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3年朝日

長女が高校生の頃
宮沢賢治みたいに今日は西、明日は東と
東西南北遠征して登校前に二人でチャリで
河から昇る朝日を二人で見に行く友達がいた

夜もまだ明けきらぬうちに
真っ暗闇の中を女子高生二人が
河に向かってチャリを走らせるというのも
なかなか青春だなあ
なんの意味があるのかよくわからないことを
ふたりでやっているのが微笑ましかった

そんなバカを一緒にやってみようとする
感性の響き合う友達が近くにいてよかったなあと


大学生になった今も付き合いのあるのは
軽音部のメンバーと朝日ちゃん
最大公約数というのか
同じクラスという箱にたまたまブチ込まれたのではない子とだけ
最初から付き合っていたのかなと思う

我が家では朝日ちゃんと呼んで、本当の名前は何だったのか
今も知らないのだけど

その朝日ちゃんは絶賛3浪中だった
天下に誉れ高い東京藝術大学の美術を志望していて
四人兄弟の長女だから自分がトップバッターで
学費で家計を食い尽くす訳にはいかないと
私大にはいけないと現役の時から藝大一本だった

毎年桜散るの知らせを聞いて
残念だったねと言いながらも
天下の藝大
ふつーの進学校のふつーの家庭の女子で
ちょっと無理なんじゃないかなんて心の何処かで思いながら
多摩美なら行けるんじゃねなんて失礼なことを
それは多摩美に対しても朝日ちゃんに対してもだけど
思ったりもして
口には出さなかったけど心の何処かで
諦めるってことも必要なんじゃないかな
なんて思ったりもしていた

ところに

今年の春の東京藝術大学が狭い門扉を彼女に開いて
サクラサクの便りに

うわーすっごい朝日ちゃん
諦めてなかったんだね やったね すごいねと
我がことのように小躍り大喜びして
誰かが頑張って夢を叶える姿が周りの人をどれだけ励まし
勇気づけるのかと実感した。

というのも長女が絶賛就活中で暗中模索な日々を送っているのだけど

自分がやりたいと思うことを叶えようと思うのなら
その道がどんなに険しくても諦めたらそこでジエンド
終わりなのだと

終わらせたくないのならやり続けることでしか
叶うこともないのだと
3年間石の上で臥薪嘗胆
同級生たちがキャンパスライフを謳歌しているのを後目に
足踏みし続けた日々がどれほどの地獄だったかは
想像したってわかるわけなんかない

けど

朝日ちゃんがそうやってきたことを知っている自分だから

朝日ちゃんの3年に比べたら
自分が今就活で一年仮に棒に振ったとしても
そんなのたいしたことないと思えると
簡単に叶うはずのないことにチャレンジしているのだと
甘いことを思うなと
表現という長い道のりを行くのだから
少なくとも三年頑張った友だちがいるのだから
自分も三年は頑張らなくちゃいけないと思うし
安直に思うような結果を手にできないことで
落ち込んでなんかいられないと

お祈りメールにも一日へこたれてたけど
就活じゃなくてこれは人生なんやと腹を括ったみたいで
ナニクソって気持ちを切り替えていた

石の上にも三年と言うけど
「朝日は三年」が我が家の金言格言に加わり

就活に対する思いも見方も
朝日ちゃんが神々しく塗り替えてくれた

親心で思わないことがないわけじゃない
けどじゃあ楽して儲けて欲しいのかって言われると
そうじゃあないんだけど
苦労しないでほしいなあ
理系のカードで報酬手に出来る仕事もあるんじゃないかと思ってしまうけど

彼女の手にするのは彼女の望むものでなければならない

追い続けた人にしか夢を叶えることもできないし
それでも夢が叶うかどうかの保証もないけれど
そう願い続けて思い続けることが
夢への片道切符なのだと

朝日ちゃんの姿に励まされた長女の背中が
誰かの背中をまたそっと押していくのだと思うし
一生のうちの一年や二年本当に大したことないし
50歳って言い張ってる赤毛もそういやもうすぐ52歳だし笑
一年くらい誤差誤差と大風呂敷を広げる夜に




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