言論の自由」と口走った。 後に東山氏はメディアで言い訳をしてますが、彼が「断固として誹謗中傷に反対しますし、スマイルアップは当局も含め誹謗中傷に対してはありとあらゆる手段を使って摘発に協力するつもりです」と言わなかったことが全てだと思います。つまり、スマイルアップ社側は誹謗中傷対策に対しては及び腰のままであり、現状も有効な手を打っていないように見える。行動からも誹謗中傷対策への甘さを伺い知ることができるのです。

もう一点は、スマイルアップが用意した被害者面談について、スマイルアップ社は抗議しました。BBCが暴露したことについて約束が違うというのです。

前述したようにBBC側は「合意がなかった」としています。むしろ合意もないのに、スマイルアップ社が面談をセッテイングしてきたことに疑問を記者は持ったはずです。部分的な情報開示には意図があると考えるのが普通だからです。そこで、偽物の話をされたことで、BBC側の問題意識が膨らんだことは、記者がその事実を明かして番組や会見で追及したことからも明らかです。日本メディアのジャニ坦記者とは違い、BBCはガチで来ているのです。おかしいと思ったらおかしい、というのがジャーナリズムです。スマイルアップ社は”寒い事言ってんじゃねえよ”、と個人的には思いました。


続く誹謗中傷



なぜかというと、「偽物」がいると公布することで誹謗中傷を過熱させているからです。昨年10月9日にスマイルアップが「虚偽の話をされているケースがある」と声明を出し、10月13日に被害者のかたが自ら命を絶っている。ジャニーズ問題に限らず、被害者を「うそつき」「虚言癖」と叩くネット世論を、スマイルアップが火に油を注いでいるのです。BBCに対して被害者から語らせようとしたことも「偽物がいる」という話でした。BBCが誹謗中傷問題を重視しているのに、スマイルアップは誹謗中傷を加速させる情報ばかりを出そうとしている。広く被害者を公募をすれば偽物が紛れてくる可能性は当然ある。そこは粛々と排除していけばいいだけの話なのだ。
ところがスマイルアップ社は「偽物がいる」ということを強調してアナウンスしクローズアップしてきた。「偽物がいる」というアナウンスは、ネットでの誹謗中傷を呼び燃え盛るという悪循環を引き起こしたのだ。

スマイルアップは報道を敵対視しています。執拗に抗議を続けるのはジャニーズ事務所を解体に追い込まれた恨みがあるのでしょう。


温存された利権


そして、世界的な性加害企業だったジャニーズ事務所、その後継であるスマイルアップ社は現時点で記者会見で言ったような補償会社ではないことが明らかになりました。

「ファンクラブ」と「レコードなどの版権」をまだ手放していなかったからです。夏には別会社にすると言ってますが、株式は持つという。さらに株式も段階的に減らすと言ってますが、このスキームから見え隠れするのはファンクラブ利権・版権利権を手元に置いておきたいという意図です。

記者会見の説明通りなら、スマイルアップは補償に専念して、ファンクラブ、版権は売却すればいいのです。スタート社の弱いところは、スマイルアップ側から提案を受けて新会社を設立したところにあると僕は思っています。スマイルアップの意向に本当に逆らうことが出来るのか、衛星会社ではないのかという疑念が拭えないのです。

本来であればジャニーズ事務所は、その犯罪性の重大さを考えると精算・解散するというのが最も適切な処置であったと考えます。
仮に事業継承をするならば創業家の影響力を完全に排除するために他社が買い取るべきだった。投資会社などを巻き込んでジャニーズ事務所を買い取るというスキームを作ればいいわけです。

補償が遅々として進まないなか、スマイルアップの利権が温存されることばかりが優先されるというのは、まったく釈然としない状況です。


東山社長とファンクラブ


東山社長のグダグダした物言いは、ファンクラブ問題とも密接に関わっていると思います。当初の話とは違い、FCである「ファミリークラブ」スマイルアップ管轄のままとなっています。つまりスマイルアップは補償業務と並行してファンクラブ運営も行っているといことです。このまま東山氏が厳格な行動を起こそうとしないのは、スマイルアップ内の「利益相反」があるからではないと疑われている。つまりファンクラブのなかに誹謗中傷をしている人がいる可能性があるから、誹謗中傷対策に後ろ向きなのではないかとも見られても仕方がない状況だと言えます。

ジャニーズ問題は日本病の際たるものだと言えます。問題があっても見て見ぬふりするメディア。目先の利益に汲々とする人たち。中途半端な改革に終始する問題企業。強者に弱くさっぱり動こうとしない当局。自由に活動できないタレントたち。
改革力が弱く時代がいつまでも変わらないということを”日本病”とするならば、まさにジャニーズ問題は日本の宿痾そのものです。


6月には国連の報告がある。はたして世界はスマイルアップの動きをどう評価するのか。今後の動きにも注目をしていきたいと思います。

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