見出し画像

妊婦あるある:クセ強悪夢

人間は、与えられたレールの上を進むしかない。

妊娠して熟睡できなくなったのか、夢を見ることが多くなった。

あのアイドルとデートしたり、あのアイドルと同級生になったりと、自分に都合の良い夢もたくさん見たが、これまでに3回、悪夢にうなされ号泣しながら起きたことがある。

初めての悪夢は「魔性の女に夫を取られる回」。
夢の中で、夫が田中みな実様とチュッチュしていた。
「まず、なんで田中みな実と知り合いなの?」
「いやいや、夫が田中みな実と恋仲になれる訳ないない」
などと、現実では即座に浮かぶ疑問が夢の中では完全にスルーされ、私は田中みな実様に「やい!お前ー!!」と猛突進していった。
夢から覚めて、夫の心が私から離れるという夢の中での体験に涙が溢れたが、一方自分が下の上の女だということを棚に上げて魔性の女・田中みな実に立ち向かっていったことを思い出した。勝てる訳ないじゃないか。
好戦的な自分の性格がこのときばかりは少し笑えたものだ。

なぜ私がこんなにも容姿で自分や人を見るのか、その理由はきっと母にある。
いや、絶対、母だ。

いつか赤井いくらの名が知れてこのエッセイに母が目を通すことになった場合を想定し、とりあえず言うが、
私の母は綺麗だ。
こう言っておけば彼女の機嫌を損ねることはないだろう。

本音を言えば、ちょっとだけ綺麗だ。
結婚式で友人たちが「お母さん綺麗だね!」と褒めてくれる、そんなレベルだ。
芸能人レベルではない。
聞いているか、母よ。いつもの仕返しだ。

「仕返し」というのも、母の私に対する評価はいつも手厳しい。
私は一人娘で、母や母の家族から大きな大きな愛情を受けて育てられた。私も家族を愛している。

母は口癖のように言う。

「うちのいくらちゃんが世界で一番かわいい。本当にかわいい」

愛だ。愛でしかない。
しかし、その後に必ず言うのだ。

「あ、かわいいっていうのは私があんたの親だからよ。世間から見れば普通。勘違いしないで」

と。
いや、どんな母親だい!!
悔しくて悔しくて言い返したいのだが、学校やその他習い事のコミュニティでの自分の扱いを客観視すると、この母の言葉がしっくりきてしまうのである。

母と、もし自分の容姿で1箇所だけ変えられるならどこを変えるかという話になったことがある。
私は髪質と答えた。
「え?目じゃなくて?(笑)」
綺麗な二重瞼の母が一重瞼の私に言った。
いやいやいや、コンプレックスじゃねぇし!

母を酷いと思う読者の方もいるかもしれないが、母の言い方と間がいつも完璧に面白いので私も笑いながら許してしまうのである。
笑いの英才教育だけは、母は自信を持っていいと思う。
ただ、私のこのルッキズムの権化のような性格を生み出したのは間違いなく母であろう。

2回目の悪夢は「バレエの発表会直前に美人に役を取られる回」。
夢の中で子どもの頃に通っていたバレエスタジオの発表会にゲスト出演することになり、張り切っていた。しかし、前日のリハーサルで先生に降板を告げられ、踊りの下手くそな美人に役を取って代わられたのである。

3回目の悪夢は「魔性の女に夫を取られる回②」。
今回夫を略奪してきたのは、整形ごりごりギャビギャビ女だ。
さすがに黙っていられなかった。
田中みな実→バレエ下手くそ美人
までは許せた。
なぜならナチュラル美人だから。
だが、整形女は許せない。
なぜなら彼女は本来私と同じ星の下に生まれたはずだから。

諦めろ!!諦めろよ!!
生まれてきた顔のまま挑めよ!!
私は夢の中で整形女にそう叫びたかった。
ただ、この好戦的な性格が故に、私は気づけば硬いタオルのようなもので整形女の整形鼻を下から上から交互に撫で回して攻撃していた。
現実なら警察沙汰だろう。


私は美人ではないが、仮に整形したあとの私よりは今の私の方がかわいいという自信があるのだ。
しらんけど。

人間は、与えられたレールの上を進むしかない。
与えられた顔で進むしかないのだ。
本当はバレリーナにもなりたかったし、キラキラアイドルにもなりたかった。
ただ、この顔である。
文章というお面で顔を隠し、有名になってやろうではないか。

いやはや、妊婦にはマイナートラブルがつきものだ。


#赤井いくらはすじこ派
#エッセイ
#日記
#妊婦
#あるある
#悪夢

この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?