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コーチを続ける原動力となった体験

2001年からプロコーチとして活動を始めてから、かれこれ20年以上経ちました。
「長く続けてこれたのはどうしてですか?」
時々、コーチ仲間からそう聞かれることがあります。

「いや、本当にクライアントさんのおかげですよ」
そう答えるとき、いつも、あるセッションのことが脳裏に浮かびます。


あれはプロコーチとしてまだ2年目のときのことです。
お世話になった方からの紹介で、ある2代目の経営者の方をコーチングすることになりました。

父親が創業した会社を継ぎ、自らの手で全国展開するまでに会社を大きくしたとってもやり手の経営者。
普段は、会社をどうしたいかや社員さんとどう関わっていくかといった仕事のことをテーマにコーチングをしていました。

ある日のこと、いつも前向きで愚痴一つ聞いたことがないそのクライアントさんが珍しく、「ふーっ」とため息をつかれます。

「何かあったんですか?」と尋ねると、
「う~ん」と、奥歯にモノが詰まったように話しにくそうな返事が。

「いや、会長とね上手くいってなくて。でも、こんなこと話しても愚痴にしかならないしね。」
「もし良ければ、聴かせてもらえませんか?  コーチングは何でも自由に話せる場なので」
「じゃあ・・・」

父親である会長が、ことあるごとに自分のやろうとすることに口出ししてくること。
それが何事においてもそうなので、鬱陶しくて仕方がない。
だから会長とはなるべく話をしたくない。

「親父はオレのことが嫌いなんだろうね」
「オレの成功を妬んでいるだろうよ、きっと」

そう突っぱねたように話すクライアントさんに、考えるより先に思わずこう言いました。

「本当にそうなんでしょうか?」
「会長は、上手くいってほしくないと本当に思っているのでしょうか?」

「いや、上手くいってほしくないとは、思ってないだろうよ」
「じゃあ、会長は本当はどんな気持ちなんでしょうか?」と、私。

しばし沈黙が流れたあと、ぼそっと一言
「失敗してほしくないと思っているんだなぁ」

そして、また沈黙が続いたあと、
「親父はオレに失敗してほしくないんだなぁ。だから、だから、口うるさく言ってきたんだなぁ... そうだったんだ...」

電話口から聞こえるその声は、微かにふるえていました。
私の胸も震え、目から温かいものが自然とこぼれ落ちてきたのです。


それから2週間後のセッションで、こんな会話がありました。

「あの後、僕から会長にね『展示会に一緒に行かないか』って、声を掛けることができたんだよ。会長は相変わらず色々口出ししてくるけど、それが愛情表現なんだと分かったら、もう気にならなくなってね。」
「そうだったんですか。」
「それだけじゃなくて、子供が『パパ、パパ』と言って懐いてくれるようになってね。」
「それは嬉しいですね。」
「妻も、『あなた、なんだか優しくなったね』って言ってくれたんだよ。」

そう嬉しそうに話してくれたクライアントさんの声は、10年以上経った今でも鮮明に思い出すことができます。

「こんな体験を多くの人と分かち合っていきたいんだ!」

このセッションでの体験が、私にコーチングの持つ力と可能性を実感させてくれるとともに、コーチングを続けていく原動力となったのです。


 

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