日記0447あるいはRe;解
「突汁?」
よく見ると追突注意の文字が隠れているだけだった。こういうクダラナイギャグに、あの女ならゲラゲラ笑ってくれただろう。
「どうも、あの女です〜」
「あ、あの女!」
あの女、と呼んでいるのは名前を知らないからだ。あの女と呼ばれたい、という本人きっての願い。それにより、私は10年来の仲ながら“あの女”の名字も名前も知らない。
「突汁とかキモいこと言ってんね〜」
語尾全てに「〜」を入れるような、独特な間を持った話し方。本人曰く「不機嫌なことバレたくなくて〜。擬態〜」とのこと。
「電話鳴ってるよ〜」
「ん?」
私はスマホを取る。それから緑の受話器マークをスライドさせた。
『もしもし、お世話になっております。ハイグレードコンサルティングの最上です』
気の遠くなるほど長い説明をされた。その間に電車が三本流れ、あの女は三本目に乗って帰った。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?