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【エッセイ】 パウンドケーキとの約束


朝、1番によもぎを摘みに行くと決めて

手にいっぱいのよもぎを持って帰って来た

気乗りしない作業に着手する時

そんな時は、作業の傍のご褒美おやつみたいに

好きなように過ごし、頭と心を軽くしてから取り掛かる

頑張ってを込めて作る
甘くて苦いパウンドケーキとの約束



よし、パウンドケーキを焼こう

そうしたら頑張れると
パウンドケーキを食べながら仕事に取り掛かる姿を思い浮かべて

ボールとはかりとハンドミキサーを取り出す

こうして朝、摘んできたよもぎがパウンドケーキになるまでは
家事の片手間のあく抜きやら、撹拌やらを刻み刻みにしながら半日後

帰宅後のよもぎを洗う作業をして、湯掻きながら昼食の準備

水に浸している間に昼食を食べ

ご馳走様をしてからは、1本映画を見終えて

すっかり映画の世界に浸り込み

気持ちがいいまま
心地良い空気に流されながら映画の主人公の心境を気取ってケーキを作る

いつだって私の欲しいものは、心と頭の空っぽ具合

だらりと気が抜け、気分が良い時ほど大切な言葉がどこからともなく降りてくる

そのための努力とやらは、日常で1番大切にするほど

そのためだけに、早朝から森に行き
山菜取りをしながら
孤独に浸る


小さな悩み事は、時に全てを支配し
本当に大切なことを見失わせてしまうから
今こそすべきことがあるなんて時ほど、この心地よさを1番に大切にしている

ー久しぶりに良い映画を見たよ
本当に良かった

作中で子供の頃を思い出し涙が溢れて来たりして
それもまた、デトックスだと思いながら見たのよ

ー子供の頃に、暗い部屋でひとり眠れない夜は
部屋の窓を飛び出して
家から少し離れた家と、そのまた少し離れた家の電気がついた部屋で語り合う人たちをおもいうかべていたんだよ

きっと、あの時の怖いという感覚はまだここにあるのだろうなんて思うと涙が出て来て
ひとりぼっちで越えてきた時間を誇らしくも悲しくも思う

知らず知らずのうちにこびりついてしまっている恐怖とか、不安とかは
こんな風に、いつの間にか癖のようになって自分にくっついて来たのだろう
それらが、こんな1日に受け取ることができる何かを曇らせてしまうように感じたりして

そんな心に必要のない汚れがこびりついてしまっている時ほど、こうして心地良い何かを思い出すように暮らすのだ

重たい作業、新しい事柄に着手すること
人生では、ヨイショと小さな気合いを入れて取り組むシーンが数々ある

そんな時はどうしたって自分が軽くないと出来ないもの

泣いたり笑ったり、風に煽られるカーテンを眺めたり
だらりと体をもたげて映画に浸ったり
自分のためにお菓子を焼く

何もない場所に行き

軽くして、もっともっと軽くして

そんな軽い時間から作られていく恩恵を頬張り
また、よしと声をかけ動いてみる

体も心もいつでも軽くできるもの
そのためにできることはなんでもしてみるといい

きっと肌に馴染む何かが見つかると、少し日常が豊かになると
そんな気がしている

今日のもう一つのごほうびは
余らせておいたよもぎでよもぎ風呂

最後の最後まで、心地よさをいただいて今日を締めくくる



ー素敵な映画のご紹介ー

今回、私がぼんやりと見た素敵な作品

『川っぺりムコリッタ』
自身が大好きな荻上直子監督の作品です


癒されながらも、深く熟考できる
そんな私の理想をこれでもかと叶えてくれるのが荻上直子監督の作品

荻上直子監督の作品を語る時には必ずこんなイメージをするんです

『雲で出来た少しリクライニングしたソファで
決して足を地面から離すことなく土踏まずまでベッタリくっつけて
しっかり踏ん張っている』

見てもらったらわかるかも...


少し怖くて、面白くて
人生の終わりについて考えさせられる映画でした

人生には終わりと始まりが混じり合うグラデーションのような
気水域のような時間があると思うのですが
私はこの作品からそんなグラデーションの時間の良さを味わわせてもらったように感じます

そして、この映画を見てふと思ったこと一枚の作品に

ああ、自分は孤独ではないのかもしれない
孤独ではなく、それが遠くにあり
未だ出会ったことがないだけなのかもしれないと

映画を見て感じてくださると嬉しいですね


▼過去に荻上直子監督の作品の記事を書いていたりします



akaiki×shiroimi

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