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スマイルアップ補償の致命的欠陥


法を超えない補償

11月から始まるとアナウンスされている、スマイルアップの補償ですが。早くも致命的な欠陥が明らかになっています。致命的欠陥のお話をする前に、ざっと経緯と問題点を振り返ってみましょう。

9月の記者会見で、新社長の東山氏は被害者に対して「法を超えた救済」をすると強調しました。ところが、フライデーが報じた補償システムはマックス500万円レベルと法を上回るどころか、下回るレベルだという批判を受けています。しかもスマイルアップ社が設置した被害者救済委員会は、元裁判官の弁護士3人で構成されており、その手法も過去の判例などをもとに補償額を算定するというもの。東山氏の言葉とは裏腹に、被害者を裁こうというのが被害者救済委員会の手法だということが出来るでしょう。

その手法も極めて事務的です。被害者が専用フォームに、氏名や在籍時期などの個人情報を記入し、具体的な被害内容やその影響などについて書いてもらうという方法となっています。トラウマの告白をいきなり書かせるのはあまりに事務的であり、おざなりだといえます。

一年間で復活の目論見

実は内部からもスマイルアップ社のおざなりな手法は問題になっています。

11月1日に共同通信が『心のケア「期間区切れない」 ジャニーズ性加害相談室の鴨下氏』という記事を配信しました。これは補償とは別に、スマイルアップ社が設置した被害者向けの外部機関「心のケア相談室」の問題を報じたものです。同室の監修を行う元環境相で心療内科医の鴨下一郎氏が、「事務所側から相談室の開設期間は1年間と伝えられた」と明かし、「とても1年で区切れるような簡単なことではない」との疑問の声を上げたのです。

1年間……。この1年間という区切りについて、ご記憶のかたも多いかと思います。CMが次々と打ち切られ、やることなすこと批判だらけというなかで9月13日に事務所が慌てて公表した対応策が「今後“1年間”、広告出演並びに番組出演等で頂く出演料は全てタレント本人に支払い、芸能プロダクションとしての報酬は頂きません」というものでした。性加害問題は50年以上続いていたと言われています。そのなかで1年と区切る意味はなんなのかと紛糾しました。事務所側は1年も経てばほとぼりが冷める、復活できると考えているのではないか、という疑念が残る対応だったのです。

被害者を救わない矛盾

全体的に問題を矮小化しようとしている、甘く見ているというのがスマイルアップ社の対応です。補償体制の致命的欠陥とは何かについて説明したいと思います。

補償は第三者機関である「被害者救済委員会」で行われ、元裁判官などが対応するということは先ほど説明しました。本来であればジャニー喜多川氏に性加害を加えられた全ての人が対象になるべきであるのに、そうはなっていないというのが致命的欠陥なのです。

 ジャニーズ事務所に所属外、所属する前の少年もジャニー喜多川氏から性加害を受けていたという報道が相次いでいます。服部吉次(よしつぐ)氏の被害告白、甚野さんの記事の他事務所のタレント被害者など、ジャニー喜多川氏の性加害被害者は事務所に止まらず広範囲にわたっています。
NHKは今月9日の報道番組で、およそ20年前、NHKの番組への出演を希望していた男性が、局内のトイレでジャニー喜多川元社長から複数回、性被害に遭ったとの証言を報じました。フラッシュでも同様の被害を訴える男性の記事が出ています。いずれもレッスンに参加しただけなどの、非ジャニーズの男性です。

 非ジャニーズの被害者は被害者救済委員会からどのような対応を受けるのか。筆者が提供を受けた被害者と被害者救済委員会のやりとりを記したメールを参照しながら解説したいと思います。

まず、委員会の定義を紹介します。

#被害者救済委員会は 、ジャニーズ事務所からは独立した機関として、ジャニーズ事務所(令和5年10月17日以降は 株式会社SMILE-UP.)のタレント・研修生として所属していたことがある方、または、現在所属している方を対象に、ジャニーズ事務所が申告者に支払うべき補償額の算定を行っております。

では、被害者に送られるメールの内容を見てみましょう。
*****メールの内容*****

当委員会では、申告された方がジャニーズ事務所に所属していたかどうかの判断は行っておらず、所属の確認についてはジャニーズ事務所が行っておりますが、ジャニーズ事務所において上記に該当しないと判断された方につきましては、当委員会では取り扱うことはできず、ジャニーズ事務所において直接対応いただくことになります。

(後略)―――――――――――――――――――――――――――――――
被害者救済委員会事務局
 受付時間 平日9時から18時
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このメールの内容は、被害者救済委員会は、ジャニーズ事務所所属者にみの救済しか行わず、所属外の被害者はスマイルアップで対応するということを説明しています。最後のメール署名を見ても、担当者名もないメールというのがわかると思います。責任者不在の対応であるということも特徴の1つといえそうです。

つまり委員会が言っていることは、ジャニーズ事務所所属資料があるなら出せ、所属してないならスマイルアップと話をしろ。とうことです。他の被害者のかたに聞いても文面はほぼ同じでメール自体が”コピペ”じゃないか、とも言われています。

そしてジャニーズ外の被害者ははたらい回しにされ、SMILE-UP.社からの連絡がその後まったくないまま時間だけが経過している、というケースがほとんどだと言います。

全容解明調査の重要性

ジャニーズ事務所は9日、公式サイトで「被害者でない可能性が高い方々が、本当の被害者の方々の証言を使って虚偽の話をされているケースが複数ある」として報道機関に対して「十分な検証を」と求めました。しかし、どの例が虚偽であるとの根拠は示されず、おそらくはジャニーズ事務所所属していない被害者のことを指しているのではないか? とも想定されています。

しかしですね、90年代の性加害報道時から事務所は検証もせず、性加害は事実じゃないスタンスだったわけです。事務所所属外の被害者がこれだけ出ているなかで、その検証を早急に行わないというのは大きな怠慢であり、事件の矮小化です。被害者救済委員会といいならがら、一部の被害者の救済しか行わないというのは、致命的欠陥と言わずに何といえばいいのか。

10月30日に、プラド夏樹さんというかたが、フランスカソリック性暴力事件の例を記事で書いています。

同事件も多くの未成年男子が被害者となった、ジャニーズ事件に類似した事件として知られています。フランスカソリック教会司教会議の要請で「性暴力に関する独立調査委員会」が設置され、2年半かけて2500ページの報告書が出された。調査はメディアを通じて証言を募り、調査員は被害者の居住所に出向きヒアリングを行ったそうです。

一方でスマイルアップはどうでしょうか。調査報告書どころか全容調査もなし。被害者はネットに書き込めというおざなりな対応で、1年間でことを終わりにしようとしている有様です。CM企業が離れたからという泥縄式の対応だと批判されても仕方ない。

これは以前もお話しましたが、ジャニー喜多川氏による性加害事件は全容解明調査が必要です。なぜかといえば全容解明を行わなければ、問題の把握と反省を正確に行うことができず、社会として前に進むことできないからです。

おそらくスマイルアップは全容解明調査を行わないでしょうが、もし全容解明調査を行うのでれば、調査委員には裁判官だけではなく、メディア、被害者などを加えた多様なチームであるべきです。これは取材記者ならわかると思いますが、証言を集めているうちに、一定の法則が見えてきて、ディテールを掘り下げることで真実相当性のポイントが見えてくるものです。仮に虚偽の被害者が週刊誌記事を模倣して話をしたとしても、ヒアリングサイドに蓄積があり、調査官が裁判官、メディアなどの複数チームで構成されていれば、それぞれの視点から真実相当性を図ることはある程度可能だと思います。

全容解明することで、はじめてどこまで補償すべきという全体像が見えてくるということになるのだと思います。

致命的欠陥を是正することができるのか。スマイルアップ側の対応が注目されます。

(了)

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